再び、大正初期の古い木造駅舎を通り、ホームに出てみよう。この神戸駅(ごうど-)のホームは、春に花桃が咲き乱れる駅で有名になっており、多数の観光客やフォトグラファーが押し寄せる。更に、シーズン後半になると、渡良瀬川側に植えられた桜並木も咲く大共演となり、桃源郷の様な素晴らしい光景が広がる。
また、地元出身の世界的有名画家・詩人の星野富弘(ほしのとみひろ)氏の作品を展示している富弘美術館の最寄り駅であり、開花シーズン中の団体バスツアーにも、よく組み込まれている。
(1番線ホーム中央付近から、花桃が咲くホームと桐生方。建物は桐生方に寄っている。)
(枝いっぱいに花桃が付いている様は、実際に見ると圧巻である。)
(国鉄時代の跨線橋上から、間藤方を望む。こちら側の景色が特に良い。)
上り南西・下り北東方向にホームが配され、緩やかにカーブをしている相対式二面二線になっている。駅舎の近くに、鉄骨製の屋根無し跨線橋があり、桐生方ホーム端にも、構内踏切がある。なお、構内踏切は、観光客等の安全対策の為、列車接近警報機付きになっている。
下り1番線ホームは134mの長さがあり、わたらせ渓谷鐡道の最長級である。トロッコ列車のディーゼル機関車と客車4両の5両編成が、全てホームに接する事が出来る。上り2番線ホームは少し短く、長さ107mになっている。また、高さ760mmの客車ホームであるが、中央部は気動車のステップ高の920mmに嵩上げされている。
(南側から神戸駅ホーム全景。左が下り間藤方面、右が上り桐生方面。)
間藤方を眺めると、緩やかに右カーブをしながら、線路がまとまる。左手には、保線車両を留置している引込線と車庫がある。この下り1番線ホームも、国の登録有形文化財に指定されており、跨線橋から間藤方の北側は、未舗装の砂利のままになっている。
(下り1番線ホーム端から、間藤方を望む。)
なお、手前の小屋から直角に接続しているレールは、保線用のレールバイク(軌道自動自転車)を出し入れするレールである。レールバイクは、保線係の線路の巡回・点検や移動に使われている。
◆国登録有形文化財リスト◆
「わたらせ渓谷鐡道神戸駅下り線プラットホーム」
所在地 | 群馬県みどり市東町神戸886-1 他 |
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登録日 | 平成21年(2009年)11月2日 |
登録番号 | 10-0282 |
年代 | 大正元年(1912年)竣工、昭和5年(1930年)増築。 |
構造形式 | 石造、延長134m。 |
特記 | 擁壁は間知石練積である。間藤方は砂利敷きが残る。 |
(文化庁公式ページの国指定文化財等データベースを参照・編集。)
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駅舎の間藤方並びの幾つかの小屋の中に、煉瓦造りの小さな倉庫がある。石油ランプや暖房等で使う灯油や危険品を保管した危険品庫である。蒸気機関車の煤煙の火の粉等による引火火災を防ぐ為、木造駅舎から離れた場所に建てられていた。今は、取り壊されている場合が多く、貴重になっている。これも、国の登録有形文化財に指定されている。
大きさは1坪程、片勾配の急傾斜屋根に覆われ、窓は無い。扉上方に独特なアールがあり、煉瓦組みも扇形になっているのが興味深い。
(危険品庫の正面ホーム側。)
後ろを見ると、屋根は波形スレート葺き(※)になっており、戦後に葺き替えられた可能性がある。
(危険品庫の駅前広場側。)
◆国登録有形文化財リスト◆
「わたらせ渓谷鐵道神戸駅危険品庫」
所在地 | 群馬県みどり市東町神戸878-2 他 |
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登録日 | 平成21年(2009年)11月2日 |
登録番号 | 10-0284 |
年代 | 大正元年(1912年) |
構造形式 | 煉瓦造平屋建、波形スレート葺、建築面積3.3㎡。 |
特記 | 下り線プラットホーム中央部に位置する。 間口1.8m、奥行1.8m、煉瓦造平屋建、波形スレート葺の片流れ屋根。 本線側に出入口を設け、開口上部は欠円アーチ状に積む。 正面のみをイギリス積とし、側・背面は長手積とする。 木造中心の駅舎群の中で目を引く存在。 |
(文化庁公式ページの国指定文化財等データベースを参照・編集)
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下り1番線ホームの桐生方に行ってみよう。駅前から見た休憩所とホームの間に、操作てこ小屋と転轍機(てんてつき/ポイント)ワイヤーが、線路に出ていた穴跡がある。現在、操作てこは撤去され、物置として使われている。
