わ鐵線紀行(28)水沼駅

国道から、停車場通りを通り、大間々駅(おおまま-)に戻ろう。この通りにも、古い木造の商店数軒と大正風の洋風建築住宅が一軒残っている。昔は、この様な木造の町家が連なっていたのであろう。


(停車場通りから、大間々駅を望む。)

徒歩4分程で、大間々駅前に到着する。今日は、精力的に下車観光をしている為、小腹が空いて来た。駅の向かいには、町食堂の新井屋食堂がある。ここに入ってみよう。実は、わたらせ渓谷鐡道訪問時に、よく利用させて貰っている食堂である。醤油ラーメン500円、定食各種650円まで、カツ丼550円等、美味く、懐に優しく、お勧めの食堂である。地元の古い駅前食堂は、味の当たりが多く、ここも期待を裏切らない。
マピオン電子地図・新井屋食堂

中に入ると、テーブルが四つ程度と小さな上がりがある。軽食を頼む事にし、「ポテト焼きそば」(税込350円)を注文する。厨房の奥から、ジュージューと鉄板で焼く音を聞きながら待つ。緑茶を頂いている間に、出来上がった。


(ポテト焼きそば。もやし入りは、地元でも珍しいらしい。)

この桐生周辺の両毛エリアは、古くから、小麦の食文化が発達している。蕎麦、うどん、すいとん、焼きまんじゅう等が、よく食べられていた。また、明治以降、織物工場で働く工員達の手軽な昼食として、この焼きそばがよく食べられ、今も、地元B級グルメになっている。

塩っぱ過ぎない、懐かしい昭和風甘辛ソース味に、ポテトのほんのりとした甘味が、ホワっと広がり、とても美味しい。この付近では、焼きそばにポテトを入れるのが、定番となっており、各家庭でも入れる。桐生中心部や学校前には、焼きそば専門店もある。

春の追加取材時に食べた「ソースカツ丼」(550円/新香付き)も紹介しよう。カツ四枚が白飯に乗っている非常にシンプルな丼物であるが、これが大変美味しい。

身のほぐれが良く、油分の少な目のカツに、濃い目の甘辛ソースとふんわりご飯の混ざり具合が絶妙になっており、ほのかな甘辛さと香ばしさが堪らない。また、油っぽくなく、ソースと共に自然な感じが良い。丼は小さく見えるが、茶碗約2杯分詰まっており、これひとつで大満足である。なお、一般的なロース肉ではなく、ヒレ肉を使うのが、地元のお決まりになっている。


(新井屋のソースカツ丼。税込み550円。)

これを食している間にも、ソースカツ丼の出前が幾つも入り、人気メニューになっているらしい。このソースカツ丼も、桐生周辺の名物料理になっている。

【新井屋食堂のご案内】
昼11時頃から20時頃まで営業、毎週木曜日定休、店舗北側に専用駐車場あり。
営業時間が多少前後する場合がある。閉店直前の入店は、避けて下さい。

(19時過ぎ位までに入店。)

夕食をどうするか考えたが、持ち帰り定食弁当をお願いする事にし、18時半過ぎに再来店すると伝える。

まだ、明るく、もう一駅の見学に行けそうである。下り間藤行き列車に乗り、水沼駅に行ってみよう。乗車前に、明日分の1日フリーきっぷ(1,800円)と構内駐車券(500円)を出札口で購入。原則、当日発売であるが、明日の朝一番の列車から乗車する旨を伝えた所、発券して貰えた。

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【乗車経路】◎→列車交換可能駅 ★→登録文化財駅
大間々◎★1712======1728水沼◎
下り725D・間藤行き(わ89-331「たかつど号」+312「あかがねII号」・2両編成)
(駅見学後に折り返し)
水沼◎1805======1821大間々◎★(泊)
上り726D・桐生行き(わ89-315「わたらせIII号」単行)
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1番線ホームから、下り725D・17時12分発間藤行きに乗車する。わ89-311「たかつど号」と、わ89-312「あかがねII号」の二両編成は、下校の中学生達で混雑している。

