5分程、新金谷駅に停車する。到着した蒸気機関車を撮影した後、ホームの北端から最後尾の1号車に急いで向かう。
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【駅】※急行の為、家山駅まで全て通過。
新金谷1158==代官町==日切==五和==
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定刻の11時58分になると、汽笛を鳴らして発車になる。前の車両から、ドーンと次々に連結器に牽引が伝わり、乗客から歓声が上がる。電車には無い、ゆっくりとした発車は懐かしい。なお、新金谷駅から千頭駅までの距離は、39.5kmあり、約1時間の旅になる。また、標高差も300m程あり、線路はずっと上り調子である。今日は、どの客車も満席になっており、花見の団体ツアー客が多い。
(2号車の車内風景。家族連れ客よりも、年配客が意外に多い。)
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先に、大井川鐵道の歴史に触れておきたい。大正7年(1918年)に、静岡で設立された駿府鉄道(すんぷ-)が、その始まりになっている。最初は、名古屋にある紡績会社と地元住民により、静岡から千頭までのルートが計画された。大正12年(1923年)の関東大震災後、復興用の木材の需要が高まり、大井川上流の奥大井から木材を輸送する機運が高まった。起点駅を国鉄島田駅とし、大井川東岸を北上するルートに変更されたが、資金が足りず、着工が出来なかった。
その状況を打開すべく、金谷に住む有力者達が新たに参加し、大正14年(1925年)3月に大井川鐵道が設立された。これにより、現在の金谷駅から大井川の西岸を北上する路線に計画変更された。翌年に着工し、昭和2年(1927年)に金谷駅から横岡駅間の6.5kmが初開通。蒸気機関車2両、客車4両と貨車4両が導入され、客貨混合列車の運行を始めている。
その後、大井川流域の電源開発を進めたい電力会社も協力した。資本金も増資され、昭和4年(1929年)以降、大井川を北上しながら徐々に延伸開通し、昭和6年(1931年)12月に終点の千頭駅まで開通している。また、昭和5年(1930年)からは、ガソリンカーや気動車の併用運行を始めた。終戦直後は、石炭の入手が困難であった為、昭和24年(1949年)に電化され、蒸気機関車の運行を廃止。昭和51年(1976年)の復活まで、一旦、姿を消す事になる。
◆路線データ◆
金谷駅から千頭駅間、路線キロ39.5km、駅数19駅、所要時間約1時間10分、
軌間1,067mm、全線単線、直流1,500V電化、普通列車はワンマン運転、
SL列車は急行運転(車掌も複数乗務)。
◆略史◆
昭和2年(1927年)6月 金谷駅から横岡駅(現在は廃止)まで初開業。
昭和4年(1929年)12月 家山駅まで開業。
昭和5年(1930年)7月 塩郷駅まで開業、内燃機関車両の併用開始。
昭和6年(1931年)12月
終点の千頭駅まで開業。分岐点から横岡駅間の休止(1939年廃線)。
昭和24年(1949年)11月 全線電化、電気機関車導入。
昭和26年(1951年)8月 電車の運行を開始。
昭和51年(1976年)7月 蒸気機関車の運行再開(日本初の復活蒸気機関車による運行)。
昭和58年(1983年)10月 鉄道貨物営業の廃止。
昭和59年(1984年)12月 一部列車をワンマン化。
平成15年(2003年)8月 神尾駅構内の大規模土砂崩れ災害発生し、不通となる。
平成15年(2003年)10月
五和駅から神尾駅間に横岡駅(仮設)が復活、代行バスの連絡駅となる。
平成16年(2004年)3月 全線の運行再開、横岡駅(仮設)の廃止。
なお、初開業時の終点であった横岡駅は、現在廃止されている。五和駅の北900m地点(現・五和変電所付近)の本線から分岐し、大井川の船着場に伸びていた先に駅が設けられていた。家山駅まで延伸した後は、本線からスイッチバックをし、支線の横岡駅まで運行した。その後、昭和6年(1931年)に休止線となり、その8年後に駅も支線も廃止されたが、平成15年(2003年)10月の土砂災害復旧工事の際、代行バス連絡用の横岡駅が一時復活。但し、旧駅の場所ではなく、五和駅から400m先の東名高速道路高架橋下の本線に設置されている。仮設期間中の五和駅から横岡駅(仮設)間は、昔ながらのスタフ閉塞方式で運行され、平成16年(2004年)3月の全線復旧後、用途廃止(廃駅)になっている。
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新金谷を出発すると、道路沿いの金谷の町の中を暫く走る。途中のコンビニエンスストア駐車場では、このSL列車に鉢合わせした大勢の観光客が、驚いた様子で手を振っている。乗客もお返しの手振りを盛んにしている光景も、微笑ましい。
途中の家山駅からの車窓が良いらしい。大井川鐵道名物駅弁「汽車べんとう」を先に食べておこう。本物の旧型客車に乗って食べるのも、格別である。
(名物の汽車べんとう。税込み1,350円。)
