わ鐵線紀行(16)上神梅駅

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【停車駅】◎→列車交換可能駅、★→登録有形文化財駅
花輪1218===水沼◎===本宿===1239上神梅★
上り718D列車・桐生行き(わ89-313「わたらせII号」単行)
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花輪駅12時18分発の上り718D列車・桐生行きのわ89形313「わたらせII号」単行に乗車する。数人の乗客を乗せ、花輪駅を力強いエンジン音と共に発車。ずっと、下り調子の線路を抑速ブレーキ(※)を利かせながら、時速40km位で走る。若い女性アテンダントと制服姿の中年男性社員が乗務しており、検札や車内販売を行なっている。どうやら、実務研修中らしい。

途中の水沼駅では、わ89形312「あかがねII号」の下り列車と交換をし、本宿駅(もとじゅく-)を過ぎ、所要時間21分で、上神梅駅(かみかんばい-)に到着。この駅で下車してみよう。自分ひとりだけを降ろすと、列車は直ぐに発車して行く。


(上神梅駅を発車する上り桐生行き列車。)

この上神梅駅は、足尾鐡道が間藤駅まで開通した大正元年(1912年)12月開業、起点の桐生駅から12.4km、5駅目、所要時間約25分、みどり市大間々町上神梅、標高232mの終日無人駅になっている。わたらせ渓谷鐡道に現存する開業当時の木造駅舎の中でも、最も良い状態を保ち、勿論、国登録有形文化財に指定されている。


(駅名標と大型観光案内看板。)

上り南・下り北に配置された単式ホームと木造駅舎があり、国鉄時代末期までは、相対式二面二線の列車交換可能の有人駅であった。なお、廃止された2番線ホームは、取り壊されており、道路になっている。駅の向かい側には、低層4階建ての市営神梅団地(かんばい-)が建っている。

砂利敷きの嵩上げの無い客車ホーム「760ホーム」になっており、現在の乗降部分のみ舗装され、長さは108mある。擁壁は、間知石(けんちいし※)の割石積み、四段積みのうち、上二段が露出している。中央部には、2番線への構内踏切跡が残っている。


(桐生方からホーム全景。)

北側の間藤方ホーム端に、行ってみよう。廃止されたY字ポイントと2番線レールの一部が残り、赤錆びているのが、哀愁を誘う。

間藤方は、長い勾配が直ぐに始まる。大間々から上神梅の区間も険しい地形であるが、古路瀬(こじせ)渓谷入口より前の区間であり、この駅が、山と渓谷区間の玄関口になっていると言える。また、左側に大きな無料駐車場があり、線路際の枝垂れ桜は、この駅の名物になっている。広いスペースになっており、集積場等があったと考えられる。


(間藤方。)

南側の桐生方は、警報機と遮断機のある踏切を越えると、左にカーブしながら、下って行く。踏切右横には、地元高校生達が使う自転車置き場がある。桐生方の貨物ホームや側線は、残っていない。なお、隣駅の大間々駅までは、難所の「七曲り」にある三つの短い国登録有形文化財トンネルを通り、駅間キロ5.1kmある沿線三番目の長区間になっている。


(桐生方。)

この駅も、春の鉄道撮影地として、大変有名である。駅舎南側の長い花壇には、菜の花が咲き、スロープ部や線路際にも、小さな花々が咲き乱れている。地元のボランティアが手入れをしており、訪問者を楽しませてくれる。


(ホーム柵に沿い植えられた菜の花。)

(スロープ部の小花もとても綺麗である。)

(元・2番線にも、小さな花が植えられている。)

天気も上々、気温も上がって心地良く、時々、少し冷たく、乾いた風が通り抜ける。とてもホッとする春のひとときが過ぎて行く。

駅舎本屋を見学してみよう。足尾鐡道開通時の大正元年(1912年)当時の木造駅舎が、今も使われている。


(ホーム側駅舎本屋。)

丁度、100年目になり、テレビや映画のロケにも、よく使われている。ほぼホーム中央の西側に建てられた木造切妻平屋建ての中型駅舎は、南側の桐生方に駅事務室、北側の間藤方に待合室を配している。なお、ホーム側には、波形トタン葺きの長い庇が延びるが、駅舎がホーム端から離れている為、ホーム上に庇が掛かっていない。

改札口には、コの字型の木製ラッチが残っており、少し傾き、角が擦り切れた風合いは、とても年季を感じる。庇の梁は、簡易な造りになっており、波形トタンの直葺きになっている。


