わ鐵線紀行(5)花輪へ

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【停車駅】 】【→トンネル、〓→主な鉄橋、★→国登録文化財駅、◎→列車交換可能駅
上神梅★0708===〓=本宿==〓】【===〓===〓=0719水沼◎
下り711D列車・間藤行き(わ89-315「わたらせIII号」単行)
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この先は更に険しくなり、半径200m級の急カーブや岩の切通しが連続し、川崖の上を走る。大岩の間を通り抜けるのも、わたらせ渓谷鐵道の独特な醍醐味を感じる。なお、この区間の渡良瀬川は、見えたり、見えなかったりする。


(上神梅〜本宿間の渡良瀬川。川崖の高さはかなりある。※上り桐生行き列車最後尾から、間藤方を撮影。)

アップダウンをひとつ越え、簡易線規格最急の半径160mの急カーブ上にある深沢橋梁(ふかさわきょうりょう)を渡ると、上神梅駅から所要時間3分程で、本宿駅(もとじゅく-)に到着する。


(深沢橋梁を渡る。※上り桐生行き列車の最後尾から、間藤方を撮影。)

(上り勾配の途中にある本宿駅が見える。※上り桐生行き列車の最後尾から、間藤方を撮影。)

なお、深沢橋梁は、デッキガーター二連・長さ30mの国登録有形文化財の鉄橋になっており、渡良瀬川支流が合流する場所に架かっている。本宿側のコンクリート製橋台は、昭和23年(1948年)のカスリーン台風で壊れた為、造り替えられている。

◆国登録有形文化財リスト◆
「わたらせ渓谷鐵道深沢橋梁(ふかさわきょうりょう)」

所在地 群馬県桐生市黒保根町宿廻・みどり市大間々町上神梅
登録日 平成21年(2009年)11月2日
登録番号 10-0296
年代 大正2年(1913年)竣工。
昭和13年(1938年)、昭和14年(1939年)、昭和23年(1948年)改修。
構造形式 鋼製デッキガーター2連、橋長30m、橋台2台及び橋脚1台付。
特記 本宿側のコンクリート製橋台は、昭和23年(1948年)のカスリーン台風で
壊れた為、造り替えられた。

(文化庁公式ページの国指定文化財等データベースを参照・編集。)

桐生駅から約30分で、本宿駅(もとじゅく-)に到着。単式ホームに簡易な鉄骨製旅客上屋のみの小さな駅であるが、この駅から、本格的な渓谷美が始まる。
マピオン電子地図・わたらせ渓谷鐵道本宿駅(1/21,000)


(本宿駅。※上り桐生行き列車の最後尾から、間藤方を撮影。)

この駅は、国鉄からJR東日本に転換された平成元年(1989年)3月に、地元請願により設置された小さな無人駅である。起点の桐生駅から13.8km地点、6駅目、桐生市黒保根宿廻(くろほねやどまわり)、標高214mにあり、10パーミルの勾配の途中にある。駅の近くには、幾つかの民家や団地があり、坂上田村麻呂(さかのうえたむらまろ)由来、1,000年以上の歴史があると伝えられている秘湯の一軒宿・梨木温泉(なしきおんせん)がある。
梨木館公式HP

本宿駅に約1分間停車する。木立の間から、川面が間近に見える。国道下の斜面に駅があり、長い階段で出入りする。ここは、赤城山の南東山麓にあたり、次の駅の水沼駅までの3.1km区間は、古路瀬渓谷(こじせけいこく)の切り立った崖が続く。わたらせ渓谷鐵道沿線でも、指折りの紅葉名所となっている。

なお、「古路瀬」とは、珍しい地名であるが、本来の読み方は「ころせ」であり、渡良瀬川の旧名「黒川(くろかわ)」の転訛である。しかし、音読の意味合いが悪い為、「こじせ」に読み替えられたと言う。


