明知線紀行(12)飯沼駅

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【停車駅】
阿木1637======1642飯沼
上り18D列車 恵那行 アケチ10形(11)単行
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最後に、日本一の急勾配駅である飯沼駅に行ってみよう。16時37分発上り恵那行きに乗車し、阿木駅(あぎ-)を発車すると、線路が敷かれた山の高台から、小さな谷間一杯に広がる水田が左窓に見える。そのまま、1本目の宮田トンネルを抜け、2本目の飯沼トンネルで峠を越える。

昭和8年(1933年)の開通時に運用が開始された飯沼トンネルは、湧き水が多く、トンネルの掘削に大変苦労したと言う。トンネルの内壁は、コンクリート吹き付けではなく、コンクリートブロックを成形して、円形に組み立てる工法を採用した。トンネル上部の土被りの圧力に耐える為、所々に筋を入れてある。

峠直下の飯沼トンネルから少し下ると、駅間距離2.3km・5分程で、隣駅の飯沼駅に到着。飯沼駅は、第三セクター化した後の平成3年(1991年)に設置された新設の無人駅で、本来、設置が認められない急勾配の途中に、特別許可で設置されている。勿論、観光目的の設置ではなく、地元から要望が出されていた為である。

起点の恵那駅から7.6km地点、2駅目、所要時間約14分、所在地は中津川市飯沼、標高467mの終日無人駅で、周辺は、飯沼川とその支流の狭い川谷がある複雑な地形になっている。地質的には、飯沼断層と呼ばれる活発な活断層地帯の東の一角にあり、藤上台地と呼ばれる里山が、阿木盆地と南北に隔てている。

列車からホームに降り立つだけで、もの凄い急勾配であるのが判る。ケーブルカー等を除いて、勾配率33‰(パーミル)の日本一急勾配の駅になっている。案内看板と待合室土台に案内があり、国鉄時代の線路規格では、甲・乙・丙線の更に下、簡易線規格の上限勾配と同じである。


(飯沼駅に到着。)

ちなみに、日本で二番目の急勾配の駅は、明智駅手前の野志駅の30‰になり、明智鉄道で、「ワン・ツー」を占めている。なお、滋賀県大津市にある京阪電気鉄道の大谷駅も、30‰で同じらしい。


(勾配日本一の駅の看板。)

(待合所土台。角度としては、たったの1.89度であるが、100m進むと3.3mの高低差がある。)

なお、ケーブルカーやリニア式を除く、粘着式鉄道における本線上の国内急勾配は、大井川鐵道井川線アプトいちしろ駅から長島ダム駅間の90‰(但し、アプト式)が最急で、箱根登山電車線の80‰(普通粘着式のみの最急)、京阪電気鉄道大津線の61‰、神戸電鉄有馬線・粟生線の50‰、南海電鉄高野線の高野下駅から極楽橋駅間の50‰、JR飯田線の赤木駅から沢渡駅間の40‰、富士急行電鉄線の40‰がある。また、日本国内では、通常35‰が最急勾配とされ、それ以上は特例となっている。50‰以上の路線は、保安上の対策で、車両に特別なブレーキシステムが必要になる。

坂下側の恵那寄りから、阿木方を望むと、その急勾配が実感出来る。通勤通学時の2両編成の列車(約15m×2=全長30m)に当てはめると、先頭と最後尾の高低差が約1mにもなる。このホームの長さも、4両分位あるので、両端は約2mの高低差になる。


(恵那寄りからホーム全景。ホーム向かいの左の土手は、ほぼ水平であるので、坂のきつさが判る。)

阿木寄りには、小さなプレハブの待合所がある。中は小綺麗で、地元住民が定期的に掃除をしているのであろう。外壁には、明知鉄道オリジナルの運転情報表示盤が、設置されている。

貼ってあるポスターを見ると、「おらが鉄道せんべい」と言う明知鉄道オリジナル商品があり、ひまわりシナモン、ピーナツ、パンプキンシード、ココナッツの4つの味で、大10枚入り400円、小6枚入り280円との事。有人駅の恵那駅、岩村駅と明智駅で発売中で、土産に良さげである。


(待合所内。幅が狭く、かなり窮屈である。)

(運行情報掲示板。)

駅前広場から見ると、工場の倉庫の様な味気の無い感じである。看板に「駅」と書いておらず、一見、鉄道駅とは判らない。かつて、この飯沼は、「飯妻(いいづま)」と呼ばれていたそうで、沼地が多い事から、江戸時代の初め頃に現在の「飯沼」に変わったらしい。


(駅前からの飯沼駅。駐車できるスペースもある。)

駅周辺を見渡すと、人家は殆ど無く、大変静かである。近くの田んぼのカエルの合唱が、盛大に「ゲコゲコ」と聞こえて来る。「わっ」と驚かすと、一斉に静かになる懐かしい遊びも出来る。


(駅全景。踏切横の建物は、通学する学生達の自転車置き場。)

設置要望駅であるのに、住宅が無いのは不思議に思っていた所、踏切の先にある大きな案内板を見ると、山に挟まれたふたつの谷間に家々が散在しているらしい。


(手書きの飯沼案内図。)

国土地理院の地図を見ると、ふたつの小谷が東西に並行し、その各々の川沿いに集落がある。飯沼駅は、飯沼川とその支流が合流する場所にあり、飯沼地区の玄関口になっている。なお、そのまま、飯沼川は北流して恵那の木曾谷に流れて行き、阿木川に合流する。飯沼駅から東野駅間は、飯沼川の狭い谷間を縫う様に線路が敷かれ、この谷間の最上部出入口に飯沼駅がある。

