わ鐵線紀行(23)車両解説 わ89形気動車

わたらせ渓谷鐡道の現役車両を紹介したい。わたらせ渓谷鐡道は全線非電化路線である。架線から給電されて走る電車ではなく、ディーゼルエンジンを搭載した気動車を運行している。また、週末、夏休みや紅葉シーズン等を中心に、観光トロッコ列車が運行されている。

■概況■

【在籍車両数について】
平成24年(2012年)夏時点の在籍車両は、普通列車用気動車8両、トロッコ気動車1両、トロッコ客車4両、ディーゼル機関車2両の合計8形式15両になる。その大半は、JR東日本から第三セクター転換後の導入車両になり、車歴は20年を越えている場合が多く、老朽化も進んでいる。

【車両について】
国鉄時代は、鈍重なキハ20等の二両編成で運行されていた。平成元年(1989年)のわたらせ渓谷鐡道発足時に、地元企業の富士重工業製の軽快気動車に全て更新されている。その為、国鉄形気動車は在籍していない。なお、全ての気動車は、両運転台仕様になっており、単行運転が可能である。

当初の車体塗色は、ツートンに動物のシャドーイラストが連続して描かれた小帯を窓下に引いていた。後に、現在の赤味が強い茶色の銅色(あかがね-)単色に変更された。また、トロッコ客車と専用牽引ディーゼル機関車のDE10形1537号機は、この銅色の上に装飾金帯が引かれている。なお、新型気動車の2両は、銅色とベージュのツートンの金帯付き、または、銅色をベースとする三色ストライプ塗装になり、今風のデザインになっている。

第三セクター転換以降は、各車両に愛称が付けられている。主力の「わ89形」には、シャドーイラスト入りの小さなヘッドマークがある。これは、ローカル線の普通列車用気動車としては、あまり例が無く、珍しい。また、動物の大きなシャドーイラストも、車体側面に描かれている。

【冬期の車両暖房について】
わたらせ渓谷鐡道の沿線は、山が近い割には、降雪の少ないエリアであるが、赤城山や渡良瀬川上流域からの冬の季節風が強く、大変寒くなる。車内暖房は、昔ながらの機関冷却水のエンジン熱を使った温水暖房を採用している。更に、暖房能力強化の為、全車にウォーターヒーターを追加装備している(わ89形310番台は新製時より装備。新型気動車の暖房方式は不明)。

【勾配対策について】
桐生駅から終点の間藤駅まで、長い登り勾配が連続して続き、標高差は約500mもある。全車二軸駆動の動力台車と抑速ブレーキ、砂撒き装置を装備し、山線仕様の装備になっている。

【ワンマン運転と車両増結について】
起点の桐生駅(JRに委託)、相老駅(あいおい-)、大間々駅、通洞駅、足尾駅が有人駅であるが、通洞駅と足尾駅は駅員勤務時間が限定されており、大間々駅以北はワンマン運転が基本である。しかし、週末やハイシーズンの混雑時は、車掌やアテンダントが乗務する場合がある。車両編成数も、朝夕の学生通学時間帯は、2両編成に増結する。特に観光シーズン中は、3両編成になる場合もある。

■普通列車用気動車■

わ89形100番台、同300番台、同310番台、WKT-500形の4形式8両が在籍している。

【わ89形100番台/101号「こうしん号」・1両のみ】

平成元年(1989年)導入、富士重工業製レールバスLE-CarII、15m級車体、自重24.2t、250馬力エンジン、定員104名、ロングシート、トイレなし。


(神戸駅に到着した「わ89-101」と「わ89-315」の凸凹編成・下り間藤行き列車。)

今では、貴重になった現役の富士重工業製レールバスLE-CarII(LEシリーズ第二世代)である。全長約15mのバス車体を流用し、鉄道用車体を採用した他の車両よりも、屋根が扁平で低く、かなり小さい車両である事が判る。また、乗降扉、サッシレスの連続側窓や内装等も、バス部品の流用になっている。当初、ロングシートの100番台とセミクロスシートの200番台の合計5両が導入された。老朽化や事故の為に順次廃車され、現在、101号のみが在籍している。なお、鉄道ファンの間では、人気の車両であるが、近々に廃車になる可能性も高く、目を離せなくなっている。

エンジンは、日産ディーゼル製・PE6HT03A・排気量12,503c.c.(12L)・ターボ付き燃料直噴式・6気筒250馬力エンジンを搭載。水平対向エンジンらしい「ドッドッドッ」と、バラけた独特な音がし、他の車両よりも車内透過音が大きいが、最も、気動車らしいサウンドが楽しめる。


(わ89形101のエンジン部。)

バス用車体と鉄道用車体の高さの差は、40cm程度もある。鉄道ファン的には、鉄道用車体の気動車との凸凹編成もアクセントになり、往年の国鉄形気動車の雑多な編成を思い起こさせる。なお、乗降扉の高さは同じになっている。