(ホーム側からの改札口。)

改札口を通り、待合室に入ってみよう。北側の間藤方の窓下に、コの字型の木造ベンチが設置されている。これだけ古い駅舎であるが、今でも、木の香りが充満している。

三方に腰高窓があるが、北側にある為、薄暗くひんやりとする。床はコンクリートの流し込み、四角に溝が掘られ、半間でひと升分になっており、南北に4間(5.8m)・東西に2間(3.6m)の12畳程度の広さがある。なお、掃除が大変行き届いており、地元住民がまめに掃除をしているらしい。


(待合室とコの字木造ベンチ。)

残念ながら、出札口や鉄道手小荷物窓口は、ベニア板で閉鎖されている。左側の台が手小荷物の受付台、右側が出札口と思われる。

高さのやや低い民家風の竿縁天井(さおぶち-)であるのは、同時期に開業した神戸駅(ごうどえき)と同じである。しかし、この上神梅駅の内部は無塗装であり、本来の姿と思われる。壁も全て羽目板を使い、濃い木目の風合いが、年季を感じさせる。


(出札口跡と手小荷物窓口跡。露出補正済み。)

登録有形文化財登録証のカラーコピーも、掲示してある。わたらせ渓谷鐡道の駅や鉄橋等の38箇所が、国登録有形文化財に指定されており、いち鉄道会社では、国内で一番多くなっている。この上神梅駅は、最初に登録されている。ちなみに、2番目は、天竜浜名湖鉄道(静岡県西部・登録有形文化財指定36箇所)になる。


(国登録有形文化財の証書コピー。)

また、地元小学生が描いた絵が幾つか飾られており、その中には、この駅の絵もある。子供達にも、緑や花がいっぱいの印象深い駅であるらしい。単調な色彩の駅舎の雰囲気に、彩りを添えている。


(地元小学生の絵。)

(地元小学生の絵。)

間口の広い引き戸付きの出入口から、駅前に出てみよう。駅前はとても広く、ロータリー中央に小さな花壇と木製電柱があり、若干の違和感があるが、このアンバランス感も味なのであろう。


(駅出入口。)


(駅舎とロータリー。)

屋根と南側外壁は補修されているが、全体的に往年の姿を維持している。元々は、神戸駅(ごうど-)と同じ、コンクリート製瓦であったと思われる。

南側の駅事務室は、ホームの庇のラインまで拡大しており、腰折れ屋根になっている。この取って付けた感じは、昭和5年(1930年)の増築部分かもしれない。今は、歌謡教室として活用されている。


(駅舎の南側妻面。)

駅出入口左から駅舎北側には、外壁に沿って外ベンチが設置され、臨時改札口もある。昔は、乗客が大変多かったのであろう。

駅舎横の白桜を愛でながら、ちょっと座り、駅の雰囲気を楽しむ事にしよう。
苔むしたトタン屋根も、とても侘び寂びがある。


(苔むした庇と白桜。)

◆国登録有形文化財リスト◆
「わたらせ渓谷鐡道上神梅駅(かみかんばいえき)本屋及びプラットホーム」

所在地 群馬県みどり市大間々町上神梅193-2 他
登録日 平成20年(2008年)7月8日
登録番号 10-0264
年代 大正元年(1912年)築/昭和5年(1930年)増築
構造形式 [本屋]木造平屋建、鉄板葺、建築面積56㎡。
[プラットホーム]コンクリート造、延長108m。
特記 足尾と桐生を結ぶ旧足尾鉄道の駅舎。桁行7間、南半を梁間3間の事務室、
北半を梁間2間の待合室とした木造平屋建て。
東・西・北面に1間幅の庇をめぐらす。
東方には、側面布積としたプラットホームを接続。
鉱業で繁栄した往時の姿を今に伝える。

(文化庁公式ページの国指定文化財等データベースを参照・編集)

(つづく)


(※抑速ブレーキ)
気動車では、ディーゼルエンジンや液体式変速機の回転抵抗を利用したブレーキ。
自動車のエンジンブレーキと同じである。専用のスイッチを操作し、作動させる。
(※間知石/けんちいし)
6個並べると1間(1.8m)になる石材。正面は平面、背後は角錐型になっている。

2017年8月11日 ブログから保存・文章修正・校正
2017年8月11日 文章修正・音声自動読み上げ校正

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