手すり付きの低いステップの階段を二段降りると、20畳位の広い待合室がある。この駅の最大の見所は、待合室の床面が総板張りであり、この駅だけになっている。靴に削られた小さな凹凸に、鈍い光が反射する様子は年期を感じさせる。
(見事な総板張りの床の三ヶ日駅待合室。)
天井は高く、合板の市松模様になっており、床と合わせて独特な雰囲気を醸し出す。蛍光灯の傘の横板は、燕の巣作りを防ぐ為という。
(天井の市松模様と蛍光灯。)
新所原寄りの西側窓際に、木製ロングベンチが幅いっぱいに据え付けられている。床面も木造であるので、「絶対に禁煙」の注意看板が掲げられている。よく見ると、座面の奥が少し低くなっており、アール部分も美しい。また、この木の床を歩くと、「コツコツ」とした独特な感じがあって、不思議な気分にしてくれる。忘れないうちに、駅スタンプラリーのスタンプも押しておこう。
(据え付けの木造ロングベンチ。)
出札口周辺は改装され、テーブルの無い普通の引き戸窓口になっている。鉄道小荷物窓口も形跡がなく、掲示物が一面に貼り込まれ、出入口側に向いた自動券売機が一台設置されているだけだ。なお、口座の種類は少ないが、硬券の窓口発売もしている。業務委託駅の為、平日は7時20分から16時まで、土日祝日は9時から16時までの窓口営業になる。
(出札口と改札口。)
駅舎北側の一部は改装され、出入口横の自動券売機前の奥は、アメリカンスタイルカフェ「グラニーズ」が入る。ハンバーガーや特産のみかんを使ったシフォンケーキが、名物になっているという。また、地元産の食材をふんだんに使った手作り駅弁も発売されている。保存料や添加物を使用していない為、夏場の6月から9月まで販売休止との事(土日のみ1日10個限定・要予約)。
天竜浜名湖鉄道公式HP・三ヶ日駅「グラニーズ」(水・木定休、10時-17時営業。)
(駅テナントのグラニーズ。横にあるのは、自動券売機。)
そのまま駅前に出てみよう。駅舎は北に面し、大きな駅前広場と幅広の道路が接続している。駅前側がホームの高さよりも低い為、コンクリートの土台と階段があり、その上に駅舎が建っている。ちなみに、駅周辺の海抜は2m程度しかない低地である。
(駅前からの駅舎全景。)
(駅出入口と階段。)
駅出入口の上には、味のある手作り無垢材の駅名標が掲げられている。駅舎の外板は縦板張りで、西側は白い木枠の二段窓が残る。残念ながら、テナントのグラニーズ側の外壁は大幅に改装されている。
(無垢材の駅出入口駅名標。)
(西側二段窓。白い窓枠と外壁の対比が美しい。)
駅前には、派手な大型立体観光歓迎板が建つ。かつてのこの地は、「英多(あがた)」、後には「中野郷」と呼ばれていた。現在の「三ヶ日」の地名は、意外にも、江戸時代頃からになるという。
地名の由来は諸説あり、月の三が付く日に市が開かれた、京の都まで早馬で三日掛かった、三日池の伝説からの説がある。その中の、三日池の伝説が興味深い。現在の国道301号線の三日池交差点近くに、綺麗な水を湛えた神社の大池があった。昔、里の長者が多くの人足を雇い、池の水を汲み出して魚を獲ろうとした。しかし、三日三晩いくら汲み出しても、水が減らなかったという。それ以来、この池を「三日池」、その長者を「三日長者」、里を「三ヶ日村」と呼ぶようになったとの事。この説が一番、ほのぼのに感じる。なお、この三日池はかなり小さくなったが、史跡として現存するという。
(特産のみかんを散りばめた三ヶ日歓迎看板。)
この三ヶ日町は、浜名湖の支湖・猪鼻湖(いのはなこ)の最北部に面している。東、西、北の三方が山に囲まれ、山から流れ出る宇利山川、日比沢川、釣橋川の三つの短い河川が作る狭い平野に町が発展している。背後の山々も、南アルプスが太平洋側に張り出す最南端の稜線部になっているとの事。
平成17年(2005年)の浜松市との合併前は、静岡県引佐郡(いなさぐん)の一町であった。かつては、東海道の脇街道である「姫街道」(別称・本坂通り)が町中を通り、東側に引佐峠、西側に本坂峠の難所を控える為、人馬や荷役も多く、宿場町として大変栄えたという。現在は、浜名湖海側を避けた東名高速道路が迂回し、インターチェンジやサービスエリアも置かれて、西遠エリアの玄関口になっている。なお、町全体の人口は約15,000人、駅周辺の三ヶ日地区に約2,500人が住む。
町の特産品としては、湖に面した温暖な傾斜地で作られる「三ヶ日みかん」が全国的に有名である。栽培は江戸時代中期まで遡り、明治初期の頃には、全国に名が知られていたという。その他、三ヶ日牛、蜂蜜、大福寺納豆(浜名納豆)も特産との事。また、温暖で風光明媚な景観や多くの史跡、新鮮な山海の幸も豊富。リゾートホテルや旅館も多く、湖畔サイクリングやヨット等のスポーツも盛んになっている。
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とても気持ちの良い天気と、のんびりとした雰囲気に満喫感を得る。もう少し、この駅に留まりたい気分であるが、他の有形文化財駅に立ち寄りながら、天竜二俣駅に引き返す事にしよう。次の上り列車は8時59分発になる。待合室のロングベンチでゆっくり待とう。
発車時刻が近づいてきた。初老の駅長氏に礼を言い、1番線ホームに出ると、短い汽笛を鳴らして、レトロな塗装の気動車がやって来た。天浜線に一両だけ在籍する、マスコット的車両・TH3501(TH3500形)である。今日は、朝から巡り合わせが良い。
(TH3501。元・トロッコ列車の塗装になっている。)
後部乗降ドアから乗車する。下り109列車のTH2101と列車交換をすると、列車は短汽笛を一声。ドッドッドッと低音が効いたエンジン音を轟かせながら、定刻に三ヶ日駅を発車。スタンプラリー用の整理券も取っておこう。
(三ヶ日駅を発車する。※最後尾からの撮影。)
(つづく)
2022年1月1日 ブログから転載・文章修正・校正。
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