(本宿駅付近の渡良瀬川。※上り桐生行き列車最後尾から、間藤方を撮影。)

本宿駅を定刻の7時12分に発車する。上り勾配を1分程走ると、城下橋梁(しろおり-)を渡り、城下トンネル(しろおり-)に入る。

城下橋梁は、渡良瀬川支流が合流する地点に架かり、川床からの高さは7mある。この橋の左上方に、旧道の旧城下橋、旧道の上に現在の国道122号線の城下橋があり、ひな壇状に三段並んでいるのが面白い。
マピオン電子地図・わたらせ渓谷鐵道城下橋梁(1/8,000)


(城下橋梁と城下トンネル。※上り桐生行き列車の最後尾から、間藤方を撮影。)

鉄橋の直ぐ先は、城下トンネルとなっており、そのまま突入する。開業当時の煉瓦積み馬蹄型・全長82mの直線トンネルになっている。

◆国登録有形文化財リスト◆
「わたらせ渓谷鐵道城下橋梁・城下トンネル(しろおり-)」

所在地 群馬県桐生市黒保根町宿廻
登録日 平成21年(2009年)11月2日
登録番号 [橋梁]10-0295 [トンネル]10-0294
年代 共に、大正元年(1912年)。
構造形式 [橋梁]鋼製単桁橋(デッキガーター橋)、橋長20m、橋台付。
[トンネル]煉瓦造及び石造、長さ82m、擁壁付。
特記 [橋梁]
渡良瀬川支流の川口川に架かる。単線仕様の鋼製デッキガーター橋。
桁はスティフナーをJ形とし、長さは60フィートある。
主桁を連結するロ字形のブラケットは、
筋違補強を入れずに当初の姿のまま残る。
[トンネル]
延長82m、単線仕様の直線状の隧道。坑口は煉瓦4枚厚の馬蹄形とし、
南坑門をほぼフランス積風の布積で築く。
官鉄によるわが国初のトンネル規格である
「鉄作乙第4375号型」とほぼ同じ断面である。

(文化庁公式ページの国指定文化財等データベースを参照・編集。)

城下トンネルを抜けると、川縁の急崖の上を豪快なエンジン音と共に、時速40-50kmでグイグイと登って行く。人家の少ない山中になっており、小さなアップダウンが多く、頻繁に勾配率が変わる。なお、川崖に木々が沢山生い茂り、夏は川面が見えない。川の流れを見たいのであれば、晩秋から初春がお勧めの時期になる。

川に迫った山と大きな岩の間を走るのも、この路線の見所のひとつである。ダイナマイトや削岩機で削ったままの、コンクリートで仕上げていないワイルドさがあり、その風合いの変化も楽しい。また、大きな落石防止ネットを被せてある場所も多い。


(ワイルドな岩の切り通しを抜ける。※上り桐生行き列車の最後尾から、間藤方を撮影。)

線路際の木造保線小屋には、可愛らしい動物が描かれたブリキの歓迎看板が見える。次の水沼駅の温泉のものらしい。


(ブリキ看板が付いた保線小屋。※上り桐生行き列車の最後尾から、間藤方を撮影。)

なお、山が迫っている場所が多いが、独立した大きな落石防護柵は、意外に少ない。この防護柵には、古レールが使われているらしい。場所が場所だけに、確認が難しく、年代は不明である。


(落石防止柵と古路瀬渓谷。※上り桐生行き列車の最後尾から、間藤方を撮影。)

また、本宿駅から約3分半で、渡良瀬川支流の一級河川・江戸川を渡る。この江戸川橋梁は、I型の鉄骨の上にレールを固定した簡易な造りになっている。明治・大正期の標準設計のIビームとしては、長さ5.6mの最大級規模になる。

