天浜線紀行(23・1日目最終回)宮口駅 後編

やや薄暗い待合室に入ってみよう。10畳位の広さ、高い天井、コンクリート床でひんやりとし、木製のロングベンチが東側の窓沿いに幅一杯に据え付けられている。出札口は、板に覆われており、面影は全く無い。また、駅周辺の踏切が無い為、駅構内は踏切代わりに使われており、地元住民や学生が、構内を頻繁に横断して行く。


(改札口と待合室。)

(東側の天竜二俣方に木造ロングベンチが据え付けられている。)

改札口横に掲げられた駅時刻表を見ると、列車は毎時1-2本の割合で、平日は4本の天竜二俣行きと1本の掛川行きが、この駅からの始発になっている。この駅からの始発列車は、駅舎側の下りホームから発車し、反対方面の新所原行きホームからは発車しない。また、掛川駅と天竜二俣駅から、この駅止まりの区間運転列車も設定されている。峠越えをする新所原行き始発はなく、やはり、天浜線を東西に分ける分岐駅なのである。


(駅時刻表。)

壁面には、登録有形文化財のパネルや沿線観光地図も掲示されている。


(国登録有形文化財の案内板。)

(天浜線沿線マップ。)

駅事務室は改装され、テナントの駅サロン「はままつ88」が入店している(現在は閉店)。店のコンセプトは高齢者向けの地域ケアであるが、駄菓子に釣られて地元の子供達に大人気の様子で、子供達の笑い声が聞こえてくる。店頭のメニューを見てみると、とても安い。


(駅テナントの「はままつ88」。)

看板を見ると「はまたま」(税込み120円)と呼ばれる、目玉焼きをトルティーヤに包み、
チーズ・マヨネーズ・カレーで味付けしたスナックが名物とのこと。名古屋名物のB級グルメ「たません」(駄菓子屋発祥のたこせんべい・えびせんべい)をアレンジしたもので、地元テレビでも紹介されたらしい。一応、大人の者向けの店であるので、麺類などの軽食やアルコールも提供している。


(店頭の案内板。)

(秋・冬メニュー表。)

出札口跡と思われる入口横の壁には、幼稚園生であろうか、地元の小さな子供達が描いたカラフルな天浜線の絵が展示されている。少し寂しい感じがする無人駅を、賑やかにしてくれている。なかなかの力作揃いである。


(地元の子供達の天浜線の絵。)

駅舎は南に面しており、明るい雰囲気である。駅舎西側はテナント入店の為、外壁が補修交換されており、少し残念に感じる。なお、岩水寺駅には、これとそっくりな駅舎があった。天浜線応援団が組織され、花壇の手入れや清掃等をしており、地元に愛されている駅という。


(駅前からの駅舎全景。)

(駅出入口周辺。)

舗装された広い駅前広場があるが、数軒の住宅のみで商店街は無い。町の中心は駅から南と西に離れている。また、本数は少ないながら、地元の温泉施設や病院行きのバスが発着する。


(駅前の様子。)

この宮口には、かつて、現在の遠州鉄道浜北駅(当時は遠州貴布祢駅)から、営業キロ4.2km・軌間762mmの西遠鉄道と呼ばれる軽便鉄道が延びていた。この宮口駅の南にある浜北宮口郵便局の南側に、終点の宮口駅と車庫があったという。

天浜線の前身・旧国鉄二俣線開業以前であり、古くからの街道に面して栄えた宮口に鉄道が通らない事に危機を感じた町の人達が、軽便鉄道敷設を計画した。大正13年(1924年)7月に開業したが、路線も短く、沿線人口も少なかった為、赤字経営であった。開通の4年後、遠州鉄道(当時は遠州電気鉄道)に経営委託。昭和15年(1940年)に旧国鉄二俣線が開通する事になり、経営困難になると予想された為、昭和12年(1937年)10月に廃止になっている。その軌道跡は、「けいべんみち」と現在も呼ばれる市道になっている。

また、宮口は、多数の寺社や古墳が残る歴史の町になっている。西南の徒歩数分の場所に、庚申信仰(※)で有名な庚申寺(こうしんじ)と呼ばれる古刹がある。駅舎側下り1番線ホームの駅名標の上に観光看板が掲げられ、猿の表情がなかなかリアルなので見入る。有名な「見ざる、聞かざる、言わざる」(看板では順序が違う)であるが、看板の一番右は宝珠を持つ猿になり、宝珠が何でも願いを叶える考えから、「思わざる」を表すとされている。
マピオン電子地図(浜松市宮口・庚申寺)


(「見ざる、聞かざる、言わざる、思わざる」の観光看板。)

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【宮口駅からの乗車経路】※車窓ロケと夕食の為
宮口1645==下り335列車・新所原行き(TH2102単行)==1758新所原
(引き返す)
新所原1831==上り152列車・掛川行き(TH2109単行)==2043掛川
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時刻は、16時半を過ぎた。早朝一番列車から乗車し、下車観光を精力的にしたので、若干、疲れてきた。ビジネスホテルに早めにチェックインしても良いが、明日はこの駅から西側を廻るので、事前の車窓ロケを兼ねて、終点の新所原駅まで行く事にしよう。また、ある物が目当てである。

