屋代線紀行(20)松代駅から屋代駅へ。

時刻は、17時を丁度過ぎた。16時半に日没になっており、17時10分頃には、完全に暗くなった。周辺が高い山々に囲まれている山国の為、日の入りも早く、本当に釣瓶落としである。明日も、屋代線に乗るので、市営観光駐車場に自家用車を一晩駐めて置き、宿泊先のビジネスホテルがある屋代駅まで、屋代線で行こう。なお、下り屋代行き電車が行ってしまったばかりなので、次は1時間後になる。着替えが入ったバックを車に取りに行き、駅前スーパーで飲料等を買い物した後、松代駅に向かう。

次の下り屋代行き電車の発車30分前に、駅待合室に入る。先客は誰ひとり居らず、ひっそりとしている。ロングベンチに座り、木造駅舎の夜の雰囲気を楽しもう。駅長氏は居るが、駅事務室奥で仕事中で、出札口に案内板が立てかけられている。


(駅の待合室で待つ。)

待合室には、地元・松代中学校の生徒達が発行した「ありがとう屋代線新聞」と言う手作り新聞が置いてあり、松代駅長K氏のインタビュー記事が掲載されている。

松代駅は、昭和41年から42年(1966-1967年)頃が、利用客数のピークであったそうで、それ以降は減少し、現在は最盛期の15%位になっているとの事。最盛期の頃は、1日に勤務する駅職員数も7-8人程おり、大変活気があったらしい。なお、屋代線の利用客数は、年間最大330万人から46万人(平成21年度)まで、落ち込んでしまっている。また、屋代線自体が、東京方面への貨物輸送を目的として建設された路線だった為、鉄道貨物輸送の廃止後にも、収益が大幅に落ち込んだと思われる。

現在、100円の収益を上げるのに、277円の経費が掛かっており、赤字額が年間1億7千万円、累計赤字額が50億円を超えている。なお、営業係数(※)200を越える中小ローカル鉄道は、秋田内陸縦貫鉄道(秋田県東部)、いすみ鉄道(千葉県東部)、由利高原鉄道(秋田県南西部)があるが、それらの鉄道会社よりも高く、全国でもワーストの状況である。ちなみに、殆どの中小ローカル鉄道や第三セクター鉄道は、営業係数100-150位になっている。また、鉄道ファンとして、木造駅舎が残っている事は嬉しいが、地元利用者の立場から、老朽化の激しい木造駅舎の建て替えが必要である事や、古いレール等の鉄道設備更新の必要性も感じる。試算でも、この鉄道設備を維持する為には、30億円以上の別途費用が掛かるとの事で、毎年の運行の赤字と合わせて、費用対効果の面で難しいだろう。

よって、屋代線廃止の理由は、以下の通りである。

・大幅な利用客の減少。平成10年度と比べても、約40%も減少している。
・今後、沿線の長野市・須坂市・千曲市が、高齢化や人口減少が見込まれる。
・沿線から長野市中心部へのバス網が発達しており、また、自家用車利用率が高い。
・赤字補填と鉄道設備の維持や更新に、巨額の資金が必要になる。
・長野電鉄の経営の足を引っ張っており、いち私企業で維持出来る限界を超えている。

屋代線が経常黒字になる最低の年間乗客数は、現在の約3倍の130万人とされている。なお、第三セクター方式も考えられるが、地方自治体の財務状況が厳しい中、黒字化の見込みが低い鉄道を抱え込むのは、リスクが大き過ぎる。国鉄ローカル線の第三セクター化が盛んであった、1980年代後半に転換し、電化設備維持にコストが掛かる電車運行を止めて、ディーゼルカー導入による低コスト化を行なっていれば、現状は違っていたかもしれない。

