わ鐵線紀行(48)沢入駅

足尾町の玄関駅の通洞駅(つうどう-)に戻る。上り桐生行き列車に乗車する前に、駅前の小さな有名店に寄ってみよう。駅前ロータリーを横切り、県道向かいの斜め方を見ると、何故か看板が無いが、地元の小さな肉屋「ますや」がある。
グーグルマップ・肉屋ますや(通洞駅前)

この店の昔ながらのコロッケが、通なわたらせ渓谷鐵道ファンの間で有名である。かつての国鉄時代の駅職員も、お世話になったと言われている。早速、名物の手作りコロッケ(1枚税込90円)をおばふたつ注文すると、「どこから来たのかい。列車が来るまで、上がって食べて行きなさいな」と、声をかけて頂いたが、列車の時間が迫っており、気持ちだけ感謝をして、御礼を伝えた。


(肉屋「ますや」。地元住民も、良く立ち寄っていた。)

早速、駅のベンチで食べてみよう。扁平な形の歯応えがある昭和風コロッケである。今風のコロッケの様に甘過ぎず、ラードのコクと芋の味がしっかりとしている。丁度、小腹が空いていたので、量も良い感じである。


(名物の手作りコロッケ。1枚90円。ソース無しでも旨い。)

通洞駅に列車が来るまで、駅長氏と町やわたらせ渓谷鐵道の最近の様子を雑談する。折角なので、硬券入場券とタブレットクッキー(190円)を訪問記念に購入。このクッキーは、タブレット時代の通票を模ったもので、地元の公共交通利用促進団体が作っており、代金の40円分が枕木代として寄付される。また、このラベルを100枚分送ると、枕木に自分の名前プレートを付けてくれる特典もある。また、1日フリーきっぷがあり、入場券は必要ないが、全額が鉄道会社の利益分になるので、鉄道ファンとしてのカンパでもある。


(通洞駅の普通硬券入場券。※再撮影・画像差し替え済み。)

(タブレットクッキー。※撮影は帰宅後。)

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【乗車経路】
通洞1540======原向======1555沢入
下り724D列車・桐生行き(わ89形315「わたらせIII号」単行)
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わ89形315「わたらせIII号」単行の上り桐生行き列車が到着する。ふたつ先の沢入(そうり)駅に向かおう。駅長氏に「また来ます」と会釈し、15時40分、低いエンジン音が唸り直ぐに発車。この鉱都足尾とも、お別れになる。長い下り勾配を、抑速ブレーキをグイングインと利かせながら、時速40km位で軽快に下って行く。途中の原向駅に停まり、渡良瀬川の渓谷部と難所の坂東(ばんどう)カーブを通過して行く。


(通洞駅発車直後、下り急勾配から鉱都足尾の町並みを望む。)

通洞駅から15分程で、草木ダムの北端の沢入駅に到着。自分ひとりだけが下車をすると、直ぐに発車となり、少し傾いた春の陽射しの中、紫煙を上げ走り去って行った。

こちらの上りの桐生方は、片渡りスプリングポイントでレールが纏まった後、右に急カーブして、緩い勾配を少し上り、その先の支流の鉄橋と沢入トンネルに入る。構内には、広いスペースと保線小屋が建ち並び、職員用の構内踏切もあるので、国鉄時代の足尾線北部の保線拠点だったらしい。


(沢入駅を後にする、上り桐生行き列車。)

列車の音も遠くなり、静かな山里の駅に戻っている。この沢入駅は、開業当時からの古い駅で、大正元年(1912年)12月開業になる。起点の桐生駅から33.4km地点、12駅目、所要時間約1時間10分、群馬県みどり市東町沢入(あずままちそうり)、標高461mの終日無人駅になる。

今は、草木ダムが出来た為、ダム湖北端の無人の小駅になっているが、ダム湖が出来る以前は、銅や物資輸送の中継地点として、活気があったと言う。南北に配されたズレの少ない千鳥式二面二線の列車交換可能駅で、戦後国鉄時代のものらしい鋼鉄製大型跨線橋が、桐生方に設置されている。なお、駅は渡良瀬川沿いにあり、西側の高い崖下に川が流れている。


(桐生方から、沢入駅全景。)

残念ながら、老朽化の為、駅舎は木造ログハウス風に建て替えられ、簡易郵便局が併設されている。駅前には、沢入公民館と車が数台停められる駅前広場、公衆トイレとバス停がある。バス停の時刻表を見ると、隣の神戸駅行きが、朝夕の二本だけある。


(ログハウス風の沢入駅舎。郵便局は、平日の9時から15時までの開局。)

ホームを見学してみよう。駅舎側の上りホームには、第三セクター移管後に建てられた新しいものと、国鉄時代の建て植え式駅名標が残っている。なお、国鉄時代の駅名標の平仮名表記は、現在の「そうり」ではなく、国鉄時代の仮名遣いの「そおり」で、隣駅の神戸駅(ごうど-)の部分は、草木ダムの完成で水没し、廃駅となった草木駅を書き直してある。また、この駅名標の後ろのスペースは、貨物側線跡になり、今は保線資材置き場や駐車場になっている。