(操作てこ小屋と転轍機ワイヤー口。※追加取材時に撮影。)
その手前横には、大きな「工(こう)」の刻印付きの防火水槽が、置かれている。木造駅舎や花々に目が行きがちであるが、これも国鉄時代の名残である。なお、この「工」の字は、官営鉄道や省鉄、後の国鉄のマークである。明治政府の鉄道部門が工部省であった由来からである。
(国鉄の「工」マークのある防火水槽。※追加取材時に撮影。)
桐生方を望むと、向こうの転轍機小屋付きのスプリングポイントを通過し、線路がまとまり、神土(ごうど)トンネルに下って行く。また、下り1番線側にも、出発信号機があり、上り桐生方に折り返し発車ができる様になっている。この駅止まりの臨時列車の折り返しに、使われている。
(桐生・大間々方と構内踏切。)
構内踏切を渡り、向かいの上り2番線ホームに向かおう。2番線ホーム中央部には、わたらせ渓谷鐡道直営の列車レストラン「清流」がある。週末や祝日、花見シーズンになると、駅周辺に飲食店が全く無い為、食事処として賑わう。
(上り2番線の列車レストラン清流。)
懐かしの東武鉄道日光行き特急デラックスロマンスカー「けごん」の2両の中間車が、元・3番線のレールの上に固定され、出入口兼厨房のプレハブ建物を挟む形になっている。
昨年、現役当時に再塗装され、台車や床下機器、独特なキノコ型カバーの冷房装置も、そのまま残されており、往年の鉄道ファンにとっても、嬉しい保存状態になっている。屋根上のパンタグラフも撤去されず、イルミネーションの電柱の代わりになっている。
(跨線橋からの屋根周りのパンタグラフときのこ型冷房装置。)
(住友金属製FS370台車。)
【東武鉄道1720系電車・主な諸元】
昭和35年(1960年)デビュー、特急用電車、20m車体、最高運転速度110km/h、
中空軸平行カルダン駆動、モーター出力75kW、バーニア抵抗制御(界磁付き)、
抑速ブレーキ装備、住友金属製FS370台車。
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2番線ホームの間藤方は、昔の雰囲気を最も残している。長い年月、土が被ったままのホームには、多くの花木が育っている。反対側は元・3番線になり、貨物列車の待機等に使われていた。
(1番線ホーム間藤方から、2番線ホームを望む。)
◆国登録有形文化財リスト◆
「わたらせ渓谷鐵道神戸駅上り線プラットホーム」
所在地 | 群馬県みどり市東町神戸878-2 他 |
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登録日 | 平成21年(2009年)11月2日 |
登録番号 | 10-0285 |
年代 | 大正元年(1912年)竣工、大正12年(1923年)改修。 |
構造形式 | 石造、延長107m。 |
特記 | 下り線プラットホームの南に位置する。 延長107mで、下り線と同様に緩やかなカーブを描く。 本線側の擁壁は、割石による間知石練積、支線側は玉石空積とする。 客車停車部分のホーム高を嵩上げしているが、擁壁は当初の姿を保つ。 |
(文化庁公式ページの国指定文化財等データベースを参照・編集。)
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列車レストラン「清流」の向かいには、駅舎本屋がある。なお、駅舎の大きさは、国鉄の規格があり、1日の平均利用客数に応じ、駅舎のタイプと広さが決められていた。この神戸駅は、3号型に準じているらしい。
30人以下 待合室のみ 広さの規定なし
60人以下 簡易型 広さの規定なし
100人以下 1号型 57.5平米
200人以下 2号型 68.5平米
400人以下 3号型 87.5平米
600人以下 4号型 116.5平米
800人以下 5号型 141.5平米
801人以上 特殊型 別途設計
なお、緑に塗装されたホーム部分は、嵩上げされた部分になる。下の基礎部分は、6個横に並べると1間(1.8m)になる間知石(けんちいし)を使っており、正面は平面であるが、背後は角錐型になっている。今は、旅客上屋とその柱が寸詰まりの様に低く見えるが、嵩上げ前は、もっと長くスマートに見えたはずである。
(2番線ホームからの駅舎本屋。)
(つづく)
(※スレート屋根)
セメントと石綿(アスベスト)を混ぜて固め、着色した屋根。高耐久、手入れ不要、高遮音性、不燃性、重量も価格も瓦の半分であった為、戦後の国鉄末期によく使われていた。
【参考資料】
ニッポンの鉄道遺産を旅する(斉木実、米屋浩二・交通新聞社・2005年)
2017年8月10日 ブログから保存・文章修正・校正
2017年8月10日 文章修正・音声自動読み上げ校正
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