発車時刻の15分前になると、駅長氏が改札口にやって来たので、フリー乗車券を見せる。駐車場の件も尋ねた所、「大丈夫だよ」との事で、安心する。哀愁がたっぷりな夜のローカル線駅は、昼間と全く違う表情を見せてくれる。少しひんやりとした秋の夜風が、ホームを吹き抜けて行く。


(夜のホームに出る。1・2番線ホームから、駅舎側3番線ホームを望む。)

(改札口と待合室が、煌々と灯る。)

(屋代方の赤信号とスプリングポイントの青いライトが、暗闇に輝く。)

(誰も居ない、下り屋代方面1・2番線ホーム。)

++++++++++++++++++++++++++++++++++
【停車駅】◇→列車交換可能駅
松代◇1800==象山口==岩野==雨宮==東屋代==1815屋代(終点)
下り423列車・屋代行き(←3531+3521・3500系O1編成2両編成)
++++++++++++++++++++++++++++++++++

突然、構内踏切が静寂を破る様に鳴り出し、改札前のホーム柱に設置してある接近警報機も、「プー・プー・プー」と大きく鳴り始める。18時丁度発の下り電車が、ヘッドライトを眩しく照らしながら到着。2両編成の乗客は3人だけで下車は無く、いつの間にか、男性客1人と年配の夫婦がやって来ていて、自分を含めて4人が乗車する。

松代駅を発車し、レールとモーターの音を鳴り響かせながら、淡々と走る。自動アナウンスの女性の無機質な声が、より寂しく車内に響き、窓外の人家の明かりも少なく、真っ暗である。途中の4つの駅に停まるが、乗降客は全くいない。

所要時間15分で、屋代駅5番線に到着。運転士に、明日も乗る事を伝え、2日間有効のフリー乗車券を持ち帰ろう。なお、しなの鉄道に乗り換える場合は、着駅清算用の乗り換え証明書を貰う事になっている。屋代駅は屋代線の終点であり、しなの鉄道との接続駅で、終日有人駅になっている。この5番線ホームは、駅舎から一番遠い山側にあり、古い木造の旅客上屋と待合室がある。ホームは照明が少ない為に薄暗く、明朝に改めて見学する事にしよう。


(屋代駅に到着。)

(雰囲気のある古い待合室がある。)

今夜は、屋代駅前のビジネスホテル・ルートインコート千曲更埴(ちくまこうしょく)に、チェックインする。ちなみに、「更埴」の地名は若干難読であるが、市町村合併前の千曲市の市名になる。

部屋に入り、荷物を置いて小休憩後、夕食の手配を考える。屋代駅に駅弁があれば、夕食用に手配するが、既に販売撤退してしまったらしい。ホテルのフロント係氏に、郷土料理が食べられる店を紹介して貰い、外に出かけよう。屋代駅前の路地にある料理店「味処科野(しなの)」に入る。「ホテルから紹介を受け、夕食を摂りたい」と中年の女将に伝えた所、快く案内して貰えた。


(味処科野(しなの)。)

女将に、地元の郷土料理がないかと尋ねた所、「おしぼりうどん」(900円)がお勧めとの事。早速、それを注文する。温かい釜あげうどんを、つけ汁に漬けて食べる郷土料理との事。つけ汁が独特で、ねずみ大根と言う大根おろし汁に信州味噌を和える。ねずみ大根は、地元特産の小さな大根で、長野の伝統的野菜になっている。
長野県坂城町ねずみ大根振興審議会公式HP「ねずみ大根とは?」

ねずみ大根のおろし汁だけ少し舐めてみると、ツーンと来る苦味とホンワカした甘みが合わさっており、独特な味である。それに、信州味噌を和えると、風味が良くなってマイルドになる。味噌はいっぺんに入れると、辛くなり過ぎるので、少しずつ入れるのがコツだそうで、味噌の代わりに、醤油を入れる場合もあるとの事。

