大洗鹿島線紀行(3)大洗観光


(※道路の青ラインは、バスの乗車経路。)

そのまま、この大洗で途中下車して、町中や魚市場周辺を観光してみよう。一昨日、那珂湊の魚市場が非常に混んでいたので、見学を断念しており、そのリベンジも兼ねてである。空の雲が増えてきているが、気温もグングン上がって、とても暑い。

待合所奥の大洗インフォメーションセンターに行き、観光地図を貰う。丁度、10分後に港方面に行くバスが出るそうなので、そのバスに乗ることにする。しかし、ゴールデンウィーク中であるので、特別仕様のこのデコレーションバスも超満員になり、発車間際には、運転士が「すみません。今日は満員のため、もう乗れません」と謝るほどである。


(大洗町循環バスの海遊号。大人一回100円で、乗車できる。)

満員のバスが発車する。内陸側の県道を走り、港町に関わらず、アップダウンが多い。このバスは循環バスになっており、町内の観光拠点を時計回りにぐるりと回っているらしい。そのため、一旦、駅の北の方角に走り、海岸線を南下して、港へ向かうコースになっている。

しばらくすると、アクアワールド大洗バス停【魚マーカー】に到着。周辺道路は、駐車場待ちの大渋滞である。バスの乗客の殆どは、ここで下車してしまい、大洗一の観光地になっているらしい。15年前に県立大洗水族館としてオープンし、580種6万8千の海の生物が展示されている国内有数の大水族館である。また、水族館入口前には、ご当地ヒーロー「時空戦士イバライガー」のロケ車も二台停まっていて、今日はショーも開催されているらしい。乗客や行き交う人々の注目を集めていた。
アクアワールド茨城県大洗水族館公式HP

アクアワールド大洗を発車し、大洗公園沿いの景色の良い海岸道路を走ると、最初の目的地のバス停に到着。ここで下車し、大古刹である大洗磯前(いそさき)神社【鳥居マーカー】に参拝してみよう。昨日のひたちなか海浜鉄道の旅で参拝した、酒列磯前(さかつらいそさき)神社(ひたちなか市磯崎町)の兄弟社になっているので、興味津々である。

バス停近くの海岸には、「神磯の鳥居」と呼ばれる海鳥居が、太平洋に向かう岩の上に建つ。この大洗海岸の中でも、光圀公も詠むほどの指折りの日の出と月見の名勝地になっているそうで、元旦には、ここで初日の出の神事を執り行うとのこと。また、鳥居周辺は岩場であるが、北側は自然海岸が続いており、大勢の人達が浜遊びをしている。

あらいその岩にくだけて散る月を 一つになしてかえる月かな

水戸光圀公(水戸藩二代藩主/黄門様)


(大磯磯前神社神磯の鳥居。)

(鳥居北側の大洗海岸。大洗港から那珂川河口まで、3km近い海岸が続いている。)

神磯の鳥居から陸側には、大鳥居(二の鳥居)と長い石段があり、この上に神社があるらしい。早速、石段を登ってみよう。


(大鳥居と石段。兄弟社の酒列磯前神社とは、同時期の創祀になる。)

やっとのことで、長い石段を登り切ると、すぐに神社の境内になっている。この大洗磯前神社は、平安時代中期の斉衡3年(856年)に創祀された古社で、御祭神は、日本神話でも馴染みの深い国作りの神・大己貴命(おほなむちのみこと/大国主のこと)と、少彦名命(すくなびこなのみこと)を祀っている。後世、大己貴命は大黒天と習合したので、福の神の神社としても信仰を集めた。

戦国時代の永禄8年(1565年)の永禄の変の兵火により、社殿は焼失してしまったが、水戸藩二代藩主の徳川光圀(黄門様)が再建に取りかかった。江戸時代中期の享保15年(1730年)に、三代藩主の綱篠(つなえだ)がここに還座をして再興。江戸時代中期の代表的な神社建築様式で、拝殿の後ろの本殿は、茅葺き屋根の造りになっている。


(石段を登ると、立派な随神門がある。)

(拝殿。平安時代の延喜式では明神大社、戦前までは国幣中社であった。※)

ここも某アニメーションの聖地になっており、大きな歓迎看板やイラスト入りの絵馬が掲げられている。ファンが描いたイラスト入りの絵馬が沢山奉納され、眺めるだけでも楽しめる。また、境内の一角には、旧帝国海軍軽巡洋艦「那珂」(なか/5595トン)の忠魂碑も建立されている。昭和19年(1944年)2月17日、トラック島(現・ミクロネシア連邦)の米軍空襲で沈没したという。艦名が那珂川に由来することや、この大洗磯前神社を艦内神社に祀っていた由縁であろう。


(イラスト入りの絵馬。普通の願掛け絵馬と分けて、奉納されている。)

(軍艦那珂忠魂碑。船の来歴とイラスト入りの石盤も置かれていた。)

参拝を終えたので、先程の長い石段を降り、魚市場へ行ってみよう。引き返しの石段上からは、太平洋の大海原が一望できる。ここの標高は28mある。


(石段上からの三の鳥居と大海原。)

