天浜線紀行(26)西気賀駅 前編

次の登録有形文化財駅である、西気賀(にしきがえき)駅に向かおう。右窓に猪鼻湖(いのはなこ)の美しい青色の湖面を見ながら、エンジン音と共に速度を上げて行く。ここから西気賀駅の先までは、山が湖畔まで迫っている為、湖畔の狭い平地に沿って、線路が敷かれている。なお、街道時代の三ヶ日宿(みっかびじゅく)から東隣の気賀宿へは、湖畔側ではなく、街道は山中に入り、姫街道第二の難所の引佐峠(いなさとうげ、標高約180m)を越えていた。

このTH3501は、天浜線に1両のみ在籍するマスコット的な気動車である。かつて、トロッコ列車を運転していた頃、機関車の代わりになり、2両のトロッコ車両を牽引・推進した(※)。茶色系のレトロな外装塗色は、当時のトロッコ列車専用色のままになっており、「さわやか号」の愛称から、地元鉄道ファンの間では、さわやか色と呼ばれている。

なお、トロッコ列車「さわやか号」は、平成12年(2000年)春から、遠州森駅から三ヶ日駅まで運行。平成15年(2003年)からは、天竜二俣駅から三ヶ日駅間の運行に変更になった。平成19年(2007年)に、トロッコ車両の老朽化の為、廃止になっている。景色の良いのんびりとしたローカル線なので、ぜひ復活して欲しい。


(TH3501の車内。主力のTH2100形と違い、国鉄風気動車の雰囲気を残す。)

この車両は、先年、鉄道車両製造事業から撤退した富士重工業製である。平成7年(1995年)に製造され、昭和風のシックな内装とカミンズエンジンを搭載し、「ドッドッドッ」と詰まった様に聞こえるエンジン透過音が特徴である。かつては、富士重工業製のレールバスや軽快気動車が、全国各地に走っていたが、老朽化により廃車され、現役車両は徐々に少なくなってきている。

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【停車駅】◎→列車交換可能駅 ★→登録有形文化財駅
三ヶ日◎★0859==都筑==東都筑==浜名湖佐久米==寸座==0913西気賀駅◎★
上り122列車・普通掛川行き(TH3501・単行)
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西気賀駅までは、湖が見えたり、隠れたりしながら湖畔を走る。湖から離れ、国道沿いの町中にある都筑(つづき)駅と東都筑駅に停車。緩く左カーブをして、右窓に浜名湖と東名高速道路の高架橋が見えてくると、湖畔の駅として有名な浜名湖佐久米(はまなこさくめ)駅に到着する。
直ぐに発車し、標高の低い寸座峠をトンネルで潜り、眼下に浜名湖を一望出来る(すんざ)寸座駅に停車した後、もう一本のトンネルを抜けて平地に降り、湖面が再び見えてくると、西気賀駅に到着する。

9時13分、所要時間14分で西気賀駅に到着。ここで下車しよう。上り111列車・新所原行きのTH2102と列車交換をし、先発発車して行く。下り新所原行き列車もエンジンとレールの響きを奏で、駅を後にする。湖畔の静かな駅に戻った。


(国鉄風のレトロデザインの建て植え式駅名標。)

この西気賀駅は、昭和13年(1938年)4月に三ヶ日駅から金指(かなさし)駅まで、二俣西線が延伸開通時に開業した。起点の掛川駅から26駅目、47.7km地点、所要時間約1時間30分、所在地は浜松市北区細江町気賀、標高8mの終日無人駅である。なお、終点の新所原駅からは、11駅目、20.0km、約40分になる。

千鳥式ホーム2面2線の列車交換可能駅である。浜名湖の湖岸の形に沿い、構内全体が東西に大きく弓状にカーブしている。ホームの長さは80m以上あり、西側の新所原方の南側は明るく開け、湖面も見える。周辺の住宅は、国道沿いと駅北側の山に囲まれた狭い平坦地に集まっている。なお、姫街道は西気賀駅の直ぐ北側の集落内を通る。江戸時代末期に建てられたと伝わる薬師堂を経由し、東西に横断しており、峠への石畳の道も残っているという。