早速、食べてみよう。ツーンとした辛さの後に、大根おろしのふわっとした甘みが少しあり、後味はすっきりした感じである。味噌を入れると、徐々にコクが出てくるので、また違う味になる。以前、テレビの某人気番組で、長野の郷土料理として紹介されたが、長野市や松代町には無く、この屋代周辺の更埴エリアだけの郷土料理になるとの事。


(郷土料理の「おしぼりうどん」。)

饂飩だけでは物足りないので、お勧めの「鶏鉄板焼き」(600円)とサワー(350円)も、同時注文してある。柔らかい鶏肉に程良い甘みのあるタレがたっぷり絡めてあり、これも美味しい。


(鶏鉄板焼き。)

信州で食べる料理の醤油味は、甘みがあるのにさっぱりとしているので、地元定番の醤油メーカーはあるのか尋ねると、特に決まっていないとの事。信州味噌のメーカーは今も沢山あるが、殆どの地元醤油メーカーは廃業していると話してくれた。どうやら、醤油の味付け方に、その理由があるのかもしれない。

他にも、名物の蕎麦料理や郷土料理が食べられ、酒や小料理もリーズナブルである。お腹いっぱいになり、女将にお礼を言うと、「こちらにいらした時は、また来てください」と、暖かく見送りして頂いた。ホテルに戻ろう。明日も初電からの乗車なので、風呂に入り、早めに就寝しよう。

(つづく/屋代線編1日目終わり)

【しなの鉄道屋代駅前「味処科野(しなの)」】
長野県千曲市小島3145-1 駅前ビルCODY 1F 電話(026)272-4151
[営業時間]昼11時30分から14時まで、夜17時から23時まで。おひとり人様可。
[休み]毎週日曜日(年末年始・お盆期間については、要問い合わせ。)
グーグルマップ「味処科野」(屋代駅前) 


◆長野電鉄屋代線 1日目 乗車記録◆

下り列車2本、上り列車4本に乗車。1日目は、松代-須坂間に訪問。

【駅訪問】
5駅(信濃川田、若穂、綿内、須坂、松代)
※うち、木造駅舎駅は3駅、木造待合所駅は1駅。

【途中下車観光】
1カ所(松代5時間・昼食時間含む)

【グルメ】
[昼食・おやきや総本家松代店/松代・真田公園横]
ざる蕎麦(680円)、おやき2個(1個150円)、地元産林檎100%ジュース(300円)
[夕食・味処科野/屋代駅前]
おしぼりうどん(900円)、鶏鉄板焼き(600円)、サワー(350円)、あさり大根(お通し・300円)

【運賃】
長電フリー乗車券(二日間有効・大人2,260円、一日あたり1,130円)

【時刻表】
自家用車で松代駅まで行き、パークアンドライド方式で乗車。
全て国道経由、松代まで251.3km、所要時間約6時間、燃料代約3,400円。

松代0701 上り404列車・須坂行き
0711
信濃川田0752 上り406列車・須坂行き ※木造駅舎見学
0755
若穂0838 上り408列車・須坂行き ※木造待合室見学
0840
綿内0942 上り410列車・須坂行き ※木造駅舎見学
0950
須坂1105 下り413列車・屋代行き ※駅見学・車両区見学
1128
松代1800 下り423列車・屋代行き ※木造駅舎見学・下車観光
1815
屋代(宿泊)


店と料理の紹介は、掲載許可承諾済み。

(※)営業係数
100円の営業収入を得るのに掛かる、営業費用のこと。100未満なら黒字、100以上なら赤字。国鉄末期のローカル線廃線の検討時も、目安として使われた。「日本一の赤字線」と言われた国鉄美幸線は、3859であった。

【参考文献】
「長野電鉄屋代線総合連携計画(概況版)」長野市・須坂市・千曲市(平成22年3月発行)

2019年9月21日 ブログから転載・文章修正・校正。

© 2019 hmd all rights reserved.
文章や画像の転載・複製・引用・リンク・二次利用(リライトを含む)や商業利用等は固くお断り致します。