屋代線紀行(2)信濃川田駅 前編

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【停車駅】◇→列車交換可能駅、】【→トンネル、][→高速道路アンダーパス
松代◇701==][==金井山==】【=大室=】【==711信濃川田◇
上り404列車・須坂行き(長野電鉄3500系2両編成)
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下り屋代行き電車が先発した後、定刻通りに発車。古く懐かしいモーターの起動音と共に、左に緩やかな弧を描く様にカーブする。スプリングポイントのトングレールを、ガシャリと押しながら越え、その先の小道の踏切を越えると、左右の住宅地の中に緩い登り坂が続いている。上信越自動車道の長野インター横を過ぎ、高速道路のコンクリート高架橋を潜ると、直線の線路を徐々にスピードを上げる。松代の市街地を離れるに従って、林檎の果樹園や畑が目立つ。

尖った山裾を回り込む、90度近い右大カーブ先にある金井山駅(かないやまえき)、ふたつの短いトンネルの間にある大室駅(おおむろえき)に停車。この付近は、千曲川(ちくまがわ)と山に挟まれた狭い平地を、谷街道と呼ばれていた国道403号線と共に並走している区間になる。また、古い短尺レールが、かなりの区間で使われており、車両一両の長さよりも短い。その為、ジョイント音も、一定の間があるリズミカルな音では無く、「パタン、パタン、パタン、パタン」と、畳み掛ける様に連続して聞こえる。戦前の鉄道の音であり、今とは違う印象を強く感じる。

家々が点在する果樹園と畑が広がる長閑な山国の朝焼けの中を走り、乗車10分程で、信濃川田駅(しなのかわだ-)の1番線ホームに到着。下車は自分だけで、地元住民と通学の高校生達が、四、五人入れ替わりに乗車する。

この信濃川田駅は、列車交換が出来る大きな無人駅になっており、起点の屋代駅から8駅目、15.7km地点、所要時間は約23分、長野市若穂川田(わかほかわだ)にある。

長野電鉄前身の河東鉄道(かとう-)の駅として、当初の9ヶ月間は町川田駅として、屋代駅から須坂駅間の開通時の大正11年(1922年)6月に開業した。なお、開業から4年後に、長野電気鉄道を合併し、長野電鉄に社名変更をしている。ホームの嵩上げもされており、現在の高さは電車用の1,040mmになっている。開業当時は、蒸気機関車牽引の客車列車が走ったそうだが、合併直前の大正15年(1926年)1月に、早々と電化されている。


(構内踏切から、駅舎と下り1番線ホーム。)

駅舎向かいの上り2番線ホーム・山側には、近くに千曲川の支流が流れ、田畑が広がっている。下り1番線ホーム・駅舎側は、国道、住宅や郵便局が集まっており、駅前に広大な空き地があるので、昔は、大規模な貨物取り扱いがあったかもしれない。

向こうの山の頂きは、妙徳山と呼ばれる山で、標高は1,294mある。南北に連なって見える尾根が、長野市と須坂市の境になっているとの事。なお、長野の周辺の山は、標高350m前後の盆地部から一気に1,000m近く上がる為、山々に囲まれた底に有る様な印象を感じる。


(信濃川田駅全景と妙徳山。)

ホームは東西に配置され、やや短い60m級の相対式二面二線と、東側の須坂方に、スロープ・警報機・遮断機付きの構内踏切と側線がある。


(須坂方の構内踏切。)

駅舎側の須坂方には、貨物側線一本と大きな貨物ホーム跡が残っており、本線ホームの擁壁と同じ組み方で、開業当時のものと思われる。現在は、レール置き場兼積み込み場になっている。


(須坂方の貨物ホーム跡。)

須坂方は100m程走ると、1番線が本線になっている片開きポイントで、線路が纏まり、
小さなプレートガーダー鉄橋が架かる川を渡る。


(須坂方。構内線路が長いのは、貨物列車対応の為と思われる。)

西の松代・屋代方は、ホームの一部に切り欠けがあり、此方にも、側線があったらしい。須坂方の貨物ホームよりは、新しい感じがするが、レールは撤去されている。


(松代・屋代方。)

(屋代方の切り掛け貨物ホーム跡。)

ホーム横には、掘っ立て小屋の様なブリキ倉庫がぽつんとある。今でも、使われているのだろうか。


(ブリキ壁の倉庫。)

2番線ホームの屋代方並びには、木造の小屋もあり、良い感じで残っている。
右に行くほど、屋根が並んで段々と低くなり、煙突がひょこり付いているのが、面白い。


(三連の木造小屋。)

山側には、千曲川の支流の赤野田川が流れ、せせらぎの音がホームまで大きく響いている。朝日と共に、信州のとても清々しい朝を感じる。乗車した際に、レールのジョイント音が気になったので、レールを観察してみると、短冊型継目板、長さ30フィート(約9.14m)の30kgレールの様である。もちろん、開業当時の大正時代の輸入レールと思われる。最近のローカル線は、主要幹線と同等の50kg、または、60kgレールを使っており、メートル当たりの重量は約半分相当するので、高さも低く、かなり華奢に見える。国際的には、鉱山や工事用の軽レールに該当し、国鉄ローカル線で昔使われていた37kgレールよりも細く、現役では大変珍しい。


(赤い矢印が、レールのジョイント部。)

暫くすると、カンカンカンと、構内踏切が鳴り始める。眩しい朝日と朝霧の中、7時23分発の下り407列車・屋代行き電車がやって来た。上り列車との列車交換は無く、直ぐに発車して行く。ホーム後ろには、大きな桜の老木が並び、春はとても綺麗だろう。


(眩しい朝日と朝霧の中、信濃川田駅に到着する上り屋代行き電車。)

(つづく)


グーグルマップの線路部分は、廃線の為に削除されています。駅の所在地は正しいです。

(※WN平行カルダン駆動)
WN継手という部品を介して、モーターと車軸を繋ぎ、駆動させる方式。モーターは大重量部品の為、高出力・高速運転をすると、重量や振動で線路破壊を起こしたり、レールのジョイント部通過や連結器の衝撃で、モーターが破壊される危険がある。この部品を付ける事によって、高出力・高速運転に耐え、モーター配置の最適化が出来る。「平行」とは、モーターが車軸に対して平行で、従来のカルダン(自在継手)駆動の直角配置より、重量バランスが良くなる。主に地下鉄、新幹線、JR西日本、私鉄の車両で採用されている。
(※バーニア抵抗制御)
主抵抗器に電流を通した後に、副抵抗器(バーニア抵抗器)を通して、より細かなモーター電圧制御が行える、超多段電圧制御方式のこと。トルクの変動を抑え、滑らかな加減速が得られる長所があり、VVVF(スリーブイエフ)インバータ制御方式が普及する前までは、日本国内の電車や電気機関車の殆どに採用された。

2018年6月25日 ブログから転載・校正。

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