屋代線紀行(29) 乗り納め編

蕎麦屋のお茶で一服し、おもむろに旅程表を眺める。時刻は14時を過ぎた所である。まだ日没までの時間があり、最後に純粋な乗り鉄で屋代線を数往復し、この旅の締めにしたい。会計を済ませ、再び、松代駅西側の市営駐車場に駐車し、駅に向かおう。昼下がりの松代駅は静かに佇み、小さな女の子が、母親と電車を見にやって来ている。これも、のんびりとしたローカル線の微笑ましい光景である。


(昼下がりの屋代駅に戻る。少し雲が出てきた。)

正面出入口上に掲げられた青色の駅名標は、一度見ると、とても印象に残る。先程、立ち寄った造り酒屋の広告が入った電光式であるが、夜間点灯はしていない。


(電光式駅名標と電車を見に来た小さな女の子。)

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
【最終乗車経路1】
◆→折り返し乗車。長電フリー乗車券利用の為、そのまま折り返し。
全て、長野電鉄3500系O1編成(2両編成)、車番(屋代方+須坂方)3531+3521。

松代1447==下り417列車==1501屋代◆1513==上り418列車==1549須坂◆
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

改札を通り、構内踏切を渡って、下り屋代方面の2番線ホームに向かう。空はまだ明るいが、雲とやや強い風が出てきており、体感温度も下がる。どうやら、緩やかな下り坂の天気らしい。


(2番線からの駅舎。)

遠くの踏切の警報音、駅の構内踏切、接近警報機が順に鳴り、屋代行き電車がやって来る。幸運にも、屋代線専用のトップナンバーO1編成(車番3531+3521)である。この松代駅は有人駅なので、全てのドアが開き、数人の乗降がある。車端部のメーカープレートを確認すると、昭和38年(1963年)の製造で、今は無き老舗鉄道車両メーカーの東京汽車製造になっている。


(屋代行きO1編成から、観光客らしい乗客が降り立つ。)

大きなエアー排気音とガラガラと音を立ててドアを閉め、定刻に発車。なお、車両床下のコンプレッサーで作られる圧縮空気は、メインのブレーキ圧力伝達の他、ドアの開閉装置、パンタグラフ昇降装置や警笛にも使われている。その為、ドアの開閉時にも、エアー排気音が聞こえる事があり、古い車両は音が特に大きい。

締めの通し乗り鉄なので、撮影やメモはせず、本来の乗り鉄に徹しよう。懐かしいモーター回転上昇音や独特な短尺レールのジョイント音を刻むのを楽しみながら、屋代方に走って行く。また、最新形電車には無い、スプリングが良く効いた厚ぼったいシートが上下に揺れ、ヒーターの熱がシートを通じてじんわりと昇って来るのも、心地良い眠気を誘う。

時刻は15時近くになり、学生、買い物等の帰りの地元住民や観光客が増えてきた。折り返しの屋代駅からの乗客は少ないが、大きな観光地である松代駅から、須坂方面への帰りの観光客が大勢乗り込み、日中よりも車内は賑やかになっている。上り列車・下り列車共に、40人位の乗客である。松代中心部の住宅地を抜けると、右手に大きな白い崖が見える山裾脇を、真っ直ぐに走る。金井山の大カーブを曲がり、大室駅付近の大きなアップダウンとふたつの短いトンネルを過ぎ、平坦な広々とした田園街風景の中を気持良く快走する。

綿内駅で列車交換をし、そのまま大勢の乗客を乗せて、15時49分に終点の須坂駅に到着。乗客は各々、改札口や隣の長野方面ホームに向かって行く。約40分後の折り返し待ち時間に、特急「ゆけむり」と「スノーモンキー」の列車交換があるので、記念に撮影しておこう。


(16時23分、下り13B列車B特急・1000系「ゆけむり」信州中野行き(左側1番線)と、上り14A列車A特急・2100系「スノーモンキー」長野行きが、列車交換をする。上り長野行きが先発、下り信州中野行きも、警笛を鳴らして続いて発車した。)

(夕陽が、ふるつわものの車両達を照らす。手前ホーム側から、折り返し屋代行きの長野電鉄3500系O1編成、2000系A編成、10系OS11編成。)

(車両区電留線に留置される長野電鉄3500系N5編成。N編成は本線で運用されている。夕陽に照らされたコルゲートの明暗が美しく、うっとりと見入ってしまう。この編成は、冷房化されているが、冷房化されていない編成もある。)

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
【最終乗車経路2】
◆→折り返し乗車。長電フリー乗車券利用の為、そのまま折り返し。
全て、長野電鉄3500系O1編成(2両編成)、車番(屋代方+須坂方)3531+3521。

◆須坂1635==下り421列車==1714屋代◆1727==上り422列車==1740松代
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

夕暮れ始めた中、須坂駅16時35分発の電車が、屋代に向けて折り返し発車する。乗客は30人程、途中の若穂駅に着く頃には、陽が山際に入り、急速に暗くなる。また、小さな無人駅である若穂駅で、かなり大勢の乗客が降り、意外さに驚いた。この周辺は、長野や須坂のベッドタウンらしい。

