屋代線紀行(9)須坂駅 その2

特急や長野行き普通電車も発車し、静かなローカル線の中核駅の雰囲気に戻る。天気も良く、風も殆ど無い、穏やかな秋日になっている。構内北側には、長野電鉄の車両メンテナンスを行う須坂車両工場(検修区)があり、大きな検修庫が3つ寄り添っている。数人の作業員の姿も、遠くに見える。


(構内北側の検修区。)

構内西側のホーム並びには、車庫にも繋がる長い電留線が何本かあり、部品取り用と思われる廃車両等も、一緒に留置されている。


(電留線に佇む車両群。)

中程の電留線には、かなり古い旧型電気機関車が留置されており、とても驚く。長野電鉄自社発注のED5000形(5001号機)で、車籍は抹消されている為に営業線は走行出来ないが、構内での車両の入換機として使われている。かつては、貨物列車や国鉄からの臨時客車列車を牽引し、後に、除雪、工臨(工事用臨時列車)や救援用に使われていたという。

驚く事に、昭和2年(1927年)製造の国産電気機関車であり、車齢は85年になる。箱型の角ばったエッジと撫で肩の屋根、正方形木枠窓、木造の乗務員乗降扉等、国産電気機関車の黎明期に製造された大変貴重な車両である。また、国鉄ED15形に似ていると言われ、車体はひと回り小さく、モーター総出力は約27%ダウンされている。

【長野電鉄ED5000形直流電気機関車の主な諸元】
昭和2年(1927年)製造、日立製作所、全長11.5m・全幅2.7m・全高4.1m、自重36.3t、直流1,500V、B-B軸配置、吊り掛け駆動、抵抗制御、モーター4基搭載、出力600kW/h(150kW/h☓4基)、重連統括制御可。


(長野電鉄ED5001。)

日本の電気機関車の歴史は、明治45年(1912年)に信越本線の通称「横軽」こと、横川〜軽井沢間の碓氷峠区間が電化した際に、本格的に導入されたのが始まりである。それ以前は、鉱山等で、小型の輸入電気機関車が使われていた程度である。当初、イギリス・ドイツ・スイス・アメリカからの輸入電気機関車を導入しており、当時の日本の工業技術力では、最初からの国産は不可能であった。大正15年(1926年・昭和元年)になって初めて、国産のED15形を日立製作所が開発。この長野電鉄ED5000形は、その翌年に製造された車両になる。

なお、戦前までは、変電所が敵軍の空襲を受けると、鉄道輸送がストップする為、軍の反対で鉄道の電化に消極的だった。日本の鉄道電化と電気機関車の大きな発展は、戦後になってからである。ちなみに、大井川鐵道編で紹介した旧型電気機関車E10形は、終戦直後の製造である。このED5000形は、それよりも一世代以上古いが、重連統括制御も出来るなど、ローカル民鉄向けとしては、当時、非常に高性能であった。なお、合計3両が導入され、2号機(ED5002)と3号機(ED5003)は廃車済みだが、2号機が小布施駅構内に静態保存されている。

南側を見ると、開放式の車庫や工務課の詰所が並んでいる。建物も大きく、長野電鉄の風格を感じる所である。また、構内には、運輸課や乗務員が所属する乗務区も併設されている。


(構内南側。手前の3500系はN8編成、奥の大型車庫内には、1000系「ゆけむり」S1編成と
別の3500系や3600系L2編成らしい車両が見える。)

(線路横の公共駐輪場の通路から、工務課詰所を望む。)

■長野電鉄の現役車両(2011年秋訪問時)■

ここで、旅客用現役車両の簡単な紹介をしたいと思う。全線が直流電化されているので、営業用車両は全て電車になっている。また、保線工事用、除雪用や工場内用のモーターカーも、数両在籍している。

・全線架線集電方式、直流1,500V、全6車種在籍。
・長野電鉄の線路や給電状況や気候に合わせて、起動加速度抑制、抑速ブレーキ強化、
耐雪ブレーキ、暖房強化、ドア締め切り装置、ワンマン運転対応等の各種改造済み。
・長野電鉄2000系を除き、全て、関東の大手私鉄やJR東日本からの譲渡車。

◆特急列車用◆

【2000系D編成(第四編成)・通称「りんご電車」3両編成1本 】
自社発注車両、昭和39年(1964年)製造、日本車両製造、全長18.6m、二扉車、エアサスペンション、WN平行カルダン駆動、抵抗制御、モーター出力75kW/基、ワンマン運転可能。


(2000系D編成「モハ2007+サハ2054+モハ2008」。)

ツートン色の長野電鉄のマスコット的電車。その塗色から、通称「りんご電車」と言われ、イベントや定期検査時の代車で活躍しており、鉄道ファンに大変人気がある。しかし、老朽化の為、平成24年春に引退予定になっている。当時の最先端技術の粋を集めた長野電鉄オリジナル電車は、デビュー当時、大手他社の鉄道関係者の視察も相次いだという。第一編成から第四編成まで、3両編成4本が導入されたが、この1本だけが現役になっている。定期運用からは外れ、イベントや定期検査時の代走で運用されており、このりんごカラーは、平成19年(2007年)にリニューアル塗装されたもの。なお、4番線と5番線の中線に留置してある、マルーン色のA編成は、後述の2100系「スノーモンキー」が導入された為、一足先の昨年春に引退した。