(国鉄時代の駅名標。)

間藤方を眺めると、県道の踏切を通過し、直ぐに渓谷に入って行く。有名な坂東カーブは約1.8km先にあり、その先の笠松トンネルで、群馬県と栃木県の県境を越える為、わたらせ渓谷鐵道の群馬県側最北端の駅になっている。


(間藤方。)

この沢入駅では、上下プラットホームとそのホームに建っている木造待合所が、国登録有形文化財に指定されている。特に、ホーム待合所は、老朽化で取り壊されてしまう例が多く、全国的にも少ないので貴重である

上りホームは全長79m、下りホームは99mあり、3-4両編成まで対応出来る。線路からの高さも、国鉄時代の非電化路線の客車ホーム(760mm)よりも低い、足尾鐵道開業当時の高さ690mmホームのままである。擁壁は、不定形の割り石を積み上げたもので、とても風情を感じる。


(間藤方から、ホームを望む。)

◆国登録有形文化財リスト◆
「わたらせ渓谷鐵道沢入駅上り線・下り線プラットフォーム」

所在地 群馬県みどり市東町沢入甲962-1、962-2他
登録日 平成21年(2009年)11月2日
年代 大正元年(1912年)竣工
構造形式 【上り線プラットホーム】石造、延長79m。
【下り線プラットフォーム】石造、延長99m。
特記 両端を斜路状に築いた石造構造物。線路側の擁壁は練積、
軌道敷から高さ69㎝で、当初の姿を残す。

(文化庁文化遺産データベースを参照・編集。)

駅舎側の上りホーム間藤寄りに建つ待合所は、昭和4年(1929年)に建てられたもので、屋内に昭和4年登録の財産標がある。

出入り口は中央一箇所の引き戸、無垢の木造ロングベンチが設置され、四方に大きな格子窓が嵌め込まれており、グラッシーな雰囲気である。なお、天井板は無く、屋根裏や梁が剥き出しのままの質素な造りである。


(上りホーム待合所。標準的な国鉄ローカル線向け待合所である。)

(グラッシーな待合室内。)

(懐かしい半円形の「くずもの入れ(ごみ箱)」も残っていた。)

渡良瀬川側の下りホーム中央付近にある待合所は、上り待合所よりも早い、昭和2年(1927年)の建築である。駅舎側の上りホーム待合所は、駅舎がある為に後に建てられたらしいが、上りホームのものと間口や意匠の違いは殆ど無い。

こちらの方が古くなるが、軒下の国鉄時代の建物財産標は、「待合所2号」となっている。軒下の木札にも、「乗降場待合所・停第二号」と記されており、上り下りの関係だろう。


(下りホームの待合所。)

(国鉄建物財産標。昭和4年の刻印だが、上り待合所が造られた時に取り付けられたらしい。)

◆国登録有形文化財リスト◆
「わたらせ渓谷鉄道沢入駅上り線ホーム・下り線ホーム待合所」

所在地 群馬県みどり市東町沢入甲962-1、962-2他
登録日 平成21年(2009年)11月2日
年代 【上り線側】昭和4年(1929年)竣工
【下り線側】昭和2年(1927年)竣工
構造形式 共に、木造平屋建、瓦葺、建築面積9.9m²。
特記 中央に桁行5.5m、梁間1.8m、木造平屋建、
切妻造セメント瓦葺の待合所を設ける。
側中央間を出入口とし、その他は腰板壁で、各間に引違いガラス戸をたて、
明るく開放的な造りとする。天井を張らず小屋組を見せる。

(文化庁文化遺産データベースを参照・編集。)

渡良瀬川側を覗くと、遊歩道「ふれあいパーク」が整備され、紫陽花の名所になっている。この沢入駅では、毎年7月中旬に2,300株の紫陽花が咲き、「あじさい祭」も開催され、模擬店やライトアップもされ、多くの観光客や写真愛好家で賑わう。また、標高も高い為、遅咲きの桜並木もあり、隣の神戸駅と同様に花の駅になっている。


(沢入駅ふれあいパーク。入り口横の石銘板には、平成20年7月に整備されたとある。)

(間藤方にある木造小屋。待合所と似たデザインになっており、鉄道員とその家族が暮らした鉄道官舎と思われる。)

暫く、見学撮影をしていると、16時19分発の下り723D列車・間藤行き「わ89形101・こうしん号」が、やって来た。丁度、待合所の前に停まる。この古い待合所と銅色(あかがねいろ)のレールバスの組み合わせも、中々、似合ってると感じる。


(こうしん号と下りホーム待合所。)

(つづく)


【参考資料】
群馬駅ぶらり旅「わ鐵沢入駅」(みどり市公式HP)

2018年6月21日 ブログから転載・校正。

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