わ鐵線紀行(4)上神梅へ

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【停車駅】★→国登録文化財駅、◎→列車交換可能駅
相老◎0645======運動公園======0652大間々★◎
下り711D列車・間藤行き(わ89-315「わたらせIII号」単行)
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相老駅(あいおい-)に1分程の停車をし、直ぐ発車になる。朝一番の桐生発下り列車である為、通勤通学のラッシュ時間帯ではなく、部活朝練らしい女子中学生がふたり乗車して来る。

エンジン音を轟かせながら、徐々に加速し、スプリングポイントで単線にまとまると、東武鉄道桐生線は西に別れて行く。暫く、緑の多い住宅地内の緩い上り勾配を真っ直ぐに走り、上毛電気鉄道の線路をアンダーパスすると、その約300m先の運動公園駅に停車。

運動公園駅も、単式ホームに簡易な鉄骨製旅客上屋のみの小さな無人駅である。第三セクター化した後の平成元年(1989年)3月開業の新駅になっており、起点の桐生駅から4.2km、3駅目、所要時間約9分にある。なお、若干歩くが、公園の反対側にある上毛電気鉄道の桐生球場駅に乗り換える事も出来る。


(運動公園駅を発車する。※列車最後尾から、桐生方を撮影。)

運動公園駅の乗降は無く、直ぐに発車となる。わたらせ渓谷鐵道は、終点の間藤(まとう)方向に、ずっと登り坂が続く路線になっている。まだ、起点の桐生駅寄りであるが、既に上り基調で、エンジン音もかなり唸る。

踏切をクロスし、国道122号線を斜めに横切り、緑の多い住宅地の間を走る。すると、右手の木立の中に急崖と渡良瀬川が一瞬見え、大きなS字カーブの先にある大間々の桜並木に差し掛かる。ここは、国道122号線と線路が並走し、春には見事な桜が並ぶ下を快走する区間になっている。丁度、桜も満開で美しい。
マピオン電子地図・大間々桜並木(1/8,000)


(列車最後尾から、桐生方を撮影。※完全逆光の為、画質の悪さはご容赦願いたい。)

この桜並木を抜けると、右に90度近く大カーブをし、進路を西から北に変更する。左手に背の高い黄色いビルのビジネスホテルと、右手に大きな農協の肥料工場が見えてくると、わたらせ渓谷鐵道一の中心駅・大間々駅(おおまま-)に到着する。

大間々駅下り1番線ホームに滑り込み、10分間の列車交換待ちになる。朝日に照らされたホームは、都市部の通勤通学路線の様な雑踏は無いが、のんびりとした中に活気を感じる。通勤客、通学の中高校生や登山愛好家が数人おり、駅員も業務を開始している。

この駅には、わたらせ渓谷鐵道の本社が置かれ、車両区・検修区と広大な操車場を擁している。また、古い駅舎やホームは、国登録有形文化財に指定されており、見所の多い駅でもある。

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【停車駅】】【→トンネル、★→国登録文化財駅、◎→列車交換可能駅
大間々★◎0702===】連続3つ【===0708上神梅★==
下り711D列車・間藤行き(わ89-315「わたらせIII号」単行)
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運転士から、「上り列車と列車交換後に発車します」と、アナウンスが入る。大間々駅からは、50代男性と女子中学生達が乗車し、乗客は8人になった。定刻通りに、上り710D桐生行き・わ89形314「あかがねIII号」が到着し、7時2分に発車となる。


(大間々駅を発車する。※列車最後尾から桐生方を撮影。)

大間々駅から先は、わたらせ渓谷鐵道の魅力が目白押しになる。この先は無人駅が多い為、ワンマン運転案内の自動アナウンスも始まる。急勾配ではないが、10パーミル前後のだらだらとした長い上り勾配がずっと続き、急カーブも多く、レールの踏み面をスライドする金切り音が鳴り響く。脱線防止レールも多数設置されており、この先の鉄路の挑みを期待させる。


(大間々駅を過ぎると、第四種踏切も見られ、タイフォンを鳴らして通過する。
※上り桐生行き列車最後尾から、間藤方を撮影。)

県道踏切を過ぎ、高津戸ダムの湖面を少し眺めた後、住宅地を見下ろす高台を走る。列車の速度は時速50km位で、登り坂の連続であるが、意外にハイパワーな気動車である。すると、右カーブの先に、大桜並木が再び見えてくる。

ここは、「間坂(まさか)」と呼ばれる鉄道写真の有名撮影地(通称・お立ち台)になっている。数人の鉄道ファンが撮影をしているのが見え、通過後、お互いに手を振る。車内の乗客からも、大きな感嘆の声が上がっている。


(間坂の桜並木。※上り桐生行き列車最後尾から、間藤方を撮影。)

(そのまま、土手を登って行く。※上り桐生行き列車最後尾から、間藤方を撮影。)

間坂の緩やかなS字カーブを抜けると、急な上り勾配になり、鬱蒼とした感じの中を走る。沿線に人家は無く、右手は渡良瀬川の急崖になっており、時々、木立の間から川面が見える。なお、国道は、線路よりも一段上の西側を通っている。国道と県道を結ぶ巨大アーチ橋(ローゼ橋)の福岡大橋も見えてきた。


(ローゼ橋の福岡大橋。※上り桐生行き列車の最後尾から、間藤方を撮影。)

福岡大橋を越えると、最初の難所になっている神梅(かんばい)の狭窄部を通過する。エンジン音は一段と高鳴り、列車速度も時速40km以下になり、苦しい感じになる。


(大間々〜上神梅間の福岡大橋先付近。※上り桐生行き列車の最後尾から、間藤方を撮影。)

