銚子電鉄紀行(2)仲ノ町駅

銚子電気鉄道では、今では珍しい、1両のみの単行電車が運行されている。電車は床下機器が多い為、単行運転ができる形式は意外に少なく、最小編成は2両編成の形式が多い。このデハ1001は、元・営団地下鉄2000形を大改造した車両で、車歴は40年弱の御老体である(※1)。現在、某大手ゲーム会社の広告ラッピング車両になっており、オリジナルキゲームキャラクターがプリントされた、特製座席シートになっている。

連結器は、密着式連結器を自動連結器と連結する為、アダプター連結器を装着しているのが珍しい。トムリンソン式中間連結器と呼ばれ、ナックルの部分が肉薄で、固定されている。なお、車両移動や故障時の救援等に使われる為、トムリンソン式同士の連結や高速運転は出来ない。


(銚子電気鉄道1000形。元・地下鉄車両が、地上線で使われている。)

(トムリンソン式中間連結器。)

銚子電鉄の路線は、銚子から暫くは直線上に線路が伸び、本銚子駅を過ぎた付近から、銚子半島と言われる太平洋に東に突き出した半島内を、時計回りに90度回転する形になっている。また、路線長が6.4kmと短い上に駅数が多い為、駅間距離は1km未満となり、2分程走ると、次の駅に直ぐに到着する。

基本的にワンマン運転になっており、混雑時や週末は、車掌が乗務することがある。発車前に、1日フリーきっぷの「弧廻手形(こまわりてがた)」(大人620円)を、運転士から購入する。手帳大の大きな切符で、路線案内、観光地図や割引券も付いているので、お得になっている。


(乗降扉上には、小さな路線案内図がある。)

(「弧廻手形(こまわりてがた)」。地図とクーポン付きも、珍しい。)

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銚子1139======1141仲ノ町
下り外川行き(デハ1001・単行)
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床下のコンプレッサ音が大きく鳴り響き、昔の電車の雰囲気が蘇るなか、発車を待つ。先ずは、隣の仲ノ町駅(なかのまち-)に向かおう。

発車時刻になると、ホーム柱にある発車ベルを運転士氏が押す。「ルルルル」と、懐かしい電子音がホームに大きく鳴り響いた後、ゴツゴツとした昔の電車の発車になる。乗客は20人程、ローカル民鉄の昼前としては多く、中高年や観光客風の人が多い。

踏切を越えて、10パーミルの下り勾配を500m程ゆっくりと走ると、仲ノ町駅に2分程で到着。この駅は、銚子電気鉄道本社が置かれている有人駅であり、車両検修区(検査修理工場)もある。ホームに降りると、ムワッとした、濃い醤油の香りが漂っている。乗って来た列車は、年配の駅長氏の発車合図の後、直ぐに発車して行く。


(仲ノ町駅に到着。直ぐに発車となる。)

この香りは、関東醤油三大メーカー(※2)のひとつである、ヤマサ醤油の大工場が隣接している為で、以前は、工場への引き込み線もあり、貨物輸送も行っていた。なお、沖を流れる黒潮の影響により、夏は涼しく、冬は温暖で、湿度も適度に保たれる銚子は、小麦や大豆の原材料の入手や、利根川の水運を利用できた事から、江戸時代初期から醤油造りが盛んになっている。ヒゲタ醤油の大工場も、JR銚子駅西側に構えている。

一面一線の単式ホームの駅であるが、側線があり、夜間の車両停泊も兼ねている。また、縁石部分のみ、電車乗降口の高さに嵩上げされているので、駅舎側と大きな段差がある。


(ホーム全景。外川寄りの構内踏切から撮影。)

ホーム端から銚子方を眺めると、緩やかなカーブを大きく描きながら、この先のスプリングポイントで、南側の側線とまとまる。銚子までは、緩やかな上り勾配10パーミルになり、ヤマサの工場内を走る感じになっている。


(銚子方。)

外川方は、道路に沿って、静かな住宅地の中を走る。こちらも、上り勾配15パーミルで、駅構内は水平(Level)になっている。線路際には、銚子電鉄の職員氏が種を撒いて育てた菜の花が、咲き続いており、春の鉄道撮影名所になっている。


(外川方と菜の花ライン。)

この駅舎本屋は、銚子遊覧鉄道開業時の大正2年(1913年)築の古い木造駅舎で、築100年を超える。あまりにも古いので、各部の補修は相当されており、この年季の入り様は凄いの一言である。駅長氏に許可を貰って、見学と撮影をしよう。


(ホーム側駅舎。色々と置かれているので、駅っぽくないのが、面白い。)

外川寄りに改札口があり、細い鉄パイプをU字に曲げたシンプルなラッチなっている。待合室は、コンクリートの打ち放しの六畳位の大きさで、外川寄りに木造の据え付けロングベンチがあり、向かいに出札口がある。


(鉄パイプの改札口。)

(据え付けのロングベンチ。)

出札口(有人切符売り場)は、ごつい感じの鉄格子が嵌められており、受け取り皿も鉄製である。銚電オリジナルグッズの販売も熱心で、出札口右には大きなショーケースがあり、眺めるだけでも楽しい。また、上の黒板書きの旅客運賃表も、昔ながらの手書きである。


(出札口と手書きの運賃表。)

(オリジナルグッズのショーケース。)

駅出入口は、民家風のガラス付き引き戸二枚で、あまり駅風ではない。駅前ロータリーは無く、こちら側も、ヤマサの工場が建ち並んでいて、工場の中に駅がある感じになっている。また、駅出入口の右横は、本社になっており、かつては、二階建てであった。


(駅出入口。出入口の右側には、コンクルート製の防火用水槽がある。)

(銚子電鉄本社。名物のぬれ煎餅の製造や発送も行っている。)

(駅前のヤマサ工場の様子。)

(つづく)


【参考資料】
RM LIBRARY 142「銚子電気鉄道(上)」
(白土貞夫著・ネコパブリッシング刊・2011年)

(※1)ラッピング広告も終了し、旧銀座線塗色(黄色)に変更され、2016年春に引退。
(※2)キッコーマン醤油、ヤマサ醤油、ヒゲタ醤油。キッコーマンは千葉県野田市。

2017年7月15日 FC2ブログから保存・文章修正(濁点抑制)・校正

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