また、太平洋戦争中の化石燃料不足を補う為、飯沼地区の二ヶ所と阿木駅側のふたつ目のトンネル付近の野田地区で、亜炭(褐色褐炭)が採掘されていた。水分が多く、熱量が低い低品質石炭であるが、昭和20年代まで採掘されていたと言う。しかし、採掘した穴が落盤して、家が傾いたり、田圃が陥没し、線路が陥没する重大事故もあったが、地元住民の協力で一晩で復旧した。


(国土地理院地図電子国土Web・飯沼地区)

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【停車駅】
飯沼1728======1733阿木
下り17D列車 明智行き アケチ10形(11)単行
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このまま、起点の恵那駅に戻っても良いが、次の上りは1時間30分待ちとなり、時間的にロスなので、阿木駅に再び戻ろう。明智行きの列車のアケチ10形(11)が、飯沼谷を全力で登って来る。


(飯沼谷を登る明智行き列車。)

17時28分発の下り明智行きに乗車し、隣駅の阿木駅(あぎ-)に到着。飯沼駅に行く際に大築堤を下る列車が見えたので、記念撮影をしたい。上り恵那行き列車は、この大築堤を下り切った後、阿木川鉄橋付近で90度近くカーブをし、阿木駅構内に進入して来る。

眼前の長閑な風景を眺めながら、20分程、ホームで待っていると、遠くから、「ファーン」と、阿木の山々にタイフォンがこだまし、山の中から、列車が飛び出して来た。手前の田圃の畦には、鷺(サギ)であろうか、スペシャルゲストも一緒である。


(夕刻の阿木の大築堤を下る恵那行き20D列車。35mm相当で撮影。)

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【停車駅】
阿木1754==飯沼==東野==1811恵那
上り20D列車 恵那行き アケチ10形(12)単行
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時計を見ると、18時前になっている。撮影をした恵那行きの20D列車が、ゆっくりと鉄橋を渡って来る。この列車に乗車して、起点の恵那駅に戻ろう。帰りの観光客も大勢乗っており、車内は混雑している。最後尾の運転席横に陣取って、過ぎ行く夕刻の風景を眺めて、この旅の見納めとする。

この阿木駅から恵那駅までは、基本的に下り調子になる。飯沼駅から、花無山と保古山に挟まれた狭い飯沼谷の急勾配を抜けると、視界が開けた扇状地を下り、東野駅(ひがしの-)に到着する。なお、飯沼駅の標高は470m、東野駅は310mなので、一気に160mも下る事になる。そして、東野駅先のピークを登った後、再び、長い下り坂を滑る様に走る。


(恵那に向かって、滑る様に下って行く。)

長い坂を下り切り、恵那の町並みが見えて来る。18時11分、起点の恵那駅に、無事に到着する。


(恵那駅に到着。)

これにて、「美濃三鉄めぐりの旅」の1日目である明知鉄道の訪問終了になる。今日は、午前10時頃から8時間程、美しい農村風景や大正ロマン薫る日本大正村、小粋な城下町の岩村を訪問できて、十分に満足である。出来れば、もうひとつの急勾配駅の野志駅や美しい田園が広がる飯羽間駅(いいばま-)も訪問したかったが、自宅から恵那まで特急列車を利用するか、前泊が必要であろう。思った以上に、見所の多い路線であった。

今夜は、明日の長良川鉄道訪問の為、起点駅の美濃太田に泊まる予定である。JR恵那駅1番線から、18時54分発の快速名古屋行きに乗車する。待ち合わせの間に、中央東線では引退した国鉄EF64重連の下り貨物列車が通過し、快速列車の乗車直前に日没となった。

真っ暗な夜闇の木曽谷を、列車は走って行く。8両編成の213系電車であるが、車内はガラガラで、あまり乗客は居ない。30分程で多治見に到着し、ローカル線の太多線(たいたせん)のディーゼルカーに乗り換えると、帰宅する通勤通学客で混んでいる。辛うじて、クロスシートの一角に着座し、多治見から約1時間で美濃太田に到着する。


(美濃太田駅改札口。)

今夜は、南口駅前のシティホテル美濃加茂に宿泊予約を取ってある。大分、空腹であるので、荷物を部屋に置いた後、夕食に食べに出かけよう。
シティホテル美濃加茂公式HP

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【乗車経路】
恵那18:54 JR中央西線 上り快速名古屋行き
19:22         (213系8両・H3編成 クハ212-5003乗車)
多治見19:30 JR太多線 下り美濃太田行き(2両編成 キハ11-123乗車)
19:59
美濃太田
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(おわり/明知鉄道編/美濃三鉄めぐりの旅)


◆明知鉄道 乗車記録◆

【訪問日】2010年(2010年)5月3日
【カメラ】PENTAX Optio S10
【乗車列車数】 6本(下り9D・17D、上り14D・16D・18D・20D)
【下車訪問駅】 5駅 恵那駅・明智駅・岩村駅・阿木駅・飯沼駅
【下車観光】  2ヶ所 日本大正村(明智駅)・岩村城下(岩村駅)

恵那11:38 下り9D  アケチ10形(11)単行
12:27
明智14:01 上り14D アケチ10形(14)単行 日本大正村観光
14:22
岩村15:24 上り16D アケチ10形(12)単行 岩村城下観光
15:34
阿木16:37 上り18D アケチ10形(11)単行
16:42
飯沼17:28 下り17D アケチ10形(11)単行
17:33
阿木17:54 上り20D アケチ10形(12)単行
18:11
恵那


【参考資料】
中津川市公式HP・阿木事務所

2017年7月30日 FC2ブログから保存・文章修正・校正
2017年7月31日 音声自動読み上げ校正

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