神梅の狭窄部は、三つの短いトンネルが連続し、この難所区間をやり過ごす。全て、足尾鐡道開通時に開削した古いトンネルになっており、国登録有形文化財に指定されている。
マピオン電子地図・わたらせ渓谷鐵道第一神梅トンネル付近(1/8,000)


(国土地理院国土電子Web・第一神梅トンネル付近。)

ひとつ目のトンネルの手前に、コンクリートと鉄柱で出来た滑り台の様なものがある。「架樋(かけひ)」と呼ばれ、急崖を流れ落ちる雨水や土砂を渡良瀬川にそのまま落し、線路やトンネル内に流れ込まない様にする鉄道保安設備である。線路際に山が迫る場所が多く、幾つかの大型架樋が設置されている。


(第一神梅トンネルの桐生方ポータルと手振山架樋。※上り桐生行き列車の最後尾から、間藤方を撮影。)

支柱の古レールには、「NO 75A 1907X」や「NO 75A 1907XI」の刻印があり、明治40年(1907年)製造の37kgレールを使っている。両毛線や高崎線で、使用されていたものかもしれない。なお、刻印の冒頭に、「NO(ナンバー)」がある事から、国産の八幡製鉄所製であろう(※)。

◆国登録有形文化財リスト◆
「わたらせ渓谷鐵道手振山架樋(てぶりやまかけひ)」

所在地 群馬県みどり市大間々町桐原
登録日 平成21年(2009年)11月2日
登録番号 10-0300
年代 昭和5年(1930年)※追加設置されたもの。
構造形式 鉄筋コンクリート造り、樋の長さ14.3m。
特記 鉄柱は国産古レールを使用。集水路はラッパ型で特徴的である。

(文化庁公式ページの国指定文化財等データベースを参照・編集。)

タイフォンを鳴らし、エンジンも全開状態で、次々とトンネルに突入する。この付近は、手振山の急崖が川に迫っている「七曲り」と呼ばれる昔からの難所であり、三つのトンネルが寄り添う様に連続している。


(第二神梅トンネルの桐生方ポータル。向こうのトンネルは、第三神梅トンネルの落石覆い部。※上り桐生行き列車の最後尾から、間藤方を撮影。)

トンネルポータル(断面)は、古典的な馬蹄型のレンガ積みトンネルになっており、後年になって、防水の為にモルタルを内部壁面に吹き付けてある。特に、この第二神梅トンネルは、開通当時の様子が良く残っている。なお、この馬蹄型は、山の重みでトンネルが潰れるのを防いでいる。近年、トンネル掘削技術の発達により、見られなくなっているが、独特な美しさを感じる。

◆国登録有形文化財リスト◆
「わたらせ渓谷鐵道第一・第二・第三神梅トンネル(-かんばいとんねる)」

所在地 群馬県みどり市大間々町桐原、群馬県みどり市大間々町下神梅
登録日 平成21年(2009年)11月2日
登録番号 10-0299、10-0298、10-0297
年代 全て、大正元年(1912年)。
第三神梅トンネルのみ、昭和12年(1937年)に15mの落石防止覆いを増設。
構造形式 煉瓦造り、及び、切石造り。擁壁付。
全長は、順に166m・27m・60m(第三トンネル本体は45m)。
戦後、トンネル内に待避所設置とモルタル防水工事を施工。
特記 三つのトンネルが連続し、第三神梅トンネルはカーブしている。
トンネルのポータルは、全て煉瓦積みの馬蹄型。
特に第二神梅トンネルは、開業当時の様子が良く残っている。

(文化庁公式ページの国指定文化財等データベースを参照・編集。)

少し右カーブをしている第三神梅トンネルを抜けると、下り勾配になる。人家の無い木立の中を暫く下ると、再び上り坂になり、また、下り坂になる。基本的に上り勾配であるが、アップダウンや勾配率の変化も激しい。険しい路線の為、国鉄時代の木造保線小屋も、線路際に多く見られる。


(山中の線路と保線小屋。レールが三本あるが、一番右のレールは脱線逸走防止レールである。※上り桐生行き列車の最後尾から、間藤方を撮影。)

(10kmポスト付近を走る。緑が深い所が多い。※上り桐生行き列車の最後尾から、間藤方を撮影。)

下り勾配途中の右手下に、山中に似つかわない様な小さな団地が見えると、上神梅駅(かみかんばい-)に停車する。古い木造駅舎が開業当時のまま残っており、わたらせ渓谷鐵道の木造駅の中でも、最も保存状態が良い。


(上神梅の町並みが見えてくる。※上り桐生行き列車の最後尾から、間藤方を撮影。)

(花咲く上神梅駅。※上り桐生行き列車の最後尾から、間藤方を撮影。)

勿論、この駅も、国登録有形文化財に指定されており、帰りに寄ってみよう。地元住民が手入れをしているらしく、ホームや線路端に春の花々や桜が咲き、大変綺麗な駅である。列車は直ぐに発車して、再び、長い上り勾配に挑む。

(つづく)


(※レールの刻印)
初期の国産レールのレールの重さは、ヤード(約90cm)当たりのポンド表示になる。現在、用いられているメートル当たりのキログラムは、大凡、その数字の半分になる。例・「NO 75A 1907X」の刻印の意味は、「八幡製鉄所製、37kgレール、ARA-A規格(高速線用)、明治40年(1907年)10月製造」。

運転士の運転の妨げになる為、全て、最後尾から後方風景を撮影。
進行方向の間藤方の写真は、上り桐生行き列車の最後尾から撮影。
朝は露出不足の為、午前中の写真を使用。

2017年8月9日 ブログから保存・文章修正・校正
2017年8月9日 文章修正・音声自動読み上げ校正

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