(レールバス車体と鉄道用車体の高さの違い。)

170cm以上の人が車内に立つと、頭が天井に接触しそうな感じである。冷房装置、蛍光灯カバー、手すり、吊革、通風器、車内放送スピーカー、カーテン等にバス部品が多数流用されている。


(わ89形101の車内。長いオールロングシート、中央部にパイプの仕切りがある。)

乗降口付近も小さめの造りになっており、バス用の折戸式自動扉を、そのまま流用している。自動開閉器のブーツ(黒の蛇腹部分)も懐かしい。また、ワンマン運転用の整理券発行機、電光式運賃表示器や自動案内放送装置がある。


(わ89形101の折戸式乗降扉。)

運転台は、富士重工業製軽快気動車の標準タイプになっており、左のT型ハンドルが自動車のアクセルに相当するマスコン(主幹制御器)、右の木製ハンドルがブレーキ、抑速ブレーキスイッチがその前にある。中央部の円形ハンドルは、液体式変速機の手動変直切り替えハンドルになる。運転室は、引き戸が付いた密閉タイプである。


(わ89形101の運転台。)

車番 愛称・由来 導入年 車体イラスト
わ89-101 こうしん/間藤駅西方の庚申山(1,892m)から 平成元年 クマ

【わ89形300番台/302号「わたらせ号」・1両のみ】

平成元年(1989年)導入、富士重工業製軽快気動車LE-DC、16m級車体、自重27.0t、250馬力エンジン、定員90名、転換クロスシート、トイレなし。


(わ89形302。)

元々は、イベント用に新製され、全席転換クロスシートのLEシリーズ第三世代軽快気動車である。丸形ヘッドライトとテールランプを装備し、愛嬌のあるレトロな雰囲気の車両になっている。車体長も16.5mになり、独立した側窓の鉄道用車体を採用した。なお、トイレは設置されていない。

テレビ等の娯楽設備は無いが、折り畳み式の長テーブルを各席に備え、シートの高さをやや抑えた見通しの良い転換クロスシートが特徴である。普段の定期列車運行にも充当されており、座席の白いヘッドカバーは省略されている。運転席並びの乗降口前シートは、前後方の絶景が楽しめ、人気がある。


(わ89形302の車内。)

なお、301号「あかがね号」と302号「わたらせ号」の合計2両が在籍していた。301号は新型気動車の導入により、平成23年(2011年)に廃車になっている。

車番 愛称・由来 導入年 車体イラスト
わ89-302 わたらせ/渡良瀬川から 平成元年 カモシカ

【わ89形310番台/311-315号・合計5両】

平成2年(1990年/311号・312号・313号/一次車)と平成5年(1993年/314号・315号/二次車)導入、富士重工業製軽快気動車LE-DC、16m級車体、自重26.5t、250馬力エンジン、定員102名、セミクロスシート、トイレあり。


(神戸駅で列車交換をするわ89-311「たかつど号」と、わ89-315「わたらせIII号」。)

現在の主力形式であり、合計5両が運用中である。富士重工業・宇都宮工場鉄道車両製造部門の事業撤退前の末期に製造され、富士重工業らしいLEシリーズ第三世代軽快気動車である。

東武鉄道特急りょうもう号の相老(あいおい)駅停車による乗客増加対応の為、新製導入された。300番台と正面デザインが似ているが、トップヘッドライトが庇付き角型ボックスの二灯式、中腰のヘッドライトも尾灯と一体化した箱型になっており、全車セミクロスシートになっている。また、乗客からの強い要望により、新製時にトイレが設置されている。

310番台のエンジン、液体変速機と台車等の走行系装置は、100番台や300番台と全て共通であり、メンテナンスも軽減している。


(わ89形315のエンジン部。)

わ89形に共通採用されている台車は、ボルスタ(枕梁)式・ボルスタアンカー付き・ダイヤフラム式空気バネ採用の富士重工業製FU34形台車になる。軸距(ふたつの車軸の距離)1,800mm、車輪径も762mmになっており、一般的な台車よりも、ふた回り程度小さい気動車用軽量台車である。


(FU34形台車。差し込まれている金属の部品は、流転防止のハンドスコッチ(手歯止め)。)

昭和風の鉄道車両らしい内装と従来の二段式開閉側窓を採用しており、中央部のクロスシートに座れば、わ鐵の快適な旅が楽しめる。

濃いエンジ色のセミクロスシートを採用し、車椅子も専用スペースに乗車可能である。車内トイレは水洗貯留式になっており、間藤方にある。冷房装置とその吹き出し口カバー、蛍光灯カバー、通風器、カーテン等は専用設計品ではなく、バス部品を流用している。


(わ89形310番台の車内。)

自動扉の折り畳み動作部分が欠けた斜めタイプのステップがあり、出来るだけ、ステップ高は抑えてある。


(わ89形310番台のステップ部。)

