岳南線紀行(6)岳南富士岡駅

列車最後尾からの線路撮影をする為、一度、起点駅の吉原駅まで戻ってから、折り返して、車両検修区のある岳南富士岡駅に行ってみよう。昼前に雲が多くなってきたが、陽は差しているので、大丈夫そうである。

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岳南江尾1045 上り吉原行き 7000形(7002)単行
1106
吉原1120 (折り返し乗車・下り岳南江尾行)
1134
岳南富士岡
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起点の吉原駅から10数人の乗客を乗せ、のんびりとした雰囲気の中、折り返して岳南江尾へ向かう。途中駅で少しずつ乗客を下ろしながら、11時34分に岳南富士岡駅のホームに降り立つ。自分を含めた三人がこの駅で下車をすると、タイフォンを一声し、直ぐに発車して行く。

電車は、住宅と車庫の細い路地を左に緩く曲がりながら、抜けて行く。車庫の後ろから、「チンチンチン・・・」と、電鈴式踏切の警報音が聞こえてくる。


(下り岳南江尾行き電車を見送る。)

この駅は、昭和26年(1951年)12月延伸時の開業時、起点駅の吉原駅からは6.4km地点、所要時間約15分、所在地は富士市富士岡、海抜は7.6mである。富士岡には、市立図書館や小中高の学校が集まり、吉原本町以東の一番大きな町になっている。駅の北側に住宅地が広がり、西側と南側に工場が建っている。

ホームは、東西に配された島式一面二線の列車交換可能駅で、岳南江尾方に駅舎に結ぶ構内踏切があり、下り側だけにある半スロープは、この駅だけである。また、かつては三両編成を運行していたので、その分の有効長がある。今日は、塗装会社の人達が、きのこ型旅客上屋の再塗装をしているので、挨拶をする。


(吉原寄りからホーム全景。)

(旅客上屋。蛍光反射塗料のブライトコートを塗装しているらしい。)

本線の北側には、側線が三本残っており、岳南江尾方で、全て車止めになっている。側線には、引退した電気機関車や貨車、台車や車上クーラーユニット等の部品が保管されている。なお、近隣のふたつの工場に延びた、引き込み線があったが、既に撤去されている。

NTN製車軸受けの古典的台車が二台あり、車輪横に大きな歯車があるので、廃車解体された機関車の釣り掛け台車であろう。電気機関車の全般検査時の仮台車と思われる。


(廃車となった電気機関車と台車。)

吉原方を見ると、興和工業の煙突と向こうに貨物ヤードが見える。駅構内手前まで、貨物ヤードの引き上げ線も延びており、第二種車止めで終わっている。なお、興和工場の煙突の煙は、火力発電や不要な紙原料焼却(再生紙原料の古紙)の煙との事。製紙には大量の水と蒸気が必要で、火力発電で造られた蒸気は、紙の乾燥の熱源に使うらしい。


(吉原方。)

江尾方本線南側には、二線だけの小さな車両検修区(車両検査修理工場)があり、今日は、7000形(7001)とED40形(402)が休息中である。貨物列車用の電気機関車は全て引退したが、製造年が新しく、状態の良いED402は、整備用入換え機やイベント機として、使われているらしい。


(小さな車両検修区。)

(車庫で休む7000形7001とED40形402。)

半スロープを下って、改札に向かおう。改札手前には、もう手入れがされていない池庭もあり、岳南線の殆どの途中駅に残っている。古い国鉄ローカル駅にも、池庭が沢山見られ、駅員や乗務員のオアシス的存在で、日常の厳しい安全管理環境を癒やす、箱庭的存在であろう。なお、機関区では、安全祈願の鉄道神社が祀られている事もある。

駅池庭の発祥は不明であるが、「隣の駅が造ったならば、うちの駅も・・・」、と言う風に広まり、その出来を競うのも面白かったかもしれない。大都市の駅では、もうあまり見られなくなったが、山手線浜松町駅の小便小僧を見ると、何故かほっとする所もあるので、殺風景な鉄道駅にオブジェ的な造形も必要と感じる。


(ホームからの駅舎と構内踏切。)

(改札前の池庭跡。みかんの木があり、小さな実が沢山なっていた。)

駅舎は、暖かな駿河湾エリアらしく、南に面した開放的な造りである。10畳位の広さの待合室に、手作り半丸太ベンチが、ふたつ据え付けられている。自動販売機が置かれているが、出札口や鉄道手荷物窓口もそのまま残っているのが嬉しい。内装の配色や上部の小窓も、開業当時の原形のままらしい。

基本的には、無人駅であり、朝の通勤通学時間帯だけ駅員が詰めている。大貨物取扱所の木製看板が、コカコーラの自動販売機の右横に掲げられ、小さな民営鉄道でありながら、かつての誇りを感じさせる。


(改札口と待合室。)

(出札口周辺。)

珍しい平屋根の木造駅舎は、全体がトタンで補修されている。この富士岡と隣駅の比奈周辺は、湧き水とかぐや姫伝説の里である由縁から、吉原方に虹ブランコの女の子、道路側にかぐや姫の大きな壁画が描かれている。


(駅前からの駅舎。)

(道路側のかぐや姫の壁画。窓枠も昔の木のままである。)

お天道さまが差す静かな冬の昼時・・・改札前のベンチに座って、何も考えずに過ごすのも、贅沢な時間である。向かいの出窓には、かつて使われていたタブレットキャリアが下がっていた。


(改札口からホームを望む。)

(つづく)


【参考資料】
アイラブ岳鉄(鈴木達也著・静岡新聞社刊・2001年)

2017年7月13日 文章修正・校正

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