わ鐵線紀行(49)沢入散策と神戸駅の夕べ。

沢入駅(そうり−)の周辺を少し散策してみよう。

この沢入は銅街道(あかがねかいどう)の宿場として栄え、群馬県と栃木県の県境の地蔵峠を越える要衝地であった。川沿いの標高650m程度の峠であるが、渡良瀬川筋の足尾日光方面に抜ける最大の難所になっている。足尾銅山で採掘した銅を輸送する際も、岩の多い渓谷部では、水運が使えず、大きな障壁であった。

大正元年(1912年)の足尾鐡道(後の国鉄足尾線、現・わたらせ渓谷鐵道)開通前は、足尾からの馬車鉄道の最南方の終点であった。渡良瀬川の難所を逆コの字に岩壁を掘り抜いた半トンネルの「片マンプ」で越え、沢入からは、渡良瀬川の水運で桐生方面に銅を運んでいた。また、貨物用ロープーウェイの駅もあり、この沢入から東の山を越え、桐生川上流に産出する鉱毒水中和用の石灰石を運び込んでいたと言う。しかし、足尾鐵道が開通すると、沢入までの馬車鉄道とロープウェイは、共に廃止になった。

駅の周辺には、立派な黒瓦の民家が数軒建ち並んでいるが、とても静かである。地元実業家コレクションの陶器や良寛書を一般公開している、陶器と良寛書の館【博物館マーカー】(見学有料)もある。


(駅前通りの立派な旧家。石材店である。この沢入も、元・勢多郡東村になる。)

(陶器と良寛書の館。訪問時は、東日本大震災の影響で、臨時休館であった。)

駅前から北の方に歩いて行くと、軒の間の山際の高い場所に、小さな薬師堂【祈りマーカー】がある。400年以上昔の天正8年(1580年)頃製作のものとされる薬師如来が安置されており、この近辺の最も古い仏像との事。傍らには、由来を記した立派な石碑も、建てられている。


(沢入薬師堂。薬師如来は、高さ約47cmで、製作者は不明との事。)

その先の県道踏切を越えると、沢入橋【カメラマーカー】あり、渡良瀬川の上下流を高所から眺められる。旧橋の橋脚【赤色マーカー】と取り付けられた旧道が、上流側に残っており、とても低い位置あるので、増水時は沈下したかもしれない。なお、この沢入は、沢入御影(そうりみかげ/御影石・花崗岩)の名産地でもある。群馬県では最大の埋蔵量と石材産地になっていて、東町の主要産業になっている。墓石の需要が多いが、東京の日本石油有楽館(現在は取り壊し済み)にも使われ、沢入駅の貨物側線から、積み出しをしていた。


(渡良瀬川上流方。旧橋の橋脚と旧道が残っている。川中のこの白い石も、御影石である。)

(渡良瀬川下流方。渓谷の出口になり、岩は少なくなる。この付近は淵になっている。)

そのまま、対岸に渡ってみよう。駅周辺よりも、渡良瀬川右岸(西側)の集落の方が大きく、駐在所、消防団倉庫、火の見櫓、寺院や小学校等が集まり、国道も通っている。集落内には、小さな不動尊、旧家や古い蔵も見られ、とても静かな古い集落になっている。


(駐在所隣の旧家には、古い蔵と新しい蔵が並ぶ【緑色マーカー】。)

(見澤不動尊【灰色マーカー】。観光案内板もなく、由来は不明である。)

(旧・沢入小学校【青色マーカー】。現在は廃校になり、国内唯一のサーカス学校が入っている。)

集落の外れの川寄りには、銅街道の石畳【黄色マーカー】がある。当時は、一頭あたり90kgの銅を積んだ100頭もの馬が通過したので、地面が掘られない様に、坂道は石畳舗装されていた。

なお、銅街道は、足尾から利根川河岸にある前島までの58kmを五つの宿で結び、その宿間を1日かけて移動したので、江戸時代当時は利根川まで出るのに4日掛かった事になる。そこからは、水運を使い、東京浅草の御用蔵まで銅が運ばれた。明治以降の足尾銅山の近代化による銅生産量の急増で、道幅を2mに広げたが間に合わず、その為、馬車軽便鉄道が沢入まで敷かれたと言う。


(銅街道。近年に復元された石畳の坂道である。)

国道まで出ると、地元古刹の曹洞宗の大澤寺(だいたくじ)【万字マーカー】がある。弘法大師が引き上げたと言う、庚申像を安置した庚申堂があり、明治維新の頃に建てられたと伝えられている。また、「わたらせ七福神めぐり」の一寺で、中国道教の長寿神・福禄寿像が安置されている。この旅で参拝した、大間々の神明宮(じんめいぐう)、花輪の祥禅寺、足尾の宝増寺にも、安置されているとの事。


(大澤寺庚申堂。)

そろそろ駅に戻ろう。帰り道の途中、対岸の沢入駅が良く見える。崖下に親水公園があり、河原には降りられないが、渡良瀬川を間近に見られる。


(渡良瀬川西岸からの沢入駅と親水公園。)

さて、この旅最後の訪問駅・沢入駅の訪問を終えた。山里の夕べが徐々に迫っている。時刻は17時を過ぎた。そのまま、車を駐車してある大間々駅(おおまま-)まで、戻ろうと思ったが、隣の神戸駅(ごうどえき)に、再び立ち寄ってみよう。