春の夕暮れに近づいている中、上り列車の「わ89-302・わたらせ号」と列車交換をし、大間々駅を発車する。渡良瀬川に再び沿い、グイグイと勾配を登って行く。


(下り725D列車最後尾から、後方の大間々駅を撮影。)

長い上り勾配が続く中、半径200m級の急カーブや岩の切り通し部を、幾つも抜けて行く。トンネルの様な岩の切り通しを過ぎ、大きな右カーブと共に右手が開けて桜並木が見えると、大間々駅から所要時間16分で、水沼駅に到着。列車交換はなく、2分程度停車した後に発車して行く。


(下り間藤行き725D列車が発車する。)

この水沼駅は、足尾鐵道時代の大正元年(1912年)9月開業の古い駅になり、起点の桐生駅から16.6km地点、7駅目、標高258mの終日無人駅である。なお、所在地は、みどり市ではなく、桐生市黒保根町水沼(くろほねまちみずぬま)になる。


(駅名標と赤ポスト。)

列車交換の可能な駅であるが、古い木造駅舎は無く、わたらせ渓谷鐡道名物の温泉設備併設駅になっている。元々は、赤城山東麓の勢多郡黒保根村(せたぐんくろほねむら)の中心地であり、沼田に抜ける根利道(ねりみち)と呼ばれる赤城山北麓の街道も、この付近から分岐していた。また、昔からの赤城山登山口がある。


(水沼駅前。駅舎は取り壊されている。向かいの温泉センターは、かなり大きい。)

相対式二面二線が配され、桐生方に小さな鉄骨製跨線橋がある。上りホームに温泉センターがあり、下りホームに旅客上屋付き待合所がある。


(跨線橋上から駅全景。駅構内は、3パーミルの微勾配になってる。)


(下りホームの待合所。駅舎の代わりになっている。なお、改札口は無い。)

この温泉は、近くの猿川にある源泉から引いており、正式名称は猿川温泉になる。元々、わたらせ渓谷鐡道直営であったが、平成20年(2008年)冬に休館となってしまい、廃業と心配されたが、翌年春に民間委託の形で営業を再開している。

ホームを歩くと、温泉の香りがしてくる。ふたつの河童像が玄関先にあり、水沼から渡良瀬川上流の「釜が淵の河童伝説」が、由来になってると言う。全国各地にある椀貸し伝説(※)の河童版である。


(温泉センター玄関先の河童像。)

含二酸化炭素・ナトリウム・カルシウム・塩化物・炭酸水素塩冷鉱泉になっており、源泉の温度が低い為、加温している。神経痛・五十肩・打ち身・冷え性・高血圧等に適し、さらっとした入浴感は、旅の疲れ取りに良さそうである。売店、宴会場や貸切和室(有料)があり、食事も取る事が出来る(宿泊は不可)。

【水沼駅温泉センターご案内】
営業時間・11時から20時(露天風呂は、トロッコ列車運行日の12時から17時のみ)、
入浴料金・大人600円(貸切和室は別料金)、無料駐車場あり100台。
わたらせ渓谷鐵道1日フリーきっぷ提示すると、入浴料20%割引あり。
水沼駅温泉センター公式HP

この黒保根地区は、渡良瀬川が緩く左にカーブするアウト側の高台に集落がある。元・村役場の桐生市黒保根支所、銀行、消防署、駐在所、食堂や商店等が集まり、400人弱の人々が住んでいる山里になっている。また、川側の低地に桜が沢山植えられ、広大な親水公園、運動場やテニスコートが整備されている。北上してきた下り列車は、急に視界が開け、この見事な桜並木が見える為、車内の観光客からも歓声がいつも上がる。


(国土地理院国土電子Web・水沼駅周辺。)

列車の車窓からも見える大きな鉄橋は、黒保根大橋と呼ばれており、景観維持の為に茶色に塗装されている。橋の周辺の桜は日当たりが良い場所らしく、もう、葉桜になっていた。向かいには、荒神山(こうじんやま/標高624m)が聳えている。山頂の展望も良く、帰りに温泉に入れる中級者向け登山コースとして、人気があると言う。


(黒保根大橋。)

(大橋下の葉桜。)

