ここで、岳南電車(岳南鉄道)の電気機関車を紹介したい。平成24年(2012年)の鉄道貨物全廃後も、4両の電気機関車を、この岳南富士岡駅構内で保管している。一部の電気機関車は、構内入換仕業で使われているらしく、鉄道フェアで展示される事もある。また、岳南電車の電気機関車は、全車デッキ付きであるのも、特徴になっている。なお、静態保存されているED291以外は、鉄道貨物全廃まで、現役で使われていた機関車達である。
(岳南富士岡駅構内に留置されている電気機関車達。)
昭和24年(1949年)11月の岳南鉄道開業に合わせて、電気機関車も導入されており、国鉄信越本線の横川-軽井沢間で使われていた国産アプト式直流電気機関車ED40形2両を、当時の親会社の伊豆箱根鉄道から、譲渡されたのが始まりである。ピニオン(歯車)等のアプト部品は外して運行されたが、四連ロッド仕様の固定車軸であり、ボギー台車でなかった為に脱線しやすく、扱いは難しかったらしい。その後、ドイツAGE(アルゲマイネ社)製機関車の輸入や自社発注の新造機も導入され、後年は、他の鉄道会社からの譲渡機のみになっている。
ウィキペディア公開ファイル・国鉄ED40形アプト式直流電気機関車(原型機)
◆ED291(ED29形)◆
昭和2年(1927年)日本車輌製造。豊川鉄道(現・飯田線)に初導入され、後に国鉄に買収。岳南鉄道に昭和34年(1959年)に譲渡され、入換用機関車として活躍した。主幹制御器が電動カム軸式であったため、使いやすい機関車用に交換されている。以前から、側線の最奥に休車状態との事で、事実上の静態保存機になっている。左右側面の窓配置とルーバー位置が異なるのが特徴。
全長11m、自重40.7t、B-B軸配置、出力400KW、引張4,600kg、モーター4基、
吊り掛け駆動。
(昭和初期の箱型国産直流電気機関車ED291。)
◆ED501(ED50形)◆
昭和3年(1928年)川崎車両製造の凸型直流電気機関車。長野県の上田丸子電鉄(現・上田電鉄)に初導入、後に名古屋鉄道に譲渡され、昭和44年(1969年)に岳南鉄道に貸与、翌年に譲渡された。比奈駅構内で、日本大昭和板紙吉永工場(現・日本製紙富士工場)の貨車入換機として活躍し、当時、国内最古参の現役電気機関車であった。
全長10m、自重40.0t、B-B軸配置、出力447KW、引張6,640kg、モーター4基、
吊り掛け駆動。
(凸型直流電気機関車のED501。)
厚みのある板台枠に少し幅をすぼめた車体、庇と段差のある四連異形運転窓とリベットが打たれた小型ボンネット、側面の縦横の細いシルと、上辺のみアールが付いた教会風側窓が特徴の電気機関車は、同時期製造のED291と比べても、古典的デザインが美しい。車体横のローマン体「501」は、名古屋鉄道時代の表記のままになっている。
車体側面の全検表示は、重要部品検査時期(要検)が、「28-6」になっているので、本線自走も可能らしい。現存する凸型機関車は大変希少なので、今後も、動態保存して欲しい。鉄道ファンに一番人気のある機関車で、今年の岳南まつりでも、展示された。
◆ED402・403(ED40形)◆
ED402は昭和40年、ED403は昭和41年の日本車両製造のデッキ付き中型電気機関車。松本電鉄にダム用資材運搬の為に初導入、昭和47年(1972年)に岳南電車に譲渡。なお、ED402は、今でも稼働できる状態で、整備入換仕業などで使われている。
全長11m、自重40t、B-B軸配置、出力512KW、引張5,900kg、モーター4基、吊り掛け駆動。
(ぶどう色のオリジナル塗装のED402。)
(日本大昭和板紙塗装のED403。黄帯を巻き、社名と社章を掲げる。)
ED402は主に本線本務機として、ED403は貨物入換えや本線本務機とマルチに活躍した。当時の鉄道車両の流行であった、パノラミックウィンドウの運転席窓と砲弾型ヘッドライト、車載機器が見える側面のスクエアなガラス窓が特徴。側面は、全てルーバーでない所が電車的で、明るい印象の機関車になっている。また、運転席窓下に銀帯が引かれ、側窓が大きい引き窓であることや、屋根上モニターのHゴム窓があるのも、国鉄直流電気機関車のEF60似であるのが楽しい。
国鉄直流電気機関車よりも二回り以上小さな機関車は、非力ではないかとも思うが、一般的には、機関車の自重の15-20%位が牽引可能トン数(定格引張力)になる。紙製品輸送で使われていた青ワムは、自重11t+荷重15tで計26tが積載時の重量である事と、レール上の転がり抵抗係数は0.005程度であるので、1両あたり約130kgの引張力で動く。計算上では、50両位牽引できるので、結構な力持ちである。コンテナ車積載(コキ1両約65t/コンテナ4個積載)の場合は、20両位である。