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沢入1735======1743神戸
上り726D列車・桐生行き(わ89形101「こうしん号」単行)
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17時24分、陽が沢入の山影に隠れるが、空はまだ明るい。先程の下り間藤行き「わ89-101 こうしん号」が、ヘッドライトを煌々と点け、上り列車として、折り返して来た。


(上り726D列車・桐生行きが到着する。)

折り戸式乗降口がパタンと開き、ステップを上がると、乗客は誰もいない。日中、観光客で混雑する春のハイシーズンでも、いちローカル線の閑散とした風情になる。定刻に発車し、新線の短いトンネルと第一渡良瀬川橋梁を渡ると、長い草木トンネルに突入する。高規格線路の下り勾配区間なので、かなりのスピードを出し、バス用を流用した軽量な車体がブルブルと時々震える。

長いトンネルを抜け、名物の桃花並木を並走すると、17時43分に神戸駅到着。観光客は殆どおらず、ひっそりとした山里の小駅に戻っている。下り725D間藤行き「わ89形314、わ89形313」の二両編成と列車交換になり、下り列車から乗客が少しばかり下車している。暫く停車した後、上下列車共に汽笛を一吹きし、ディーゼルエンジンの力強い音と共に発車して行った。


(神戸駅での列車交換風景。)

さて、梅桜の大共演を日没まで楽しむ事にし、この旅の締めくくりにしよう。昼間はカメラの砲列が並んでいた構内跨線橋からの眺めが良いので、登ってみる。この二日間は、テンションが高かったので、少しばかり疲れが出てきた。


(跨線橋からの列車レストラン清流。)

(渡良瀬川側の桃桜大共演。)

向うの渡良瀬川のせせらぎの音、鶯や蛙の鳴き声は絶え間なく、また、猿避けの擬鉄砲音が、時折、こだまする。しかし、日没直後、それを察したのか、動物達は急に静かになり、レールの踏面も燻銀に光り出した。18時58分発の上り桐生行き列車に乗り、大間々駅まで戻る事にしよう。


(日没直後の神戸駅。)

先程、列車交換をした「わ89形313、わ89形314」の折り返し列車がやって来ると、一人下車し、自分のみが乗車する。やはり、乗客は自分一人らしい。手持ちの時刻表を確認すると、19時30分に大間々駅に到着する。すっかり暗くなった外の景色は見えないが、夜汽車の雰囲気を楽しむ事にしよう。上り勾配に挑むけたたましいディーゼルエンジン音も無く、ジョイントを踏みながら、軽快に長い勾配を滑る様に下って行く。

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【乗車経路】
神戸1858======1930大間々(終)
上り728D列車・桐生行き(わ89形313+わ89形314」2両編成)
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(わたらせ渓谷鐵道編/終)

わたらせ渓谷鐵道公式HP

■旅程表■
【本取材日】
2011年(平成23年)4月12日・13日の二日間

【追加取材日】
2012年(平成24年)4月15日 桐生市内観光、相老駅訪問。
2012年(平成24年)4月24日 桐生市内観光
2012年(平成24年)7月29日 上神梅周辺観光(深沢宿)、足尾歴史館訪問。
2013年(平成25年)4月15日 乗り鉄訪問、沢入駅周辺散策。

【本取材1日目/2011年4月12日】
大間々0608 上り750D 桐生行き 乗車起点駅
0621
桐生0639 下り711D 間藤行き
0742
神戸1021 上り716D 桐生行き 国登録有形文化財駅 周辺観光(旧線跡・草木ダム・富弘美術館)
1031
花輪1218 上り718D 桐生行き 周辺観光(花輪宿・旧花輪小学校)
1239
上神梅1346 上り720D 桐生行き 国登録有形文化財駅 ※深沢宿は追加取材時に訪問。
1354
大間々1713 下り725D 間藤行き 国登録有形文化財駅 周辺観光(高津戸峡など)
1730
水沼1806 上り726D 桐生行き
1821
大間々(地元ビジネスホテルに宿泊)

【本取材2日目/2011年4月13日】
大間々0608 上り750D 桐生行き
0621
桐生0639 下り711D 間藤行き
0815
間藤 足尾本山観光(精錬所まで徒歩観光)

歩き鉄(間藤〜足尾〜通洞) 足尾駅訪問(国登録有形文化財駅)、周辺観光あり

通洞1540 上り724D 桐生行き 国登録有形文化財駅 下車観光あり
1555
沢入1735 上り726D 桐生行き 国登録有形文化財駅 下車散策あり(追加取材時)
1743
神戸1857 上り728D 桐生行き 国登録有形文化財駅
1930
大間々(終)

【切符と交通費】
わ鐵1日フリーきっぷ 大人1,800円 ×2日間(計3,600円)
駐車場代(大間々駅構内)1日500円 ×2日間(計1,000円)
※自宅から大間々までのガソリン代と追加取材時は含まず。


【参考資料】
現地観光案内板
わたらせ渓谷鐵道沿線散策ガイド(わたらせ渓谷鐵道連絡協議会発行)

2018年6月23日 ブログから転載・校正。

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