◆国登録有形文化財リスト◆
「わたらせ渓谷鐵道江戸川橋梁(えどがわきょうりょう)」

所在地 群馬県桐生市黒保根町下田沢
登録日 平成21年(2009年)11月2日
登録番号 10-0293
年代 大正元年(1912年)
構造形式 鋼製単桁橋(Ⅰビーム橋)、橋長5.6m、橋台付。
特記 渡良瀬川支流の江戸川に架かる橋長5.6mの鋼製単桁橋。
桁はDORMANLONG社製の鋼材を用いた「達第875号型」のⅠビーム。
明治・大正期の標準設計Ⅰビームとしては、最大級規模を誇る。

(文化庁公式ページの国指定文化財等データベースを参照・編集。)

古レール製の大きな落石防止柵を通過すると、左手に棚田が見え、町に近づいているのが判る。その先のトンネルの様な長い岩の切り通しを抜けると、右手の視界が大きく開け、川谷が急に広くなり、明るい雰囲気になる。


(岩の切り通し部。※上り桐生行き列車の最後尾から、間藤方を撮影。)

切り通しを抜け、右に大カーブをしながら、不動沢橋梁を渡ると、水沼駅に到着。ここでも、線路際の大きな桜並木が、列車と乗客を迎えてくれる。


(水沼駅手前の桜並木。※上り桐生行き列車の最後尾から、間藤方を撮影。)

(不動沢橋梁と水沼駅。※上り桐生行き列車の最後尾から、間藤方を撮影。)

水沼駅は、大正元年(1912年)9月開業、起点の桐生駅から16.9km地点、7駅目、所要時間約35分、桐生市黒保根町水沼(くろほねまちみずぬま)になる。なお、標高は258mあり、大間々駅から約75m上がってきている。列車交換可能な相対式二面二線を擁し、数分間停車する事もある。なお、手前の不動沢橋梁は、国登録有形文化財になっている。

◆国登録有形文化財リスト◆
「わたらせ渓谷鐵道不動沢橋梁(ふどうざわきょうりょう)」

所在地 群馬県桐生市黒保根町水沼
登録日 平成21年(2009年)11月2日
登録番号 10-0292
年代 大正元年(1912年)
構造形式 鋼製2連桁橋、橋長16m、橋台及び橋脚付。
特記 不動沢に架かる橋長16mの鋼製2連桁橋。
桁は「達第1084号型」のデッキガーダーと、
DORMANLONG社製鋼材による「達第875号型」のⅠビームよりなる。
橋台と橋脚一部に、フランス積風の布積を残す。

(文化庁公式ページの国指定文化財等データベースを参照・編集。)

上り列車と列車交換の為、6分間停車するとのアナウンスがある。この駅から、30人近い中学生達が乗車し、車内は急に賑やかになり、朝のローカル線のラッシュアワーとなる。

実は、この駅には、大きな温泉施設がある。以前は、わたらせ渓谷鐵道が直接経営していたが、休館となってしまった。一時は廃業が心配されたが、民間企業に委託をし、営業を再開している。
水沼駅温泉センター公式HP

なお、駅の真下に源泉があるのではなく、町内の猿川温泉から引湯している。内湯の他、露天風呂、サウナ、食事処や個室休憩室(有料)もあり、桐生方面から乗車し、温泉を利用する年配客も多い。日帰り入浴のみ、入浴料金は大人600円になっており、わ鐵のフリーきっぷを提示すると、2割引きになる。旅や鉄道撮影の帰りに、ひと風呂も良い。

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【停車駅】〓→主な鉄橋 ◎→列車交換可能駅
水沼◎0725===〓===0731花輪
下り711D列車・間藤行き(わ89-315「わたらせIII号」単行)
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暫く、車内で待っていると、上り712D桐生行きの2両編成であるわ89形302「わたらせ号」とわ89形311「たかつど号」の2両編成と列車交換をする。上り列車も学生達で大混雑しており、高校生達の様である。この下り列車は、大勢の中学生達と数人の大人を乗せ、入れ違いに発車する。


(水沼駅を発車する。左側の建物が温泉センター。※最後尾から、桐生方を撮影。)