(新所原方。線路が纏まった向こう側に小さな踏切が見える。この先は、山が湖畔まで迫っており、登り勾配が続く。)

上り2番線ホームの新所原方から、駅全景を眺めてみよう。大きく弓状になった構内の中央付近に構内踏切と中規模駅舎があり、駅舎本屋は湖がある南側に面している。


(新所原寄りから駅全景。)

上り2番線ホーム中央には、古い開放式待合所があり、国登録有形文化財になっている。昨日に訪問した宮口駅のホーム待合室よりも、ふた回り程小さい。内壁は木造のまま、外壁はトタンで補修されている。上部構造は簡素で、柱の上部と梁に鉄製の補強材が取り付けられ、線路側の梁の先端が丸く削られているのが特徴である。


(上り2番線ホームの開放式待合所。)

(柱とベンチの黄色と大きな白い窓枠が印象的。)

◆国登録有形文化財リスト「天竜浜名湖鉄道西気賀駅待合所」◆

所在地 静岡県浜松市北区細江町気賀字岩根10185-3
登録日 平成23年(2011年)1月26日
登録番号 22-0148
年代 昭和13年(1938年)3月建築、昭和34年(1959年)改修
構造形式 木造平屋建、スレート葺、建築面積10㎡
特記 本屋の北側、線路を挟んだ下りプラットホーム上に建つ。
桁行6.4m、梁間1.5m、木造平屋建。
スレート葺の片流屋根を火打付の小屋組が受ける。
側・背面を竪板壁とし、大きく窓を穿ち、
引違いガラス戸を建てるなど、開放的な待合所。

※文化庁公式HPから抜粋、編集。

下り1番線ホーム東側から天竜二俣方を眺めると、左から山の手が迫る。宝渚寺平(ほうしょうじびら)と呼ばれる標高76mの低山で、北麓の山谷部分に姫街道が通り、小引佐(こいなさ)と呼ばれる浜名湖を一望出来る景勝地になっている。


(天竜二俣方。そのまま、大きくカーブをし、宝渚寺平の南麓を走る。)

湖畔側(南側)に建てられた駅舎を見てみよう。天浜線東側の駅と構造が異なり、一見すると、民家風である。洋風瓦と円形鉄柱の出庇付き、駅舎西側に倉庫が増築されている。


(上り2番線ホームからの駅舎全景。)

構内踏切は、改札口から一直線になっており、この木造駅舎も、国登録有形文化財に指定されている。左側の採光ドームのあるコンクリート製建物は、公衆トイレになる。


(構内踏切と駅舎。構内踏切前で停車するので、警報機はない。)

レトロな木造ロングベンチと並んで、木製のラッチも、開業当時そのままに残されている。ホーム屋根を支える円形鉄柱は今風であるが、国鉄時代からのものとの事。


(下り1番線ホームと改札口周辺。)

(開業当時の木造ラッチが残る。)

◆国登録有形文化財リスト「天竜浜名湖鉄道西気賀駅本屋」◆

所在地 静岡県浜松市北区細江町気賀字岩根10185-3
登録日 平成23年(2011年)1月26日
登録番号 22-0147
年代 昭和13年(1938年)建築、平成元年(1989年)改修
構造形式 木造平屋建、葺一部スレート葺、建築面積106㎡
特記 木造平屋建、桁行14m、梁間8.8mで、南面して建つ。
寄棟造瓦葺とし、スレート葺のホーム上屋を付ける。
入口庇の鋼製持送りや、待合室の木製のベンチと
改札口が往時の雰囲気を伝える。

※文化庁公式HPから抜粋、編集。

(つづく)


2022年2月12日 ブログから転載・文章修正・校正。

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