大鐵本線紀行(4)新金谷車両区

SL急行券(指定席券)と駅弁も、無事に手配できた。手始めに、この新金谷駅から終点の千頭駅(せんず-)まで、SL急行「かわね路号」に乗車する。乗客の多い日は増発され、三機の国鉄蒸気機関車による三往復ダイヤを組むが、今日の増発は無く、定期列車の「かわね路号」の一往復のみの運転である。

発車時刻は11時58分。約1時間半の待ち合わせがある。それまで、新金谷車両区を見てみよう。正式には、大井川鐵道施設車両区と呼ばれ、駅南側の金谷方に検修区、側線や詰所等がある。有料駐車場の向こうにあり、川風に乗って、油の混じった匂いがしてくる。


(グーグルマップ空撮・新金谷駅。)

駅構内には、懐かしい国鉄旧型客車が、沢山並んでいる。複数の旧型客車編成が並ぶのは、国内ではここのみであろう。一番手前の青い旧型客車は、スハフ42-286(国鉄 -2286/戦後型・折妻屋根)である。

国鉄2000番台の旧型客車の暖房設備は、電化対応の電気暖房(EG)に改造されたが、大井川鐡道では、蒸気供給の昔ながらの蒸気暖房(SG)を使い、車番も元に戻してある。真冬、床下から蒸気が静かに昇る様子は、とても風情を感じる。


(旧型客車編成。)

駐車場寄りの一番西側の側線では、3両の旧型客車が留置され、二人組の検修区員が幌枠を補修している。手前の車両と向こうのバックマーク付きの車両は、共に戦前型・丸屋根のオハ35形である。バックマーク付きの車両は、編成最後尾の貫通路を閉鎖する脱着式転落防止扉が取り付けられている。


(幌枠を補修中の旧型客車オハ35系。)

駐車場の南端に行くと、仕業準備中の蒸気機関車が見える。今日のSL急行列車の牽引機は、愛称「ポニー」こと、C56-44号機らしい。太平洋戦争時、軍部の命令により、タイ・ビルマに送られた90両の出征機関車のうちの1両になっており、昭和54年(1979年)に、奇跡的にタイから帰国した復員機関車である。現在は、タイ国鉄仕様の記念外装になっており、煙室扉には、国鉄のナンバープレートが付けられている。


(C56-44号機タイ国鉄仕様。煙突の上の装置は集煙装置。)

整備場の横には、石炭の山がある。昔の煙の多い石炭では無く、突き固め、煙が少ない高品質な石炭を使用している。見た感じも、コロコロとした綺麗な石炭である。


(石炭山。)

反対側の新しい公園に行ってみよう。駅舎北側の踏切を渡り、住宅地の中を暫く歩く。


(新金谷駅北側の踏切付近から。)

徒歩数分で、反対側の公園に到着する。低いフェンスのみ設置されており、撮影はしやすいが、どうしても、自動洗車機が被ってしまう。致し方無い所である。


(公園からの仕業前整備中のC54-44号機。)

C56-44号機の後ろには、C10-8号機とC11-227号機が留置され、今日は休みになっている。手前の小山は、蒸気機関車に焚べたアッシュ(石炭の燃え殻/石炭灰)である。このC10−8号機は、大井川鐵道の最古の蒸気機関車であるが、状態は良く、定期列車の「かわね路号」を牽引する事も多い。


(C10-8号機とアッシュ山。)

なお、大井川鐵道では、現在5両の蒸気機関車が在籍している。国鉄SL全廃後の昭和51年(1976年)に、国内で初めて、蒸気機関車の復活運転を行った。うち4両は、小型なタンク式蒸気機関車である。C56形はテンダー(炭水車)があるが、国鉄のテンダー式蒸気機関車の中では一番小さく、小海線(小淵沢から小諸間・長野県)の高原列車を牽引した事で有名である。なお、大井川鐵道の橋梁軸重制限は12tになっており、14tであった国鉄丙線規格よりも低く、簡易線並みになっている。その為、大型蒸気機関車の導入は難しい。

◆大井川鐵道に所属する蒸気機関車一覧◆

C56-44 C10-8 C11-190 C11-227 C12-164
製造会社 三菱 川崎車両 川崎車両 日本車両 日本車両
最終配置 札幌
千歳線→
タイ
会津若松→
ラサ工業
専用線
熊本→
個人所有
静態保存
釧路
標津線
木曽福島
(中央西線)
国鉄製造年 昭和11年 昭和5年 昭和15年 昭和17年 昭和12年
大鐵入線年 昭和54年 平成6年 平成13年 昭和50年 昭和48年
当初は千頭駅
で展示
全長 14.3m 12.7m 12.7m 12.7m 11.4m
全幅 2.9m 2.9m 2.9m 2.9m 2.9m
高さ 3.9m 3.9m 3.9m 3.9m 3.9m
自重 機関車37.6t
炭水車27.9t
69.7t 66.0t 65.9t 50.1t

[特記]
C54-44;復員機関車。炭水車(テンダー)付き。昭和54年にタイから帰国。
C10-8;国内唯一の動態保存C10形。デフレクター(除煙板)なし。
C11-190;元・御召機。緑ナンバープレート。九州仕様。
C11-227;大井川鐵道の看板蒸気機関車。復活蒸機第一号機。
C12-164;日本ナショナルトラスト所有。赤ナンバー。休車中。

(※転載不可)

今日は、側線に留置中の車両が多い。ED500形「いぶき501」電気機関車では、若い整備士が一人で整備をしている。隣のツートンの電車は、元・京阪電鉄3000系(2両編成)になる。

「いぶき501」は、昭和31年(1956年)製造、日立製、B-B軸配置の直流電気機関車である。大阪セメント伊吹工場専用線で活躍した後、平成11年(1999年)に大井川鐵道に入線し、SL列車の補助機関車(補機)やイベント列車牽引で活躍している。なお、「いぶき502」も同時に入線したが、再譲渡先で廃車になっている。

元・京阪電鉄3000系は、昭和46年(1971年)製の19m級車、鳩の特急マークの京阪電鉄本線の名特急「テレビカー」である。テレビは取り外されており、残念ながら、観れない。大井川鐵道と軌間が違う為、東京営団地下鉄(現・東京メトロ)5000系の台車に履き替えている。


(ED500形いぶき501と元・京阪電鉄3000系。)

車庫の横には、元・南海電鉄のズームカー21000系と、その後ろの橋下に、赤ナンバーのC12-164号機が留置されている。なお、手前から左方に行く線路は、工場の中を走り、川辺まで伸びている。大代川側線と呼ばれる車両搬入口と廃車留置線がある。

懐かしい二枚窓の湘南顔の南海電鉄21000系は、2両編成2本が活躍中である。昭和33年(1958年)製の18m級車、急勾配を登る南海電鉄高野線の特急・急行用電車の名車である。

C12-164号機は、文化財保存活動をしている日本ナショナルトラストの所有車両である。大井川鐵道に運用を委託しているが、保安装置のATS(列車自動停止装置)取り付け費用が捻出できず、平成17年(2005年)から長い間休車している。


(元・南海電鉄21000系とC12-164号機。)

公園からホームを望むと、旧型客車の佇む感じは、国鉄蒸気時代の光景を思い起こさせ、とても懐かしい気持ちにさせる。


(公園からの旧型客車編成群。)

(つづく)


(※)2010年9月の全般検査で、デフ付き黒一色塗装の国鉄仕様に戻されている。

2017年7月30日 ブログから保存・文章修正・校正
2017年8月2日 文章修正・音声自動読み上げ校正

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