この先、車内は閑散になり、途中の松代駅でも数人の乗降客のみで、10人から15人程度の乗客数になる。どうやら、日没後の夜間になると、利用客が激減する感じである。そして、雨宮駅付近を走行中の17時10分頃に完全日没になり、少し薄暗い照明の屋代駅5番線ホームに17時14分に到着。人気が無く、少し薄暗いホームは、更に侘しさが増している。

乗客は運転士に運賃を順に支払い、木造跨線橋の階段をコツコツと登って行く。折り返し待ちの間に、木造待合室から車両を眺めたりしよう。


(17時14分に屋代駅5番線に到着。)

(待合室から電車を眺める。)

13分後に折り返し発車になり、17時40分に松代駅に到着し、下車する。全線の1往復と屋代駅から松代駅間を1往復して、この屋代線の旅も終わりにしよう。ホームには、ひんやりとした夜風が吹き、信州の晩秋らしくなっている。30分間程、夜のホームや待合室のベンチに佇んだ後、すっかり顔馴染みになった駅長氏に、連日のお礼と駅長氏へ長年勤務の労いの言葉を贈ると、感極まった様子であった。また、硬券入場券を記念に購入し、2日間使った長電フリー乗車券も訪問記念に貰って帰る事にする。

「入鋏(にゅうきょう※)をするかい」と駅長氏に聞かれ、入れて貰う事にする。この入鋏を実施する駅も、今では少なくなった。昔、うちの近くの国鉄駅では、若い改札係が改札口での待機中に、「タンタン、タタン、タンタン」と改札鋏でリズムを取っていたのが、懐かしい。


(夜の松代駅。)

(入鋏をして貰った普通硬券入場券。※帰宅後に撮影。)

なお、この松代駅と信濃川田駅、綿内駅の木造駅舎は、観光施設も兼ねて保存する方針で、大変嬉しい。信濃川田駅は、特急用の2000系電車や屋代線用3500系電車など、引退した長野電鉄の車両をホームに展示した、鉄道公園の計画もあるとの事(※)。

屋代線前身の河東線開業の1922年(大正11年)から2012年(平成24年)まで、丁度、開業90周年であった。またひとつ、ローカル鉄道の鉄路が消えゆくのは寂しい限りであるが、富国強兵の戦前、動乱の戦中、戦後の高度成長を支え、日本と地元の発展や輸送の為に活躍してきた事に感謝したい。これにて、屋代線とお別れになる。最後の秋に訪問するチャンスがあり、本当に良かったと思う。駅出入口の引き戸を開け、カラカラとゆっくり締めた。


(旅の終わり。)

(終/長野電鉄屋代線編)


信州松代観光協会 公式HP
※新潟県十日町市にも同町名の松代があり、注意。
長野電鉄公式HP
※屋代線は現在廃止され、バスを代わりに運行。


◆長野電鉄屋代線二日目の乗車記録◆

下り列車3本、上り列車4本に乗車。二日目は、松代-屋代間に訪問。

【駅訪問】
3駅(東屋代、屋代、岩野)※うち、木造駅は2駅。岩野駅は車で訪問。

【途中下車観光】
2カ所(松代と屋代6時間・昼食時間含む)※屋代へは、自家用車で往復。

【グルメ】
[間食・つたや本店/松代 国道403号線沿い]
・茄子おやき(120円)
[昼食・和座季楽 象山亭/松代 象山神社近く]
・長芋とろろそば(1,050円+大盛り210円)

【運賃】
長電フリー乗車券(二日間有効・大人2,260円、一日あたり1,130円)

【旅程表】
屋代0647 上り402列車・須坂行き
0649
東屋代0712 下り405列車・屋代行き ※木造駅舎見学
0715
屋代0812 上り408列車・須坂行き ※木造待合室・木造旅客上屋見学
0825
松代1447 下り417列車・屋代行き ※松代歴史名所観光(二日目)・森将軍塚古墳見学
1501
屋代1513 上り418列車・須坂行き
1549
須坂1635 下り421列車・屋代行き
1714
屋代1727 上り422列車・須坂行き
1740
松代(屋代に延泊した為、翌日に帰宅。)


(※鉄道公園構想)
留置車両からアスベストが検出されたため、信濃川田駅の後縁構想は頓挫した模様。松代駅、信濃川田駅と綿内駅は、代替バスの待合所などとして、現存している。

(※入鋏/にゅうきょう)
改札や検札した際、改札済みとして、改札鋏という専用の鋏で切符の一部を切り取ること。切り取りの歯形も種類があり、駅や時間帯に依って使い分けたりもする。最近は、自動改札の普及や省略、スタンプ化等で使わなくなってきている。

2020年3月21日 ブログから転載・文章修正・校正。

©2020 hmd
文章や画像の転載・複製・引用・リンク・二次利用(リライトを含む)や商業利用等は固くお断り致します。