伊勢志摩めぐり(1)伊勢へ

美濃三鉄めぐりの旅の途中であるが、3日目は、少し気分転換してみよう。今日は、「お伊勢さん」こと、伊勢神宮と志摩半島方面の鉄道旅に行く。天気もとても良く、春としては、汗ばむ陽気になりそうである。

朝食サービスを辞退し、名古屋市栄区のビジネスホテルのルートインを朝6時に出発。名古屋市営地下鉄で、JR名古屋駅に向かう。JRの自動切符売り場に立ち寄り、切符を購入した後、12・13番線の関西本線快速専用ホームに上がる。朝一番の快速列車、「快速みえ51号」名古屋7時49分発・鳥羽行きに乗車しよう。ゴールデンウィークの混雑の可能性があるので、念の為、約1時間前にホームに到着した。簡単な朝食と飲み物もホームの売店で調達する。


(快速みえ専用ホームに上る。)

(電光式発車時刻表。)

ホームに人が増えて来た発車時刻の10分前、13番線に列車が入線して来る。この列車に乗り、伊勢神宮のあるJR参宮線伊勢市駅まで行こう。この快速列車は、関西本線・伊勢鉄道(旧・伊勢線)・紀勢本線・参宮線を経由する四路線を直通運転し、名古屋から亀山間の関西本線以外は、非電化路線であるので、気動車で運行されている。

このキハ75系は、まだ乗車した事が無く、前から乗りたかった新型気動車である。JR東海が老朽化した国鉄急行形気動車を更新する為に開発し、350馬力のカミンズエンジンを1両に2基搭載した、電車並みの加速性能を誇る気動車である。快速みえ号や名古屋近郊のJR武豊線で、平成5年(1993年)から運行されている。1両当りのエンジン出力は、特急用気動車キハ85系と同じになり、かなりの俊足との事。


(快速みえ51号が入線。)

今日は2+2の4両編成、先頭車の鳥羽方1号車は、指定席車両になっている。最後尾の4号車の自由席に席を取るが、かなり空いており、乗客は1両に数人だけである。車内設備は、同社313系0番台と同等となっており、クッションがしっかりしたセミセパレートの転換クロスシートは、座り心地も良い。


(設備の良いキハ75系の車内。)

今日は、土日祝日限定、普通・快速列車乗り放題の「青空フリーパス」を購入している。大人2,500円で、名古屋周辺を1日自由に乗り降り出来る便利な切符で、伊勢志摩方面の鳥羽駅までエリアに入っており、大サービスになっている。ちなみに、名古屋駅から伊勢市駅間の大人片道運賃は、JR(伊勢鉄道経由)1,940円、近鉄1,410円になっており、近鉄線利用時の往復普通運賃よりも、安く設定されている。前日の夜、ホテルにチェックインする前に名古屋駅で色々と調べ、JR線を使うか、伊勢志摩行き電車で有名な近鉄線を使うか、正直迷った。電車よりも気動車、1日フリー切符がある事から、JR線で行く事に決定した。


(青空フリーパス。JRの切符売り場の自動券売機で、発券出来る。)

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【停車駅】 ※快速の為、停車駅のみ
名古屋749===桑名===819四日市=
下り快速 伊勢市行き「快速みえ51号」キハ75系4両編成
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定刻の7時49分、アイドリングしていたエンジンが唸りを上げ、名古屋駅を発車する。1時間半程の所要時間になる。駅の南に出ると、直ぐに線路は大きく右カーブして行く。大都市駅隣接では大変珍しい、気動車のみの車両区である名古屋車両区とJR東海名古屋工場の横を過ぎ、近鉄線と並行して、電化された関西本線の高架線を走る。

初っ端から、カミンズエンジンが豪快に吠えて、時速100km近いスピードになっている。噂には聞いていたが、「これ程とは」と驚いた。気動車であるが、まるで飛ぶ鳥の様な勢いである。暫くすると、地上に降り、スピードが落ちるが、再び加速する。なお、車内透過のエンジン音はかなり大きいが、低重心で揺れも殆ど無く、快適な車両になっている。


(名古屋駅を発車。)

幾つかの駅を通過し、8時5分頃に木曽川、その後に長良川と揖斐川を連続して渡る。この美濃の三大河川の最下流部では、3本の束状になり、莫大な川水が伊勢湾に注いでいる。どの川幅も500m以上あり、隣のトラス橋に近鉄名古屋線、向こうの弧を描くトラス橋に国道1号線が走っている。


(木曽川を渡る。)

木曽川を渡り、輪中で有名な長島駅付近で、近鉄名古屋線の電車を豪快に抜き去る。走行中の電車を追い抜くのは、往年の国鉄形気動車の鈍重さを知る者としては感動もので、自分は初めての体験である。この長島は、3つの川の中にある大きな中洲になっている為、古くから水害が多い地域であるが、今は、車窓から新興住宅が多く見え、あまりそう感じない。


(長島駅付近で、近鉄電車を豪快に追い抜く。)

長良川と揖斐川を渡ると、進路を南に変え、桑名駅に到着する。JR関西本線、近鉄名古屋線、養老鉄道と三岐(さんぎ)鉄道が接続する大きな駅で、三岐鉄道の茶色の電気機関車2両と青色の電気機関車1両が、ちらりと見える。

