わ鐵線紀行(10)草木ダム観光 その1

この神戸駅から、渡良瀬川上流約1.5kmの地点に、草木ダム(くさき-)と呼ばれる巨大ダムがある。そのダムの建設により、国鉄足尾線の線路が水没する事になった為、神戸駅から下り間藤方面の隣駅・沢入駅(そうり-)までは、線路の付け替えをした新線区間になっている。今でも、旧線の一部が残り、遊歩道になっている。

その前に、間藤方の引き込み線に寄ってみる。波形スレート屋根の大きな車庫に、保線用の大型車両が留置されている。古い写真を調べると、元・貨物ホームと貨物側線であったらしい。


(元・貨物側線の間藤方の引き込み線。)

(軌道モーターカーと保線資材運搬用トロッコ。※追加取材時の午後に撮影。)

駅前の急坂を登ると、上を通る県道から、眼下に駅を一望できる。ここから見ると、駅は渡良瀬川の河床の低地にあるのがよく判る。高低差は20m以上もある。
国土地理院国土電子web・わたらせ渓谷鐡道神戸駅・1/25,000


(神戸駅と駅前広場。※追加取材時の午後に撮影。)

急坂を上がると、線路側に下がる脇道が横にあり、その先に第1種踏切の座間街道踏切【線路マーカー】がある。ここの花木の隙間から見える駅の光景も、なかなか良い感じになっており、定番撮影地になっている。
マピオン電子地図・わたらせ渓谷鐡道神戸駅付近座間街道踏切


(踏切に降りる小道の座間街道。)

(花桃の枝の隙間に、引込み線の手動式ポイントが見える。)

(坂の途中から神戸駅を望む。左の切れている線路は、元・3番線。)

この座間街道は、地域の中心地である桐生と、この元・東村(現・みどり市東町)を結ぶ最短距離の旧街道であった。鉄道や国が整備される以前は、重要な生活道であったと言う。なお、座間峠(標高約950m)を経由する事が、街道名の由来になっている。

また、足尾鐡道の敷設案では、座間街道筋の座間峠、または、その東の大茂峠(だいもん-)を経由し、三境山・残馬山系の尾根を越え、梅田集落(現・桐生市梅田町)を通り、桐生川沿いに下り、北側から桐生に入る計画であった。距離約20kmの最短ルートであったが、梅田集落では鉄道建設反対となり、疫病をもたらす等の風評や養蚕桑への煙害、山火事を心配する声が上がった為、この最短ルート案は廃案になった。

結局、敷設し易い渡良瀬川沿いに、線路が敷設された。国道も並行して整備され、この最短ルートも廃れてしまっている。現在の県道343号線は、座間街道の一部をなぞっているが、峠付近は車が通れない山道らしい。

青ラインが座間峠ルート、黄ラインが大茂峠ルート、赤ラインが現在のわたらせ渓谷鐵道(旧足尾線)のルートになる。なお、大茂峠ルートが最も有力であったらしく、梅田集落は両ルートの合流地点【星印】にある。座間峠ルートと大茂峠ルートでは、現在の桐生駅の1.6km北側にある桐生天満宮付近に、駅を設置する計画であった。

また、大間々(おおまま)から桐生へのルートも、複数検討されていた。大間々から桐生には向かわず、両毛線の岩宿へ結ぶ案【緑ライン】や、大間々から東の高津戸と川内を経由し、桐生に達する案【灰ライン】も検討されている。

座間街道踏切から戻り、広い道を少し歩いて行くと、線路をオーバーパスするコンクリート製陸橋である万年橋【黄色マーカー】を渡る。橋の上から間藤方を見ると、狭くなっていく川谷の線路端に、ずらりと花桃が並んでいる。
マピオン電子地図・わたらせ渓谷鐡道神戸駅付近万年橋


(万年橋からの間藤方。)

