わ鐡線紀行(29)上州桐生めぐり1

わたらせ渓谷鐵道の連載の途中であるが、同鉄道の起点駅であり、この地域の中心都市となっている桐生(きりゅう)市街地の紹介をしたいと思う。

旧・国鉄足尾線こと、わたらせ渓谷鐡道の起点駅である桐生は、かつては、「織物の町」として栄え、このエリアの中心的な町のひとつになっている。広大な関東平野最北端の山際に位置し、渡良瀬川左岸の吾妻山(標高481m)の南麓にある。

駅周辺の人口は約三万人で、商業施設、公官庁や学校等も多く集まっている。東日本最大の織都と足尾銅山への玄関口として、沢山の人々や物資が集まった事から、四つもの鉄道が乗り入れており、JR東日本両毛線(りょうもうせん)、わたらせ渓谷鐵道(旧国鉄足尾線)、上毛電気鉄道、JR桐生駅から南西方約2kmに東武鉄道の新桐生駅がある。なお、JR両毛線は、明治21年(1888年)に、小山から足利間が開通した両毛鉄道が前身で、同年末に桐生まで延伸開通しており、鉄道の開通も早かった。後に、日本鉄道を経て、明治39年(1906年)に国に買収され、国鉄両毛線になっている。

JR両毛線のほぼ中間地点にある桐生駅は、中心部である旧市街地よりも西寄りにあり、鉄筋コンクリート製の近代高架駅になってる。東西に二面四線のホームを配し、北側の1番線はわたらせ渓谷鐡道、2番線はJR両毛線下り小山方面、3番線はJR両毛線上り高崎方面、4番線は当駅折り返し列車用に使われている。

高架ホームからの階段を降りて、改札に向かおう。JR東日本のIC乗車券のスイカ(Suica)が利用出来る首都圏近郊エリアなので、自動改札機が設置されている。また、三色の国鉄電光案内板が残っており、「自動」や「きっぷうりば」の表示も懐かしい。なお、わたらせ渓谷鐡道では、JRに駅業務を委託している。わたらせ渓谷鐡道の切符をJRの自動券売機で購入出来る。


(桐生駅改札口。改札は、高架下の一箇所のみである。)

改札を出ると、高架下の西に伸びた長いコンコース(自由通路)になっている。立ち食い蕎麦屋やキヨスクもあるが、どこか寂しげである。地元企業の製品や土産等が、大きなガラスケースに展示されており、高崎寄りには、桐生周辺の土産を販売している「桐生観光物産館わたらせ」もある。北口ロータリーに出て、駅舎全景を見てみよう。国鉄時代最末期の昭和60年(1985年)に高架化された三代目駅舎になる。昭和42年(1967年)までは、南口は無かった事もあり、北口の方が賑やかになっている。


(桐生駅。反対側の南口は、ビジネスホテルの激戦区になっている。)

早速、町中の観光に出かけてみよう。すこぶる快晴で、春の陽差しも眩しい。北口ロータリーに接続する県道3号線の横断歩道の向かいには、古い立派な建物の坂光商店【青色マーカー】が建っている。昭和2年(1927年)に建てられ、雑貨店として、今も営業しており、右横書きに「山形とサ」の屋号も誇らしげで、二階の縦長窓も目を引く。


(駅前横断歩道先の坂光商店。)

横断歩道を渡り、北に向かって、歩いて行く。坂光商店の北側には、古い和風旅館の花月旅館【赤色マーカー】があり、二階の壁や窓は改修されている様であるが、立派な宮造り屋根が残っている。ちぐはぐとした昭和の香りがし、間口が狭いが、奥行きが長く、部屋数は16部屋との事。現在も営業している昔ながらの老舗駅前旅館である。


(花月旅館。)

玄関横には、防火水槽があり、屋根に降った雨水が樋を伝って、流れ込む仕掛になってる。右横書きの屋号が刻印されているので、戦前のものであろう。


(花月旅館玄関先の防火水槽。)

更に、北に歩いて行くと、交差点角にハイカラな建物が見えて来る。前橋と桐生を結んでいる民営鉄道・上毛電気鉄道の西桐生駅【電車マーカー】である。今回は、わたらせ渓谷鐡道の旅であるが、折角なので、見学して行こう。この駅舎は、上毛電気鉄道開業時の昭和3年(1928年)当時の古い駅舎で、マンサード屋根(腰折れ屋根)の木造モルタル洋風建築になっている。また、特徴的な戦前建築物である事から、国の有形登録文化財と「関東の駅百選」に選定された。


(上毛電気鉄道西桐生駅。)

横幅のある車寄せは、コーニス(軒蛇腹)がある平屋根を細い円支柱で支え、駅出入口上には、新調された一枚板の駅名標が掲げられている。正面最上部の換気口には、閃光を模したガラス製の雷文(らいもん)があり、周囲の壁面には、モルタル装飾が施されている。これは、「雷銀座」と言われる程、群馬の夏は雷が多い事が由来である。


(車寄せと駅出入口。車寄せの柱には、「関東の駅百選」の金色プレートが輝く。)