約30分滞在すると、徐々に、薄暗くなって来た。上り726D・18時6分発の桐生行きに乗車し、大間々駅に戻ろう。


(上り726D・18時6分発の桐生行きが到着。)

到着した列車には、乗客がひとりのみおり、水沼駅から3人が乗車し、4人の乗客になる。本宿駅から更にひとり乗車し、5人の乗客を乗せ、大間々駅に到着。日没になり、すっかり暗くなっている。出札口も営業終了となり、駅員や利用客も居らず、寂しげである。先程の出発時は、結構な人々が居たのであるが。

駅の出入口には、平成23年(2011年)夏の群馬ディスティネーションキャンペーンポスターが貼ってある。あの某有名映画のパロディであるが、左後ろは、県特産品のキャベツ畑であるのが面白い。モデルは、群馬県出身のタレントである中山秀征氏と井森美幸嬢である。
グンマの休日特設サイト「ぐんま大使の部屋」(※自動再生あり、音量注意。)


(グンマの休日。テレビCMも制作されたと言う気力の入れ様である。)

今夜は、この大間々に宿泊する。町唯一のビジネスホテルであるピートンホテルに向かおう。かつての大間々は、銅街道の宿場町として賑わったが、桐生駅前にビジネスホテルが多数出来た為、町内に宿泊施設があまりない。

新井屋食堂に頼んでいた弁当を購入し、駅前のローソンに立ち寄り、ポカリスエットや酒等も購入。駅前通りをそのまま南に歩き、徒歩5分程で、ホテルに到着する。
マピオン電子地図・大間々ピートンホテル

チェックインを済ませ、部屋に入る。やや手狭であるが、ひと通りの設備が揃い、小奇麗で良い感じである。窓の外は、わたらせ渓谷鐡道の線路があり、線路際に見えた黄色いビルがこのホテルである。

弁当の温かいうちに、夕食にしよう。生姜焼き定食(650円)を頼んでおいた。味噌汁は付かないが、量も多く、大満足である。


(新井屋食堂の生姜焼き弁当。税込み650円。)

明日も、朝一番の列車に乗車しよう。早めに寝る事にする。

(つづく)


◆わたらせ渓谷鐡道 1日目旅程表◆

【乗車本数】
上り5本、下り2本の合計7本に乗車。
【駅舎訪問】
相老駅、神戸駅、花輪駅、上神梅駅、大間々駅、水沼駅の6駅。
【下車観光】
神戸駅(旧線散策道・草木ダム・富弘美術館)
花輪駅(花輪宿・祥禅寺・旧花輪小学校)
上神梅駅(深沢宿・深沢角地蔵・穴原薬師堂・貴船神社、※追加取材にて)
大間々駅(神明宮・はねたき橋・ながめ余興場・大間々の町並み)

大間々0608 上り750D・桐生行き・わ89-315「わたらせIII号」単行
0621
桐生0639 下り711D・間藤行き・わ89-315「わたらせIII号」単行
0742
神戸1021 上り716D・桐生行き・わ89-311「たかつど号」単行
1031
花輪1218 上り718D・桐生行き・わ89-313「わたらせII号」単行
1239
上神梅1346 上り720D・桐生行き・わ89-315「わたらせIII号」単行
1354
大間々1713 下り725D・間藤行き・わ89-311「たかつど号」+312「あかがねII号」2両編成
1729
水沼1805 上り725D・桐生行き・わ89-315「わたらせIII号」単行
1821
大間々(泊)

※上神梅駅下車観光の深沢宿、穴原薬師堂と貴船神社は、追加取材。
※記事執筆に当たり、翌年の春と夏に追加取材を実施。


(※椀貸し伝説)
宴会や冠婚葬祭時、客をもてなす椀や膳が足りないと、神仏や大岩・淵等に祈願した所、貸してくれたと言う民話。返さないと、二度と貸してくれなかった落ちがある。

新井屋食堂の店主より、掲載承諾済み。厚く御礼申し上げる。

2017年8月12日 ブログから保存・文章修正・校正
2017年8月14日 文章修正・音声自動読み上げ校正

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