万年橋から降り、この線路際の花桃並木【カメラマーカー】を眺めながら、のんびりと歩いて行こう。人家は点在するが、人気は無い。車も通らず、風の音のみが通り過ぎて行く。途中に、湧き水が勢いよく流れている場所があり、水音で清々しい気持ちになる。金属ボールも置いてあり、隠れた地元の名水処かもしれない。また、線路横断禁止の注意書きの木製看板も味がある。


(線路際の花桃並木。幹も細めの若木が多い。)

(線路際の湧き水。)

花桃に寄り添っていた線路は、軽く左カーブをし、道路から離れてしまう。そして、新線の草木トンネルに吸い込まれて行く。草木トンネル手前の線路の右側にスペースがあり、ここが旧線の分岐地点らしい。

その先の道路脇には、藪の中の錆びついた小さな鉄橋跡があり、道路より一段高い場所に旧線道床があった事が判る。


(旧線の小さな鉄橋。名称は不明。)

もう少し歩くと、道路は右に急カーブをし、渡良瀬川を渡る。そのアウトサイド側の山腹に、旧線のトンネル【トンネルマーカー】がある。

この旧国鉄足尾線琴平トンネル(ことひら-)は、足尾鐡道開通時に掘削されたトンネルになり、今から100年前の大正元年(1912年)竣工のものである。現在は、草木ダム周辺の遊歩道として整備されており、観光案内板も設置されている。なお、このトンネルまでは、神戸駅から約1km・徒歩15分程になる。
国土地理院国土電子web・旧国鉄足尾線琴平トンネル


(旧国鉄足尾線琴平トンネル。車は通れない。)

(トンネル前の観光案内看板。)

なお、この旧線が廃線になったのは、草木ダムが完成する約4年前の昭和48年(1973年)になり、廃線から約40年が経過している。垂直の岩壁に開けられたトンネルは、ポータルはイギリス積み煉瓦造り、内部の下部は石積み、上部は煉瓦巻きの馬蹄型になっており、蒸気機関車の黒煤跡が今も残っている。


(旧国鉄足尾線琴平トンネル桐生方ポータル。扁額は取り外されているらしい。)

そのまま、トンネル内に入ってみよう。長さ50m程度、照明は無いので薄暗く、ひんやりとした空気を感じる。トンネルを抜けると、古レールを柱に使った大きなロックシェッド(落石覆い)がある。使用本数も多く、幾何学的な美しさは、見応えがある。

なお、刻印を探したが、確認できなかった。このロックシェッドは、昭和一桁頃に造られたと言われている。擁壁も垂直に近い絶壁であり、まるで、レールのトンネルの様である。今にも、神戸駅を発車した下り列車が、やって来そうな感じがする。


(間藤方から、ロックシェッドと琴平トンネル間藤方ポータル。)

(両側の支持部分は、溶接と補強がされ、上部のコンクリート製土砂避けを支える。)

緩やかな遊歩道をそのまま歩いて行くと、大型の掛樋(かけひ)も残っている。雨水や土砂が線路内に流れ込まない様に、上部の樋で誘導し、川にそのまま落とすものである。なお、鉄道用掛樋を間近で観察出来るのは、全国的にも珍しい。列車の車窓から見る以上に大きく見え、柱は古レール、樋は金属製になっている。


(旧線の鉄道用掛樋。間藤方から撮影。)

山側の擁壁は、コンクリートに丸い石を埋め込む玉石積みになっている。コンクリートが高価であった頃、資材節約や補強の為に良く見られる工法であるが、最近では、滅多に見られなくなっている。石の大きさも20-30cmと綺麗に揃えてあり、独特な景観がレトロである。

なお、この旧線遊歩道は、緩い登り坂が続く穏やかな道であるが、右手の渡良瀬川は、切り立った崖の深いV字谷の難所になっている。

(つづく)


【参考資料】
現地観光案内板・解説板
「視点オピニオン21・わたらせ渓谷鐵道」(上毛新聞公式HP・2005年2月4日記事)

2017年8月10日 ブログから保存・文章修正・校正
2017年8月10日 文章修正・音声自動読み上げ校正

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