駅舎内に入ってみよう。天井が大変高く、左手が改札口と出札口、右手が大きな待合室になっている。白とピンクのポップな塗装は、戦前のものと思えない程、とても可愛らしい。改札口周辺には、旧出札口や据え付けの木造ロングベンチ等が残っている。旧出札口には、鉄格子が嵌めこまれており、そのモダンなデザインに驚く。


(改札口周辺。駅事務室出入口左の一段低いテーブルは、手小荷物窓口跡らしい。)

(旧出札口跡。三つの窓口があったらしい。上手く、自動券売機を組み込んである。)

(改札口左横の縦型窓と一体化した、L字木造ロングベンチ。)

ローカル駅としては、とても大きな待合室があり、小学校の教室ふたつ分近い広さがある。かつて、絹織物生産で栄えた桐生と群馬最大商都の高崎との人や物の往来が、大変盛んであった名残であろう。


(待合室。内壁は漆喰壁で、中央部に、天井から降りた梁の壁部分がある。)

高さのある天井は、細い羽目板張りで、明るいクリーム色に塗られている。天井隅に換気口らしい穴があり、花弁をあしらっているデザインも、こだわりを感じさせる。


(花弁をあしらった換気口。)

この西桐生駅は、中央前橋駅からの下り列車の上毛電気鉄道終着駅であり、時間限定の有人駅になっている。入場券を購入し、ホームの見学と撮影の許可を貰う。ホームが高い位置にある為、幅の広いスロープを上がる。ストレート葺きの切妻屋根の木造旅客上屋も、開業当時のもので、クリーミーな緑色に塗られている。なお、前橋方の増設部分があり、T形鉄骨柱と波形トタン屋根の平葺きになっている。有効長80m程度の行き止まり式一面二線のホームであるが、1時間に1本程度のダイヤの為、北側の1番線を使う事が多いとの事。なお、全線直流電化路線になっており、東京の京王電鉄井の頭線3000系を譲り受けて、運行している。


(ホームの旅客上屋。)

ホーム西端から、中央前橋方を望むと、線路は真っ直ぐに伸びている。真ん中が1番線の本線で、北側に分岐した線路は、貨物側線の名残らしい。なお、貨物ホームと集積場は撤去され、月極兼日貸し駐車場になっている。


(中央前橋方。)

ホームから改札口を、振り返って見てみると、改札横の詰所は外壁よりも外側にあり、後年の増築部分と思われる。駅舎の外見は洋風であるが、駅事務室内は、畳や土間もある和風になっているとの事。また、車止めは、バラスト(砕石)盛りではなく、砂盛りであるのも珍しい。


(ホームからの改札口と車止め。右側の2番線車止め後ろには、臨時改札口もある。)

(ホーム側の改札口。スロープ下には、二台の自動両替機があるのも、珍しい。)

なお、上毛電気鉄道は、東武グループの民営鉄道会社になっている。しかし、近年、沿線の利用客減が大きく、わたらせ渓谷鐡道と同様に、群馬県と沿線自治体の支援を受けている。また、鉄道ファン向けのイベントやオリジナルグッズの販売も積極的で、旧型電車デハ100形の動態保存・運転や車庫公開等を行なっている。このデハ100形は、開業当時の昭和3年(1928年)・川崎車両神戸工場で製造された吊り掛けモーター搭載の直流電車で、本線も走行できる事から、注目を浴びている。他、東急の凸型直流電気機関車デキ3021や、東武の古い有蓋貨車テ241の動態保存もしている。
上毛電気鉄道公式HP


(上毛電気鉄道デハ100形のポスター。)

女性駅員氏に見学の御礼を言うと、「是非、また来て下さい。」との事。西桐生駅から、東へ行ってみよう。

◆国登録有形文化財リスト◆
「上毛電気鉄道西桐生駅・駅舎とプラットホーム上屋」

所在地 群馬県桐生市宮前町2-1-33
登録日 平成17年(2005年)12月26日
登録番号 [駅舎]10-0148 [旅客上屋]10-0149
年代 昭和3年(1928年)築
構造形式 [駅舎]木造平屋建、鉄板葺、建築面積189㎡。
[旅客上屋]木造、スレート葺、面積175㎡。
特記 [駅舎]
広場の北側に南面して建ち、東西19.1m、南北14.6mの規模で、
鉄板葺き、木造平屋建て、中央改札場をマンサード屋根、東側待合室を寄棟屋根、
後部事務室等を切妻屋根とし、正面に車寄せを付ける。
全体をモルタル塗りとし、窓周りに装飾を施す。
[旅客上屋]
駅舎の西側に隣接して建ち、東西27.4m、南北6.4mの規模で、
切妻造り,スレート葺き、木造の旅客上屋である。
計10本の独立柱で上部のトラスを支え、柱とトラス等はボルトで緊結される。
希少となった木造旅客上屋は、往時の鉄道駅の景観を残し、貴重である。

※文化庁公式ページの国指定文化財等データベースを参照・編集。

(つづく)

謝意
桐生市教育委員会教育部生涯学習課さま、坂光商店の照会等をして頂きまして、
ありがとうございます。厚く御礼申し上げます。

2017年11月25日 ブログから転載・校正

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