水沼駅を発車すると、線路の東側は広い公園になっており、運動場やテニスコート等が見える。また、渡良瀬川の両岸が少し開け、明るい感じになってくる。線路のカーブも、本宿から水沼間の古路瀬渓谷よりは、大分緩やかになる。

緩やかになった上り勾配を走って行くと、小さなダムがある。正式には、ダムではなく、取水堰らしい。国土地理院の地図を確認すると、大間々駅近くの高津戸ダムに送水されている様である。

なお、渡良瀬川は昭和23年(1947年)9月中旬に、大型台風のカスリーン台風が関東南海上を通過した際、赤城山や足尾の山々からの大土石流が渡良瀬川を流下し、下流の桐生や足利に未曾有の大災害をもたらした。これを契機に、渡良瀬川本流やその支流に多数のダムや堰が建設され、治水・土石流災害防止対策が進んでいる。


(水沼〜花輪間の取水堰。※上り桐生行き列車の最後尾から、間藤方を撮影。)

水沼駅から約3分で、小黒川橋梁を渡る。全長54mのデッキガーター鉄橋の橋台は、水の抵抗を減らす木の葉型石積みになっていると言う。


(小黒川橋梁。※列車最後尾から、桐生方を撮影。)

◆国登録有形文化財リスト◆
「わたらせ渓谷鐵道小黒川橋梁(おぐろがわきょうりょう)」

所在地 群馬県みどり市東町荻原・桐生市黒保根町水沼野尻
登録日 平成21年(2009年)11月2日
登録番号 10-0290
年代 大正元年(1912年)
構造形式 鋼製3連桁橋、橋長54m、橋台及び橋脚付。
特記 小黒川が渡良瀬川に合流する地点に架かる。
桁長、桁高の異なる70フィート、60フィート、30フィートの
デッキガーダーからなる橋長54mの鋼製3連橋梁。
中洲に建つ橋脚の間隔に対応し、各桁長に変化をつける独特の造り。

(文化庁公式ページの国指定文化財等データベースを参照・編集。)

小黒川橋梁を高速で渡ると、渡良瀬川上流方が良く見えるビュースポットを通過。わたらせ渓谷鐵道は川線であるが、山が川岸まで迫っている場所が多く、車窓から開けて見える場所は、意外に少ない。
マピオン電子地図・小黒川橋梁付近のビュースポット


(水沼〜花輪間の小黒川橋梁付近から上流方。向こうの町並みは、花輪集落。※当列車の側窓から、上流を撮影。)

そして、山側に大きく寄り、川から一度離れる。旧国道をクロスし、民家が点在する緩やかな勾配を上って行く。この付近は、民家の裏手に線路が敷かれ、自動車が通れない第四種踏切が幾つかあり、タイフォンを頻繁に鳴らしながら、通過する。


(水沼〜花輪間の第四種踏切。※上り桐生行き列車の最後尾から、間藤方を撮影。)

大きく視界が開け、線路際に民家が多くなってくると、水沼駅から所要時間6分で、花輪駅に到着。足尾鐡道開通時の大正元年(1912年)12月開業、起点の桐生駅から21.0km地点、8駅目、みどり市東町花輪(あずまちょうはなわ)、標高292mにある。以前は、列車交換設備が設置された主要駅であったが、国鉄時代の合理化で撤去されてしまい、単式ホームと新しく建て直された駅舎がある無人駅になっている。


(花輪駅。※上り桐生行き列車の最後尾から、間藤方を撮影。)

この花輪は、足尾銅山から銅を運ぶ「銅街道(あかがねかいどう)」の旧宿場町であった。みどり市役所の支所や農協もあり、町も比較的大きい。帰路に途中下車してみよう。

(つづく)


運転士の運転の妨げになる為、最後尾から後方風景を撮影。
進行方向の間藤方の写真は、上り桐生行き列車の最後尾から撮影。

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