なお、実際は、側線の有効長、線形や勾配などの余裕を見て牽引する。古い地方中小ローカル鉄道では、37kgレールなどの軽量レールの敷設が多い事もあり、国鉄ローカル線(丙線)の一般的な軸重制限14tよりも小さい簡易線並み(軸重制限12t)であったり、半径200m級の急カーブがあったりと線路規格が厳しい場合が多いので、軸重が軽く、扱いやすい大きさの自重40t級機関車が多く導入されている。
ちなみに、同じ県内の大井川鐵道でも、同じ位の大きさの古い電気機関車が現役であるのも、良く知られている所であり、大井川鐵道オリジナルのE103(E10形/日立製作所製造)は、岳南鉄道に一時譲渡されたことがある。自重45tのE103は、引張力が7,000kgもあるので、本線本務機として活躍した。後年、大井川鐵道に里帰りし、廃車となっている。
当ブログ画像・大井川鐵道直流電気機関車 E10形(102)
また、銚子電気鉄道よりふたまわり大きい自重20t級AGE(アルゲマイネ社)製の凸型直流機関車デキが、昭和44年(1969年)まで2両在籍した事があり、架線電圧1,500V昇圧と落雷による故障の為、全て廃車解体されている。今も残っていれば、銚子電気鉄道の様に鉄道ファンの目玉になったと思う。現役時代、小さい機関車ながらも、10-15両の貨車を本線で牽引していた。
◆ワム80000(380411、380128)◆
通称「青ワム」と言われる国鉄2軸大型有蓋貨車。自重11t、積載15t。冒頭に「3」を冠した80000形は、コロ軸受に交換した近代化車両で、転がり抵抗が小さくなっている。
製紙メーカーで生産された輪転印刷機用のロール紙を輸送する専用貨車で、鉄道ファンの間では、「紙ワム」とも言われ、計2両が保存されている。岳南線の貨車は、このワムが一番有名で、コンテナ貨車(コキ)と混結したり、かつては、化学品や製紙工場の発電用重油を運ぶタンク車(タキ)等も運行されていた。
(ワム80000形380411。)
側線には、機関車と並んで古典的な台車や作業用トロッコが置かれている。NTN製車軸の古い台車は、車輪横に大歯車があるので、吊り掛け駆動台車らしい。モーター、ブレーキ装置やバネ部品は全て取り外されており、交換用ではなく、車両の検査時に台車を取り外すことがあるので、その仮台車と思われる。
(ED291とED501の横に、古い台車やトロッコが並ぶ。)
(台車の形式や製造年は不明。NTNは国内有数のベアリングメーカーである。)
再訪時の3月。車庫内の7000形電車が、京王時代のブルーグリーンに似た色で塗装替え作業を行っていて、驚いた。下部の灰色マスクも京王時代の雰囲気である。もしかしたら、下旬の岳南電車まつりに合わせてかも知れない。譲渡元の塗装で走るのも、往年の鉄道ファンに人気があり、地方中小ローカル線の集客技として、活用される事も多い。
(やはり、2016年の岳南電車まつりにて、お披露目と運行が再開された模様。)
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ここで、本取材時に訪問できなかった須津駅(すど-)と神谷駅も紹介したい。両駅とも、この岳南富士岡駅と終点の岳南江尾駅の間の小駅である。
◆須津駅(すど-)◆
昭和28年(1953年)1月延伸時開業、吉原駅から7.3km地点、所要時間約17分、所在地は富士市中里、海抜13.1m。駅名由来は旧村名から。
グーグルマップ・須津駅
岳南富士岡駅の東隣りにある無人駅。駅舎は解体されており、小型のきのこ型旅客上屋が残る。島式ホーム一面二線で、列車交換可能。かつては、工場引き込み線もあったが、撤去された。周辺は静かな住宅地が広がる。大棚の滝(徒歩120分以上かかる)や須津湖の最寄り駅である。
(須津駅ホーム全景。構内踏切から吉原方を望む。ホームに簡易待合所がある。)
(岳南江尾方。構内踏切横に、信号機器を置く小屋がある。)
◆神谷駅◆
昭和28年(1953年)1月延伸時開通、吉原駅から8.2km地点、所要時間約19分、所在地は富士市神谷。海抜13.3m。
グーグルマップ・岳南電車神谷駅
須津川の東にある単式ホームの無人駅。須津橋梁の盛り土部を下った付近にある。平成14年(2002年)に改装、以前は、小さな鉄製旅客上屋の下に待合室があった。開業当時は、切符の委託販売があったと言う。須津川橋梁、岳南鉄道開通記念碑や浅間古墳(せんげん-)の最寄り駅となっている。
(岳南江尾方からの神谷駅ホーム全景。駅舎は無い。)
(つづく)
【参考資料】
アイラブ岳鉄(鈴木達也著・静岡新聞社刊・2001年)
須津駅と神谷駅は追加取材。
2017年7月13日 文章修正・校正
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