銚子電鉄紀行(3)デキ3と観音駅

駅舎並びの道路から見ると、2000形電車が二編成並んで、休んでいる。この車両は、常に二両固定編成で運行されており、塗装も京王時代を模している。しかし、今の銚子電鉄にとって、2両編成は大きすぎるのではないかと思うが、週末や初日の出の時には、観光客で混雑するので、その対応の為でもあろう。


(2000形電車とヤマサ工場の原料サイロ塔。)

この仲ノ町駅(なかのまち-)は、ホーム向かい側の車両検修区の一部が、一般公開されており、記念硬券仕様の見学入場券(150円)を別途購入すると、見学する事が出来る。

出札口では、定期券サイズの見学記念入場券もあるそうなので、それを購入する。外川方の構内踏切を渡ると、側線の間に敷かれた簀子部分が、見学可能エリアになっている。廃用となった鉄道部品も数多く展示されているが、最大の見所は、古い凸型小型電気機関車である。


(展示された鉄道部品。左右の車両は、現役の車両である。)

(手書きの見学記念駅名標。留置されている車両の下回りも、良く見える。)

1922年(大正11)に造られた、ドイツ・アルゲマイネ(AEG)社製直流電気機関車デキ3は、現存する国内最小の電気機関車である。銚子電鉄のマスコットとして、大変な人気がある。このくすんだ赤とクリームのツートン塗装は、本来の銚子電鉄オリジナルカラーになっている。


(AGE凸型直流電気機関車デキ3。)

かつての銚子電鉄では、電車後部に無動力の二軸客車を連結し、多客時対応をしていた。折り返しの銚子駅では、二軸客車の後部への付け替えが困難な為、銚子行き上り列車は、この仲ノ町駅で電車を外川方に付け替え、デキ3を先頭に「←デキ3+二軸客車+電車」の編成で、銚子駅と仲ノ町駅間を走行した。また、ヤマサ醤油工場への貨物輸送や車両の入換機としても活躍し、昭和50年代後半まで使われた。なお、電車を機関車代わりに、国鉄貨車を後部に1-2両併結した客貨混合列車(ミキスト)も、運行されていたとの事。

現在、デキ3の車籍はあるが、圧縮空気式の空気ブレーキが装備されておらず、鉄道保安上の理由から、営業線上の運転は出来なくなっている。

【銚子電気鉄道デキ3・主要諸元】
全長4.5m、全長2.1m、自重10.0t、1922年ドイツ・アルゲマイネ社製直流電気機関車。
軸配置B(二軸)、搭載モーター二機、定格出力59.6kW(約80馬力)、定格速度16km/h。
速度計や電圧計は無く、発電ブレーキと手ブレーキのみである。

さて、仲ノ町駅を見学した後は、隣の観音駅に向かおう。この仲ノ町駅から、三つ先の笠上黒生駅(かさがみくろはえ-)までは、昔ながらの通券閉塞式の列車閉塞で、運行されている。自動色灯式信号機とATS(自動列車停止)システムによる、列車閉塞自動化が一般的になった今、大変珍しい。駅名標横のバックミラー下に、通券確認の標識が出ている。四角のイラストは、金属製通票に空けられた穴の形を示す。


(駅名標と通票確認の標識。)

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仲ノ町1218======1220観音
下り外川行き(デハ1002・単行)
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青いデハ1001の相棒である、赤いデハ1002がやって来る。この車両も旧銀座線の同型車であるが、丸の内線カラーになっているのは、鉄道ファンサービスである。出発合図にホーム来た駅長氏に、見学と撮影のお礼を言い、乗車しよう。

線路際の菜の花ベルトを愛でながら、コトコトと2分程走ると、観音駅に到着。仲ノ町駅から600mしか離れておらず、運転士氏に弧廻手形を見せて、下車をしよう。


(観音駅に到着した、デハ1002。)

(観光道標タイプの駅名標。)

観音駅は、女性駅長氏が勤務している有人駅で、再開通時の大正12年(1923年)の開業、起点の銚子駅から1.1km地点、2駅目、所要時間4分、銚子市前宿町、標高14mである。平成になってから、スイス登山鉄道風の観光駅舎に建て替えられている。銚子電鉄の駅は、とても個性的で、木造駅舎と違う楽しみ方が出来るのが面白い。また、銚子の旧市街地と港に最も近い事から、最盛期は、銚子駅よりも乗降が多かったらしい。

各部に傷みも多く見られ、海が近い為、潮風の影響が大きい様である。ホームは洒落たタイル張りで、緩やかな弧線状のホームの外川方に改札があり、街道に面した駅出入口と踏切がある。


(ホーム側改札口周辺。)

(可愛らしい出札口。)

(ホーム全景。※街道の踏切横から撮影。)

ホームから銚子方を眺めると、黄色い菜の花の群生と共に、住宅地の中を走って来る。開業当初の観音駅は、今の場所よりも、銚子方に小さな待合所とホームのみの駅があった。大正末期頃に現在位置に移転し、木造洋風駅舎が新築され、平成3年(1991年)12月に現在の観光駅舎に建て替えられている。


(銚子方。)

ここから外川方は、北側に銚子の街を見下ろす、段丘縁部のグリーンベルトを走る。房総の昔ながらの雑木林の中を走り、上り勾配20パーミルの急勾配が続き、峠越え風の雰囲気になっている。

銚子半島は海に面している事から、平坦なイメージがあるが、千葉県北部に広がる下総台地(しもふさだいち)の最東端になり、半島中央部は台地状となっている。観音駅から隣の本銚子駅(ほんちょうし-)を過ぎた付近で、この下総台地に線路が上がる。


(外川方とグリーンベルト。※街道の踏切横から撮影。)

この観音駅には、名物のたい焼き屋があるので、ちょっと、覗いてみよう。70年代の「およげたいやきくん」ブームに便乗したそうで、随分と昔から販売している。勿論、銚子電鉄の直営店で、有名なぬれ煎餅と共に鉄道維持に大きく貢献している。本業の鉄道運賃収入の1日分の半分にあたる、売上10万円を記録した事もあるとの事(※)。


(名物の観音駅たい焼き屋。昭和51年1月に開業した。)

(調理中のたい焼き達。どんどん、作っている。※撮影承諾済。)

昼食もまだなので、餡とクリームのたい焼きをひとつずつ購入しよう。耳もそのまま豪快に付いた結構な重さで、関西風になっている。生地は厚くふんわり、具はトロトロで、具もぎっしり入っており、味は、割とさっぱりとした甘さで、食べ易い。また、たい焼き1個各90円、たこ焼き8個入り340円と、良心的であるのが嬉しい。


(駅のベンチで、名物のたい焼きを食べる。)

この観音駅は、駅名の通りに門前駅でもあり、少し離れた所に大きな寺がある。腹も少し膨れたので、運動がてらに行ってみよう。


(観音駅外観。)

(つづく)


(※)老朽化の為に閉店し、犬吠駅に移転開店している。

【参考資料】
ちばの鉄道一世紀(白土貞夫著・崙書房・1996年)
RM LIBRARY 142「銚子電気鉄道(上)」
(白土貞夫著・ネコパブリッシング刊・2011年)

2017年7月15日 FC2ブログから保存・文章修正(濁点抑制)・校正

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