大鐵本線紀行(17)神尾駅 後編

千頭方の駅出入口から、駅全景を見てみよう。ホームと駅出入口は、コの字型の細い通路で連絡しており、構内踏切を二回も渡るのも、珍しい配置かも知れない。レール、木枕木、バラストの鈍い錆色の一体感がある線路は、最近の都市部の路線では、見られない光景になっている。


(神尾駅全景。大井川に平行し、南北に細長く配されている。)

山側の土手には、大井川鐵道名物の「かみおたぬき村」があり、36体の信楽焼きの狸が鎮座している。木枕木を土砂止めにして土台を造り、車窓から見える目線の高さにしてあり、神尾駅には停まらないが、SL急行列車も減速をし、車掌氏からの観光案内がある。


(かみおたぬき村。)

色々なポーズの狸がいる中、あの石原狸も健在である。制帽を被り、マイクを持った車掌姿の狸は、「大鐵の名物を作ろう」と、このたぬき村を創った初代SL名物車掌の故・石原〆造氏を偲び、特注で作られたものである。なお、大鐵OBが遺志を継ぎ、村長として、草刈りや据え直し等の手入れをしている。たまに、襷を掛け、SL列車の乗客に手を振っている事がある。


(故・石原氏をモデルにした車掌狸「石原狸」が鎮座する。)

千頭寄りのポイント付近には、レトロな狸が並んでいる。平成15年(2003年)8月17日、連続雨量400mmを越える集中豪雨の為、ホームの南にある崖が大規模な地すべりを起こした。30体近くの狸が、崩落した土砂に飲み込まれたが、この5体の狸のみ無事であった。

社員、地元住民、企業や鉄道ファンの協力により、復旧工事や募金が行われ、平成17年(2005年)3月に、ホーム北寄りの向かいに移動し、かみおたぬき村が復活している。なお、前年の平成16年(2004年)3月に、線路は先行復旧している。


(崩落の難を免れた狸達。右からふたつ目は、破損してしまっている。)

構内踏切先の狸の前には、賽銭箱が置いてあり、狸大明神と言った所である。崩落時は、鉄道事故や犠牲者が出ずに済んだ。この狸達が守ってくれたのである。


(狸大明神。)

構内踏切の先には、アルミ柱製の開放式の小さな待合室がある。線路の復旧作業をする際、重機を構内に持ち込む為に、古い木造待合所は取り壊されている。


(ベンチの上に茅葺き屋根の模型がある。ケースの中には、駅ノートが入っている。)

(列車は一時間に上下共に大凡一本、1日の駅利用客数は数人らしい。)

地蔵峠トンネルの近くに行って見ると、ポータルはレンガ積みの古いトンネルである。神尾駅の開業は昭和3年(1928年)、隣の福用駅はその翌年であり、開業当時のものである。また、入口横の標識を見ると、トンネル内は半径300mの急カーブと16.7‰(パーミル)の上り勾配になっている。トンネル脇には、大きな保線小屋が建ち、元は駅舎であったかもしれない。


(地蔵峠トンネル。)

(保線小屋。)

この場所に合わない、灰色の公衆電話スタンドも、ひっそりとある。なお、駅前には、民家、商店や自動販売機は、ひとつも無い。この一本道が唯一の連絡路になり、神尾集落までは約1km、徒歩で約15分かかる。国道には、集落を経由し、折り返す様に接続しており、結構な距離がある。土手に小さな花桃が咲き、反対側には、古い木造トイレと自転車置場が設置されている。


(神尾集落に繋がる道。)

(ぽつんとあるISDN公衆電話。)

神尾集落は、交通が大変不便な場所にあり、平安時代末期の源平合戦こと、治承・寿永の乱(じしょう・じゅえい-)で敗れた平家の落人が、住み着いたのが始まりと伝えられている。集落の山際の高台には、創基1,400年と言われる若宮八幡神社が鎮座する歴史のある里になっている。現在、神尾集落には16世帯、約50人が住んでいる。

なお、神尾からは、下流に広大な平野部が広がり、上流側から見ると、南アルプスの稜線の末端(尾)にあたる。江戸時代中期の遠江掛川藩で編纂された地誌「掛川志稿(-しこう)」によると、「天王、天王平にあり。天王平の尾崎(山裾の突端)に天王社の祠ありしより村を神尾と名付く」と記されており、天王平のはっきりとした場所は判らないが、大井川の神がいると考えられた大井川の上流域、南アルプスの山々を指すらしい。

また、駅の対岸には、神座地区(かんざ-)がある。西岸は神尾、東岸が神座と、両方共に「神」の字が付くのは、どうやら、大井川と地元大社の大井神社が関係するらしい。元々、大井川鐵道本線終点の千頭駅の上流に、神社が鎮座していたと言われ、暴れ川であった大井川の大洪水と共に御神体が流れ着き、ここに祀られたと言う。
大井神社公式HP


(国土地理院国土電子Web・島田市神座地区の大井神社付近。)

大井川側は、木立が生い茂っており、展望が少し悪いが、大迂回をしている大井川の雄大な流れが見える。朝日が登ったばかりであり、清々しい。

左から突き出ている突端に、神尾集落があり、遠く向こうの対岸には、鵜網集落(うあみ-)がある。両集落は目鼻先であるが、橋は架かっておらず、行来は出来ない。


(大井川の大蛇行部と神尾半島と鵜網集落。)

(ホーム中央の向かいの大きな花桃は、この駅の名物になっている。)

いい景色と静かな環境に、のんびりとした気分になって寛いでると、あっという間に約1時間半が過ぎている。8時32分発の下り千頭行きの元・南海電気鉄道21000系電車がやって来た。


(元・南海電気鉄道21000系電車が到着。)

(つづく)


2017年8月5日 ブログから保存・文章修正・校正
2017年8月5日 文章修正・音声自動読み上げ校正

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