車体は丈夫な鉄道用車体を採用し、自動乗降扉はバス用折戸タイプを流用する。車体に関しては、滋賀県の信楽高原鐵道列車衝突事故(しがらき-/1991年)において、レールバスが原形を留めない程に大破した事から、従来の鉄道用車体に回帰している。


(わ89形310番台の折戸式乗降扉。)

100番台とほぼ同じデザインの運転台である。冬期寒冷地を走る為、引き戸付きの密閉運転室になっている。


(わ89形310番台の運転台。)

なお、300番台と310番台の屋根構造は、かなり異なる。300番台(写真右)のトップヘッドライト周辺は、独特な砲筒形デザインになっており、段差と緩やかな後退角が付く屋根は、カツラを被せた様な肉薄な感じである。一方、310番台(写真左)は、車体と屋根に段差が無いので一体感があり、ボリュームのある蒲鉾型屋根の若々しい印象になっている。また、両形式とも、屋根中央部に集中式冷房装置を一基搭載しており、換気用の円形通風器(ベンチレーター)も、前後二箇所に設置されている。


(大間々駅で列車交換をするわ89-312「あかがねII号」と、わ89-302「わたらせ号」。)

車番 愛称・由来 導入年 車体イラスト
わ89-311 たかつど/大間々駅近くの高津戸峡から 平成2年 キジ
わ89-312 あかがねII/足尾銅山の銅から 平成2年 ウサギ
わ89-313 わたらせII/渡良瀬川から 平成2年 カモシカ
わ89-314 あかがねIII/足尾銅山の銅から 平成5年 ウサギ
わ89-315 わたらせIII/渡良瀬川から 平成5年 カモシカ

◆わたらせ渓谷鐵道 わ89形 主要諸元(平成24年夏現在)◆

※転載や商用利用は厳禁。

わ89形100番台 わ89形300番台 わ89形310番台
車両数 1両 1両 5両
車番 101 302 311-315
発注会社 わたらせ渓谷鐡道 わたらせ渓谷鐡道 わたらせ渓谷鐡道
製造会社 富士重工業 富士重工業 富士重工業
導入年 平成元年(1989年)
※転換発足時
平成元年(1989年)
※転換発足時
平成2年(1990年)
平成5年(1993年)
車体構造 バス用車体
(レースバス)
鉄道用車体 鉄道用車体
運転台 両運転台・密閉タイプ
前面貫通扉あり
両運転台・密閉タイプ
前面貫通扉あり
両運転台・密閉タイプ
前面貫通扉あり
全長 15.5m 16.5m 16.5m
自重
(空車時)
24.2t 27.0t 26.5t
エンジン

最高出力
日産ディーゼル製
燃料直噴式
ターボ付き
水平対向6気筒
PE6HT03A
12,503c.c.(12L)
250馬力/1,900r.p.m.
日産ディーゼル製
燃料直噴式
ターボ付き
水平対向6気筒
PE6HT03A
12,503c.c.(12L)
250馬力/1,900r.p.m.
日産ディーゼル製
燃料直噴式
ターボ付き
水平対向6気筒
PE6HT03A
12,503c.c.(12L)
250馬力/1,900r.p.m.
変速機 シンコーSC0・91C シンコーSC0・91C シンコーSC0・91C
台車 FU34形・二軸駆動
軸距1,800mm
車輪径762mm
ダイヤフラム式
空気バネ
ボルスタアンカー付き
FU34形・二軸駆動
軸距1,800mm
車輪径762mm
ダイヤフラム式
空気バネ
ボルスタアンカー付き
FU34形・二軸駆動
軸距1,800mm
車輪径762mm
ダイヤフラム式
空気バネ
ボルスタアンカー付き
常用ブレーキ SME三管式
直通空気ブレーキ
抑速ブレーキ
SME三管式
直通空気ブレーキ
抑速ブレーキ
SME三管式
直通空気ブレーキ
抑速ブレーキ
塗色 銅色(単色)
シャドーイラスト付き
銅色(単色)
シャドーイラスト付き
銅色(単色)
シャドーイラスト付き
座席
シート色
ロングシート
エンジ色
転換クロスシート
エンジ色
セミクロスシート
エンジ色
定員
(立席含む)
104名 90名 102名
冷房装置 あり あり あり
車椅子対応 不可 不可
車内トイレ なし なし あり
特記 富士重工業製
レールバスLE-CarII
富士重工業製LE-DC
イベント対応車両
丸型ヘッドライト3灯
富士重工業製LE-DC
角型ヘッドライト4灯
(ボックスケース)
わ89形100番台 わ89形300番台 わ89形310番台

(つづく)


在籍と車両データは、平成24年(2012年)夏時点。

2017年8月12日 ブログから保存・文章修正・校正
2017年月日 文章修正・音声自動読み上げ校正

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