桑名駅を発車し、更に西に進んで行く。濃尾平野の低地の為か、小さな川が多く、住宅の中に田んぼが見える。そして、遠くに巨大火力発電所の煙突が霞みの先に見えると、そろそろ、四日市駅に到着する。


(四日市の巨大火力発電所。)

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【停車駅】 ※快速の為、停車駅のみ
=四日市819===鈴鹿===840津=
(下り関西本線から、伊勢鉄道に乗り入れ。)
下り快速 伊勢市行き「快速みえ51号」キハ75系4両編成
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8時19分に四日市駅を発車。この先のふたつ目の河原田駅から、伊勢鉄道に入る。旧国鉄伊勢線が昭和62年(1987年)に第三セクター化した路線で、営業キロは22.3km、駅数は10駅があり、沿線に有名な鈴鹿サーキットがある。国鉄時代末期、関西本線名古屋方と紀勢本線の短絡線(亀山経由をバイパスする路線)として建設され、昭和48年(1973年)に開通。現在も、新宮行きの特急南紀や鳥羽行きの快速みえが、乗り入れをしている。この「青空フリーパス」は、伊勢鉄道も利用可能の為、追加運賃は不要になっている。
伊勢鉄道公式HP

線形も良く、高架化で踏切も殆ど無い高規格路線であり、最高時速は110kmと速い。非電化単線であるが、一部区間の複線化と電化準備をしている。沿線には、大きなコンビナート、石油製品を貨車に積み込む設備や貨物駅が見え、沢山のタキ(国鉄制式/タンク貨車の事)や入れ替え用のオリジナルの小型機関車も活躍している。

河原田駅から伊勢鉄道に入ると、直ぐに鈴鹿川の鉄橋を渡る。鈴鹿川を渡ると、工場に代わって、水田が一面に広がり、黒瓦の旧家もちらほらと見え、長閑な風景になってくる。良く見ると、旧家もあるが、新しい家も多く、水田と混在しているので、宅地化も進んでいる様である。また、鈴鹿川流域の低地帯になり、小さな川、用水路や貯水池も沢山ある。中央のこんもりとした小山も見え、古墳か鎮守の森であろう。


(鈴鹿川を渡ると、見事な大水田が広がっている。)

サーキット最寄りの鈴鹿サーキット稲生駅を通過し、次の徳田駅付近の大水田を眺めると、緑の田圃と水面がキラキラと春らしく輝き、とても綺麗である。徳田駅を過ぎると、トンネルを通過し、市街地に入って行く。なお、競合する名古屋鉄道名古屋線は、伊勢鉄道に並走せず、もっと海岸寄りを走っている。


(徳田駅付近の田園風景。)

伊勢鉄道線内を走り切り、四日市駅から、20分程で津駅に到着。かなりの高速走行であったので、一息つく感じである。遠くのホームには、黄色い車体の近鉄特急電車が、停車しているのが見える。この駅は、国内最短駅名のみならず、世界最短駅名であり、英語表記では、「Z」の一文字になる。また、三重県の県庁所在地であり、かつては、安濃津(あのうつ)と呼ばれた。古くから、海運と伊勢参りの宿場町として、明治以降は、紡績の町として栄えたという。


(津の駅名標。)

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【停車駅】 ※快速の為、停車駅のみ
=津844===松阪===多気913===925伊勢市
(多気駅より、JR紀勢本線から、参宮線へ。)
下り快速 伊勢市行き「快速みえ51号」キハ75系4両編成

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紀勢本線の上り名古屋行き特急「ワイドビュー南紀2号」遅れている為、3分遅れで発車。右手の近鉄線と暫く併走する。上りキハ11系単行と列車交換の為、高茶屋駅に臨時停車し、その後もひたすら南進する。15分程で、JR名松線が分岐する松阪駅に到着。明治28年創業の老舗・新竹(あらたけ)の牛肉駅弁が有名な駅である。途中下車をして、買い求めたいが、今回は断念しよう。
駅弁の新竹 公式HP

そして、櫛田川を渡ると、左窓に大きな可動堰が見え、多気(たき)駅に到着する。山や水田に囲まれた、ホッとする感じの紀勢本線の小さな分岐駅である。中学2年生の大帰省旅行の帰路に紀勢本線を訪れているが、その頃と変わらない雰囲気が懐かしい。


(多気駅手前の櫛田可動堰。農業用水の取水用との事。※人の姿が見えるが、座っている自分。)

最後の途中駅である多気駅を、9時13分に発車する。紀勢本線は直ぐに右カーブをして別れ、この列車は南に直進して、参宮線に入る。ローカル線であるが、この区間の参宮線は軌道改良されているらしく、森を抜け、田畑と家々が混在する中を時速80km位で走って行く。

4つの小さな駅を通過し、9時25分に伊勢市駅に到着。名古屋からは86.1km地点、所要時間約1時間40分かかった。ホームに降りると、外海により近い為か、下車したとたんにジッと熱く感じ、鳥羽行きの「快速みえ」が、直ぐに発車して行った。


(発車する快速みえ51号を見送る。)

(つづく)


2020年4月4日 ブログから転載・文章修正・校正。

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