【1000系(二代目)「ゆけむり」4両編成2本 】
平成18年(2006年)導入車。元・小田急電鉄10000系特急電車、昭和62年(1987年)デビュー、川崎重工業、全長〈先頭車〉16.3-16.4m〈中間車〉12.5m・全幅2.9m・全高4.2m(パンタ無し中間車4.0m)、鉄道友の会ブルーリボン受賞車、展望席付き二階運転席、連接台車、TD平行カルダン駆動、電動カム軸式抵抗制御、モーター出力140kW/基、ワンマン運転不可。


(1000系S2編成「デハ1002+モハ1012+モハ1022+デハ1032」。)

元・小田急電鉄のハイデッキロマンスカー「HiSE」で、編成前後の先頭車先端部は、14席の展望席(自由席)になっており、運転席は二階にある(客室内から梯子で出入りする)。また、国内では、珍しい連接台車を採用し、車軸重量制限の関係で車体長が短いのが特徴。この車両は、ワンマン運転が出来ない為、車掌が乗務する。

【2100系「スノーモンキー」3両編成2本】
平成23年(2011年)導入車。元・JR東日本253系特急電車、平成2年(1990年)デビュー、東急車輌製造、全長20.0m・全幅2.9m・全高4.0m、中空軸平行カルダン駆動、VVVFインバータ制御、モーター出力120kW/基、4人用個室あり(指定席)、ワンマン運転可能。


(2100系「E2編成クハ2152+モハ2102+デハ2112」。)

首都圏のJR東日本の空港特急「成田エクスプレス」に使われていた車両で、内装・外装共に、ほぼJR時代のままである。なお、前面貫通扉は、増結が無い事や冬季の隙間風を防ぐ為、閉鎖されている。湯田中方先頭車には、4人用個室「Spa猿〜ん」(指定席)がある。

◆普通列車用◆

【3500系2両編成7本(本線・屋代線用)/3600系3両編成1本(本線用)】
平成5年(1993年)導入開始。屋代線廃止と8500系の追加導入の為、3500・3600系は減車の予定である。元・営団地下鉄(現・東京メトロ)3000系通勤形電車、昭和36年(1961年)デビュー、全長18.0m・全幅2.8m・全高3.7m(パンタグラフ搭載車4.0m)、三扉車、ステンレス車体、WN平行カルダン駆動、バーニア抵抗制御、モーター出力75kW/基。


(3500系N5編成「3505+3515」。)

銀色に輝くコルゲートが大変美しく、通称「マッコウクジラ」とも。車体の赤帯は、長野電鉄導入時に追加されたもの。抑速ブレーキが装備され、本線の信州中野―湯田中間の急勾配区間も走行可能な事から、その区間の普通電車は、全て、この車両での運行になっている。また、屋代線での運行の他、長電長野発湯田中行き直通普通電車にも使われている。

【8500系3両編成6本(本線用・長電長野-信州中野間)】
平成17年(2005年)導入開始。元・東急電鉄8500系通勤形電車、昭和50年(1975年)デビュー、東急車輌製造、全長20.0m・全幅2.8m・全高4.1m、四扉車、ステンレス車体、中空軸平行カルダン駆動、界磁チョッパ制御、モーター出力130kW/基。


(8500系T6編成「デハ8506+サハ8556+デハ8516」。)

車体側面にコルゲートがあり、東急時代の正面赤帯をそのまま使っている。抑速ブレーキが装備されていない為、本線の信州中野-湯田中間の急勾配区間は走行できない。しかし、輸送力が大きく、朝夕のラッシュ時でも余裕がある事から、長電長野-須坂-信州中野間の主力車両として運用されている。上画像のT6編成は、中間車を先頭車に改造している為、若干、正面デザインが違う。なお、下の画像の左が、オリジナルのT2編成(デハ8502+サハ8552+デハ8512)、右が改造車のT6編成(デハ8506+サハ8556+デハ8516)である。行き先表示器の右側、車番位置、乗務員室屋根上の列車無線アンテナ、貫通扉のヘッドマークステイ等が相違点になっている。他、編成によっても、正面スカートの有無がある。


(オリジナルの8500系T2編成と改造車のT6編成。)

近年の鉄道輸送乗客数の減少もあり、多くのローカル私鉄では、自社発注車両の新製は困難になっている。必然的に、大手私鉄の中古車の譲渡が多くなっているが、鉄道ファン的には、往年の名車や懐かしい車両が、現役で走る姿を見る事が出来る。まだまだ、頑張って走って貰いたい。

(つづく)


2019年8月29日 ブログから転載・文章修正・校正。

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