大鐵本線紀行(1)金谷へ

平成22年(2010年)春の旅は、毎年恒例の「大鐵(だいてつ)」こと、大井川鐵道に訪問である。静岡県中部にある名古屋鉄道グループのローカル民営鉄道(※)の大井川鐵道は、JR東海道本線の金谷駅(かなや-)から大井川に沿って北上し、本線終点の千頭駅(せんず-)を経由。そこから更に、南アルプスの麓にある井川駅(いかわ-)までの65kmを結んでいる。今回の旅は、蒸気機関車の運行で有名な大井川鐡道本線(金谷から千頭間)と代表的な木造駅舎の駅を、幾つか訪問しよう。

日中は、天気が良さそうである。朝一番に横浜駅まで行き、東海道本線の東京発静岡行き321M列車に乗車する。この東京発の静岡直通列車は、JR東海特急電車373系9両編成で運行される鈍行列車である。かつての東海道本線の特急「東海」の名残と言え、ムーンライトながら号の回送充当であったが、ながら号の臨時列車化後も、JR東日本の沼津駅乗り入れ相殺の為、引き続き運行されている(※)。また、早朝発ながら、静岡駅に9時前に到着する事や快適なリクライニングシートである事から、かなりの人気があり、平塚付近になると、平日でも立席が出る程である。

朝日の眩しい相模灘や駿河湾が見える由比駅付近を走り、8時43分に静岡駅に到着。向かいに浜松行きが待っており、直ぐに乗り換える。東海道本線を更に西進し、主要駅の島田駅を過ぎると、長さ1,000mもある大井川鉄橋のトラスを走り抜ける。そして、大きく右カーブをし、返しの左カーブをすると、金谷駅に到着する。時刻は9時18分。ここまでの所要時間は約4時間になる。

乗車してきた浜松行き下り列車が、金谷駅を発車する。この313系電車も、JR東海の在来線普通列車の顔になって久しく、長年「みかん」で親しまれた国鉄113系を淘汰してしまった。LEDの白色ヘッドライトと、下部のアンチクライマーがごついのが特徴である。


(JR東海では、在来線の車両更新がハイスピードで進んでいる。)

下り列車は発車すると、直ぐに、牧の原トンネル(※)に入って行く。トンネル出入口が三つ並んでいるが、左側ほど新しいトンネルになっており、一番右は開通時のレンガ積み旧トンネルになる。

明治22年(1889年)に開通した長さ1,056mの旧・牧の原トンネルは、当時の掘削技術では難工事となり、殉職者も出ている。中央の牧の原トンネル開通後も、上り専用として使われ、左の新牧の原トンネルが開通後の昭和52年(1977年)に、用途廃止されている。また、この金谷駅付近から西は、旧・東海道と同様に難所になっており、鉄道唱歌にも歌われている。

いつしか又も暗(やみ)となる
世界は夜かトンネルか
小夜(さよ)の中山夜泣き石(※)
問えども知らぬよその空

(鉄道唱歌第一集東海道編二十四番)

この金谷駅は、東西に配された対面式二面二線があり、上下の本線に挟まれる広いスペースの間に、待避線と側線の計2線が敷かれている。昔、国鉄と大井川鐵道の間での直通列車運転や貨物受け渡しに使われた。現在は、その渡り線も撤去されている。

駅の開業は、明治23年(1890年)5月の島田駅から堀ノ内駅(現・菊川駅)間の開業時、起点の東京駅から212.9km地点、所要時間約4時間(在来線利用)、島田市金谷新町、標高92mの社員配置有人駅になっている。


(下り3番線から、改札口を望む。)

(上り2番線から、静岡方を望む。)

狭い地下連絡通路を通り、北側にあるJRの改札を出よう。近代的な平屋建てコンクリート駅舎になっており、みどりの窓口もある。ホームは、上り静岡方が2番線、下り浜松方が3番線と振られており、柵で隔てられているが、1番線が大井川鐵道のホームになっている。


(改札口。待合スペースも広く、開放感がある。)

(金谷駅出入口。)

駅前に出てみると、山が迫る狭い谷間にあり、とても窮屈な印象がある。昔、この辺りは、「曲谷」と呼ばれ、これが転訛し、「かなや」となった。なお、牧之原台地最北部のつるべ落としの崖下になっている場所であり、旧東海道五十三次の二十四番目の宿場町、大井川の川渡しの町として発達した。駅ロータリーの左手には、牧之原台地に駆け上がる急坂がある。


(金谷駅ロータリー。)

(急坂を少し上がると、牧の原トンネル上から金谷駅全景が見える。)


(国土地理院国土電子Web・金谷駅付近。)

今日の午前中は、看板列車であるSL急行に乗車し、本線終点の千頭(千頭)駅まで行く予定である。時間の余裕があるので、この金谷の観光名所である牧之原公園【カメラマーカー】に行ってみよう。国道473号線の急坂がきつく、徒歩30分程かかる為、タクシーを利用する。駅から約1.8km、5分程で到着する。


(金谷駅前の観光案内板。)

駅南側の急坂の上に、牧之原公園と呼ばれる展望公園があり、そこからの眺めは大変良い。牧之原台地の北の縁に当たる場所であり、話によると、夜景も絶景らしい。


(牧之原公園展望台から、大井川を望む。対岸は島田市街。)

(大井川上流方。山際までいっぱいに町が広がる。)

標高は約200m、金谷と島田の町並みや、大井川に架かる大鉄橋が俯瞰出来る。この広大な平野は、大井川が太古の昔から作り上げ、奈良時代の河口部は、現在の焼津市の西側まで広がり、何本もの支流に分かれた巨大な三角州を形成していた。また、公園下の土手には、カタクリの群生地があり、春先には可憐な小花が咲く。


(土手に咲くカタクリの花。)

天気が良く、気分もとても良い。暫しの間の展望を楽しもう。

(つづく)


(※)現在、名古屋鉄道グループから離れ、北海道のリゾート企業の傘下になっている。
(※)他社線に乗り入れる際、線路使用料を払う必要があるが、車両の走行キロで相殺する事もある。
(※)トンネル名は、牧之原でなく、牧の原になる。
(※)金谷宿と日坂宿間の中山峠にある伝説の石。ここで切り捨てられた妊婦の霊が乗り移り、夜な夜な泣く伝説がある。遠州七不思議のひとつになっている。現在も、国道一号線の脇に安置されている。

2017年7月31日 ブログから保存・文章修正・校正
2017年8月2日 文章修正・音声自動読み上げ校正

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