なお、大洗磯前神社から大洗の魚市場へは、歩いても行ける距離である。丁度、お昼時なので、魚市場の食堂で昼食も取りたい。


(大鳥居前の通り。)

シーサイドホテルが建ち並ぶ、このバス通りを西に300m歩いて行く。道路を跨ぐ一の鳥居を潜り、港へ行く道路が左に分かれているので、その方向に行く。しばらく歩くと、水産会社の看板やのぼり旗が沢山見え、徒歩10分で大洗魚市場に到着。那珂湊おさかな市場ほど大きくはないが、車や人も多く、とても賑やかである。


(漁船が並ぶ大洗魚港。かつては、磯浜港と呼ばれていた。)

(賑わう大洗魚市場。フェリーターミナルは、別の場所にある。)

これから更に混んで来ると思うので、先に昼食を取ろう。飯岡屋水産「カキ小屋」は、好きな食材を選び、各自のテーブルで焼けるので、人気がある。他、定食も各種あり、時間の関係もあるので、お勧めのカキフライ定食を注文した。なお、セルフバーベキューを楽しむ場合は、貝のセット(800〜2,000円)や単品も豊富にある。カキの食べ放題も、男性大人1時間2,800円で、時間が十分にあるならば、食べてみたい。


(カキ小屋の食材コーナー。会計後、各自のテーブルのコンロで焼く。)

10分ほど待っていると、整理番号札の番号アナウンスがあり、定食を受け取る。店の中央部は混雑しているので、道路側の二号館のテラスに行って、そこで食べることにしよう。

大粒のカキフライが四つに、あら汁や魚の小鉢がふたつも付いているのが嬉しい。もちろん、カキは新鮮な上、肉汁がたっぷりで、ソースなしでもすこぶる旨い。とても肉厚で食べ応えもあるので、今まで食べたカキフライの中でも、最上級のものである。


(カキフライ定食。税込み880円。ご飯が進むので、量がもう少し欲しかった。)

そろそろ、大洗駅に戻ろう。この魚市場のある場所は、埋立地になっており、旧道と旧市街地が陸側に一本入った所にある。本来は、ここが港町エリアの本通りで、路線バスもこちら側を走っている。車がすれ違いできる程度の道幅しかないが、幾つかの町家や旅館が立ち並ぶ古い雰囲気を残しており、造り酒屋もある様なので、次回はゆっくり散策してみたい。


(造り酒屋の合資会社古川酒造店。昭和59年に廃業しているらしい。)

バス停はどこかと探し、地元精肉店の前に、茨城交通のバス停を見つけた。ここでもアニメーションとタイアップし、スタンプラリーを開催しているらしく、多くの若い男性が集っている。中には、小さな子を連れた家族連れもおり、彼らにとっては、魚よりもこちらの方がお目当てなのであろう。店先にイラスト付き色紙が一面に展示され、一見すると、とても肉屋に見えないのが面白い。店ごとに、登場キャラクターを決めているらしい。


(スタンプラリーと出店で賑わうウスヤ肉店。)

眩しい日差しと暑さの中、路線バスを待つ。バス停名が沼屋前であるが、隣の廃業した薬屋の店名からである。今日は、水族館周辺が大渋滞しているので、大分遅れているらしい。やっと、定刻から15分ほど遅れて、茨城交通の茨大前営業所行きが来た。このバスは、那珂湊から水戸市内へ行く路線バスであるが、大洗駅の近くも経由するので、このバスで良い。

次のバス停からは、三人組の中年女性の欧米人グループが乗車し、運転士に何か尋ねているが、運転士は外国語が判らないらしい。どうやら、大洗駅に行きたいと言っている様である。ちょっと、助け舟を出し、片言の英語で大洗駅の近くに行けると伝えると、安心した表情になった。英語の訛りが強く、英語圏の観光客ではない感じであったので、どこから来たのか尋ねると、遠くフランスからとの事。ちょっと、驚いた。

大洗駅入口バス停で一緒に下車し、少し歩くと、駅に到着する。フランスから来た彼女達は、これから列車で水戸へ向かうとのこと。「Have a good travel !」と伝えると、「Good bye!」と大きく手を降って、お別れとなった。

(つづく)


(※延喜式/えんぎしき)
平安時代中期に編纂された律令の施行細目を記した書。全50巻。その内の9巻と10巻が神名帳(じんめいちょう)になっており、朝廷公認の神社一覧になっている。但し、朝廷に反抗的な神社や独自路線の神社は掲載されなかった。
(※国幣中社/こくへいちゅうしゃ・近代社格制度)
明治政府が国家神道を推進するにあたり、神社の社格を設け、それに応じて援助を行っていた。軍国主義的なため、戦後のGHQの指示により、制度は解体された。上から、大社・中社・小社・別格官幣社・諸社(郷社・村社など)・無格社となる。神祇官が祀る神社は官幣(かんぺい)、地方官(国司)が祀る神社は国幣(こくへい)となるが、同格の場合の差はない。

【参考資料】
現地観光歴史案内板

2017年7月15日 FC2ブログから保存・文章修正(濁点抑制)・校正
2024年8月31日 文章修正・校正・一部加筆

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