天浜線紀行(9)遠州森駅 後編

上り1番線ホームから改札口を通り、待合室に入ってみよう。通った瞬間、木造駅舎独特の匂いと、ひんやりとした空気を感じる。待合室の広さは15畳位あり、中央部がアイボリーに塗られた長板張りの高い天井は、外縁部よりも少し凹んでいる簡素な化粧天井になっている。また、改札上には、駅としては珍しい縦板スリット状の欄干があり、床はコンクリートの打ち放しで、細溝で枡形に模す。過度な装飾の無いシンプルな戦時中のデザインは、機能的に感じる。


(改札口と待合室。)

西側の縦型二段窓に沿って、木造ロングベンチが据え付けられているのは、国鉄二俣東線として同時に開業した桜木駅や原谷(はらのや)駅と同じである。奥が少し低い横板の張り方、擦り切れた角や塗装の草臥れ具合が、歳月を感じさせる。


(天竜二俣方の窓下にある木造ロングベンチ。)

(待合室内。)

待合室中央には、モダンな肘掛けが付いた木製ベンチが置いてあり、非常にレトロな雰囲気を放っている。反対側(線路側)のベンチは肘掛けが無く、脚部の構造も違うので、造られた時期が違うらしい。


(待合室中央にある木造ベンチ。)

改札口横に出っ張った出札口は、今でも使われており、昔のままである。今では、地方ローカル鉄道会社にとって、重要な収入源になっているオリジナルグッズや記念切符等も、沢山取り揃えている。勿論、硬券切符も発券しており、入場券と主な目的地駅行きの数種類があり、大井川鐵道接続駅のJR金谷駅(かなや-)までの片道連絡切符もある。

また、乗客が多かった国鉄二俣線時代、昭和36年(1961年)5月から昭和41年(1966年)9月までの約5年間は、この駅を終点・折り返しとする遠州鉄道経由の直通列車があった。国鉄の払い下げ気動車を使って、遠州鉄道の浜松駅から西鹿島・天竜二俣経由で列車を運行し、一時期はかなりの利用客があったという。


(出札口。ローカル線向けに、出札業務と改札業務が兼任できる設計になっている。)

出札口左の鉄道小荷物の窓口は、板で閉鎖されている。手前には大きな箱状の台が残っており、テーブルでないのは珍しいかもしれない。自動券売機が一台据え付けられており、早朝と夜間は駅長氏が不在の時間帯は、発券を休止する為に木扉が付く。暫くすると、子供ふたり連れた若い母親が、切符を買い求めに来た。


(鉄道手小荷物窓口跡と自動券売機。出札口の営業時間は、夕方16時半までになる。)

上の方を見ると、昔の遠州森の町並みのパノラマ写真や天浜線を走っていた車両の写真もあり、地元の鉄道ファンが撮影したものであろう。左は富士重工製レールバスのTH1形、右は廃止されたトロッコ列車である。撮影日は、TH1形は第三セクター転換時の平成8年(1996年)2月20日、3両編成のトロッコ列車は平成12年(2000年)5月12日になっている。


(TH1形レールバスと名物であったトロッコ列車。)

この天浜線のトロッコ列車は、「そよ風号」の愛称で人気を博し、平成12年(2000年)3月26日から運行を開始した。トロッコ車両の老朽化の為、平成19年(2007年)に運行廃止になっている。残念ながら、トロッコ列車用客車THT100とTHT200は、そのまま廃車になった。

なお、ディーゼルエンジンを搭載したトロッコ列車専用塗色の気動車(レールバスTH211、平成17年(2005年)頃からTH3501)が、無動力のトロッコ客車2両を後ろから推進(後押し)し、この遠州森駅から三ヶ日(みっかび)駅まで走っていた。三ヶ日方の先頭のトロッコ客車には、制御客車として運転台が設置され、最後尾の気動車を遠隔制御出来る様になっており、三ヶ日駅からの折り返しの上り列車は、気動車が客車を牽引したという。また、この2両のトロッコ車両は、国鉄貨車の無蓋貨車トキ25000を大改造し、客車1両の車長は約14m、改造後の自重は約18tである。コストダウンの為、高価な運転台等は長良川鉄道の廃車再利用品を使い、客席は木製椅子のクロスシート配置、小さなテーブル付きであった。

乗車時には、普通運賃の他、トロッコ乗車券400円(定員制の自由席)が必要で、特別料金260円(1台)を支払えば、最大6台までの自転車を乗せる事も出来た。運行末期には、「トロッコ列車弁当」(当時1,000円)も発売されている。懐かしいローカル線風景や風光明媚な浜名湖が眺められるので、是非とも、復活して欲しい。

駅前に出てみよう。駅出入口には、重厚な木製引き戸があり、開業当時のままであろう。五枚の横板がはめ込まれており、上の二枚はガラスになっている。


(駅出入口の大型木製引き戸。)

駅舎は、桜木駅や原谷駅と同じ大きな縦型二段窓があり、下部が下見板で、上部が白漆喰の外壁である。三角屋根のトタン葺きの車寄せには、特製の無垢板駅名標が掲げられている。なお、入口横の小さななまこ壁土蔵風建物は、公衆電話ボックスである。その横に丸い赤ポストも、さり気なく寄り添っている。


(駅前から駅舎全景。)

(特製の無垢板駅名標。駅名改称後の「遠州森」なので、第三セクター転換後のもの。)

出入口横から見ると、大きな縦型二枚窓の木製窓枠と横張りの下見板の様子が良く判る。更に、嵌め込まれているガラスも、僅かに歪みのあるアンテークガラスになっている。なお、外壁は経年の割には大変綺麗なので、補修されているらしい。


(縦型二段窓と下見板。)

全面舗装された駅前広場は、普通の自動車ならば、そのまま転回出来る広さがある。大きな木製観光案内板や花壇も設置され、年配の女性ふたりが花の手入れをしていた。なお、駅を出ると、そのまま町中を通り抜ける街道に面している。


(駅前にある観光案内板と花壇。)

(駅前広場からの眺め。)

(つづく)


2020年5月9日 ブログから転載・文章修正・校正。

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