16時45分発の下り新所原行きに乗車、新所原まで片道約1時間の旅になる。シートにどっしりと座り、メモを片手に車窓の見所をチェックして行く。17時58分、終点の新所原駅に到着。実は、お目当てはこれである。駅テナントの鰻屋「やまよし」のうなぎ弁当(大・税込1,575円)である。やまよしは、鰻の養殖をしている店主が経営する地元産鰻専門店になっている。乗降の多いJR線との接続駅でもあるので、天浜線でも一番有名な駅テナントだろう。
天竜浜名湖鉄道公式HP・新所原駅・やまよし
(毎週火曜日定休。昼11時から17時半まで店内飲食可。駅弁は10時半から18時半頃まで。鰻が無くなり次第、閉店。)


(やまよしのうなぎ弁当。)

(大は一尾入り。なお、うなぎうどんも名物。)

17時半までは店内で食べられるが、あいにく、時間が過ぎている。車内で食べようかと思ったが、通勤通学ラッシュ時間帯になるので、駅ベンチで頂く事にしよう。しばらくすると、店主から茶の差し入れも頂いた。ありがたい。

ラップと新聞紙で丁寧に包んだ包装を解くと、とても大きな鰻が。外はカリカリ、中がジュッと柔らかく、香ばしさがたっぷりの関西風になっている。身の厚みがあり、とても食べ応えがある。本物の地元産の上、この味と量を考えれば、かなり格安である。なお、関東風と比べると、甘みや油分が少なく、ややさっぱりとした感じになっている。

大満足した後は、起点の掛川駅に戻る事にしよう。明日の行程を考えると、天竜二俣が宿泊地に丁度良いが、町中にビジネスホテルが無いため、早朝の一番列車乗車が難しい。上り152列車・18時31分発掛川行きに乗車。30人程の通勤通学客を乗せ、駅に停車する毎に少しずつ下車する。30分程走ると日没になった。窓からの景色は何も見えないが、漆黒の闇の中を走る夜汽車もいい。途中の金指駅(かなさしえき)を過ぎると、ついに乗客は自分だけになり、エンジン音の軽快な響きと心地よい疲労もあって、うつろうつろになってきた。

天竜二俣駅とその東側の駅で、数人の乗客を乗せ、乗車時間約2時間、20時43分に掛川駅天浜線2番線に到着。JR新幹線口横のコインロッカーに預けた荷物を回収し、掛川駅南口の地元ビジネスホテルに宿泊して、明日に備えよう。


(天浜線起点の掛川駅に20時43分に到着する。)

◆天竜浜名湖鉄道一日目乗車記録◆

下り列車8本、上り列車2本(遠江一宮→掛川、新所原→掛川)に乗車。

【駅訪問】
9駅(掛川、桜木、原谷、遠江一宮、遠州森、天竜二俣、二俣本町、岩水寺、宮口)
※うち、登録有形文化財駅は7駅。二俣本町駅は途中下車観光時に貸自転車で訪問。
※登録有形文化財の駅スタンプラリーに参加。

【途中下車観光】
3ヶ所(遠州森2時間、天竜二俣3時間、岩水寺1時間)

【グルメ】
田舎蕎麦(800円、二俣本町駅・葉月)、鰻弁当(1,575円、新所原駅・やまよし)。

【運賃】
1,500円(天浜線1日フリーきっぷを利用)

【旅程】
掛川0632 107列車・新所原行き
0639
桜木0701 601列車・遠州森行き、登録有形文化財駅
0711
原谷0731 109列車・新所原行き、登録有形文化財駅
0748
遠江一宮0810 114列車・掛川行き、登録有形文化財駅
0848
掛川0857 117列車・新所原行き
0920
遠州森1121 125列車・新所原行き、登録有形文化財駅・途中下車観光
1142
天竜二俣1441 331列車・新所原行き、登録有形文化財駅・途中下車観光
1449
岩水寺1549 333列車・新所原行き、登録有形文化財駅・途中下車観光
1552
宮口1645 335列車・新所原行き、登録有形文化財駅
1758
新所原1831 152列車・掛川行き
2043
掛川

(天浜線編1日目おわり/2日目につづく)


(※庚申信仰)
平安時代から大正時代まで、特に江戸時代に盛んだった民俗信仰。元来は、中国の道教に由来。人間の体内には、生まれながらに三匹の虫である「三尸(さんし)」がおり、60日に一度の庚申の日に眠ると三尸が体から抜け出し、地獄の閻魔大王にその人間の罪悪を告げて、寿命を縮めると考えられている。それを防ぐ為に、庚申の日には、集落内での夜通しの宴会が行われた。庶民に医学が発達していなかった時代の延命長寿の信仰であり、仏教の青面金剛や帝釈天、神道の猿田彦神と日本古来の神「猿」に結びついた。シルクロードを通じて、中国から伝習した考えにも習合した。

2021年12月25日 ブログから転載・文章修正・校正。

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