中身は幕の内風、ご当地の桜えび揚げやワサビ漬けが添えられ、御飯は菜めしになってる。ややあっさり風味になっており、大変美味しい。なお、醤油差しも、SLの形をしている拘りである。量も1.5人前位あり、オリジナルお茶缶も付いている(※)。
(汽車べんとうの盛り合わせ。量もかなりある。)
美味しく頂いた後は、のんびりと車窓を眺める。電車や気動車と違い、音を発する補機類を車両下に搭載していない為、停車時は静まりかえる。また、乗車している1号車スハフ42-304のボックス席の草臥れた感じは、長年現役で使われた生きた証拠であり、旅情をとても感じさせる。なお、走行距離が少なく、バッテリー保護の為に車内灯を半分減灯しており、少し薄暗い。
(ボックス席。)
窓下を見ると、栓抜きとJNRマーク付き灰皿も残っている。今の若い鉄道ファンは、知らないかもしれない。なお、全区間禁煙になっており、灰皿を使う事は出来ない。専務車掌氏からも、「灰皿がありますが、禁煙です」と放送案内がある。JR東日本所有の旧型客車では、取り外されており、原型が残るのは大井川鐵道のみと思われる。
(窓テーブル下の栓抜きと灰皿。)
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【駅】※急行の為、家山駅まで通過。】【→トンネル 〓→橋
=五和=】【=神尾=】【=福用=】【=大和田=〓(支流)=1224家山
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恒例の専務車掌氏の沿線解説や鉄道唱歌の披露、ハモニカ演奏が始まり、車内は大変賑やかである。今日は、とてもノリが良く、隣の車両の年配の団体客が、ハモニカに合わせて歌ったりしている。
そして、五和駅(ごか-)を過ぎると、金谷の町並みを離れる。鬱蒼とした高台の木立の中に入り、大井川を右窓に見ながら、狭い川辺りの線路を走る。15‰(パーミル)の長い上り勾配が始まり、時速40km位のゆっくりとした速度であるが、激しく横に揺れる。「カッタン、カッタン」と鳴るジョイント音と鉄の車輪がレールの上をゴロゴロと転がる感じが、シート下からはっきりと判る。
本線で一番の秘境駅である神尾駅(かみお-)を通過。少し長い地蔵坂トンネルを抜け、福用駅を通過すると、撮影地で有名な「福用のS字カーブ」に差し掛かる。しかし、カメラを構えたが、撮影に失敗してしまう。「乗ると撮れず、撮ると乗れず」で難しい。ゆっくりとくねりながら、長編成の列車が通過する様は、見所になっている。
再び、山間に入って行き、16.7‰(パーミル)の上り勾配を登って行く。罐をどんどん炊き、時折、煙の塊が最後尾まで流れてくる。
(福用駅先の勾配区間。小川もある細長い小谷になっている。)
この坂のサミットにあるトンネルを抜けると、再び、右窓に大井川が見える区間になり、大和田駅を通過。次の停車駅の家山駅を目指す。線路際にも、茶畑が増えてきた。狭い場所に茶畑が広がるのも、大井川鐵道の車窓名物である。
(福用駅から大和田駅間。)
左右の視界が急に開け、大井川支流の家山川の鉄橋を渡ると、途中主要駅の家山駅に到着。バスで来ている団体ツアー客は、この駅で下車になる。
(桜並木が並ぶ家山駅に到着する。)
この家山駅は、昭和4年(1929年)延伸時に開業、起点の金谷駅から17.1km地点、8駅目(SL急行は2駅目)、所要時間約30分、島田市川根町家山、標高141m、1日乗車客数約300人の社員配置有人駅である。なお、新金谷からは、72m登って来ている。南北に配した島式ホームと側線2本、雰囲気の良い木造平屋駅舎が残っており、映画等のロケや旅行番組でも、よく紹介される駅である。
大井川支流の家山川が合流する湿地に発達した旧・川根町の家山は、市役所の支所や銀行等も置かれ、この付近の中心地になっている。また、駅構内や駅の南側には、桜の大並木があり、大井川鐵道沿線一の桜名所である。
(家山駅を発車。)
駅舎側の側線を見ると、オハニ36-7が留置されている。動態保存の客貨合造客車は、今では大変珍しい。鉄道手小荷物輸送(チッキ)が盛んであった頃、輸送密度の低いローカル線向けに作られ、半分が客室、残り半分が荷物室の合造車である。
この車両は、国鉄時代末期に山陰本線で活躍し、福知山区で昭和62年(1987年)に廃車され、日本ナショナルトラストに譲渡された。その後、大井川鐵道に保存委託され、イベント列車で活躍している。また、JR東日本の高崎車両センターにも、同形式のオハニ36-11が在籍している。
(オハニ36-7。右の格子窓が荷物室。新金谷駅で昨年撮影。)
家山駅を過ぎたら、下車をした団体客が乗車していた車両に移動しても、大丈夫である。ここからは、進行方向左側の景色が良くなり、団体客向けの車内放送も無く、静かに汽車旅を楽しめる。暫くすると、汽笛が大きく鳴り響き、12時29分に出発する。
(つづく)
2017年7月30日 ブログから保存・文章修正・校正
2017年8月2日 文章修正・音声自動読み上げ校正
非常に混んでいた為に撮影が難しく、昨春の訪問の写真を一部利用。
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