暫くすると、短い汽笛の後に、蒸気機関車をゆっくりと前に少し出し、洗車機の奥にあるピットに転線させ、下廻りの打音点検を行う。若い構内係がポイントまで小走りすると、ダルマ転轍機を操作し、合図をする。
(整備を終えて前に出るC54-44号機。)
真横に来ると、第一動輪の上部が向こう側に抜けているのが、よく判る。後進させてピットに入ると、鉄を叩くハンマーの音が、「カン、カン」と響き渡る。また、テンダー(炭水車)の両側にシェイプした部分があるが、バック運転時の後方視界を確保する為であり、このC56形蒸気機関車の特徴のひとつになっている。
(第一動輪の上が中空になっており、第二動輪との間隔も広い。)
(後方視界を得るため、炭水車は左右がシェイプしている。)
今日の「かわね路号」は、金谷方に補助電気機関車も連結されている。既に、パンタグラフを上げ、低く唸りながら起動している。蒸気機関車と客車を連結する為、本線南側のポイントを使い、客車を側線から二番線金谷方面ホームに転線させる。
今日の後補機は、E10形(101)である。昭和24年(1949年)製・三菱製造、B-B軸配置の自社発注をした国産直流電気機関車であり、電化当時は客車列車を牽引し、電車導入後は貨物や補機等で活躍している。なお、大井川鐵道の定期貨物列車は、昭和58年(1983年)に廃止され、現在は、大井川上流のダムの資材輸送等、電力会社の依頼で臨時運行されている。
蒸気機関車の人気の影に隠れているが、国鉄EF15を小型にした様な古い車両は、旧型電気機関車が好きな鉄道ファンには堪らない。現役である事も、凄いと言える。たまに、電気機関車牽引の旧型客車列車を再現したイベント列車を運行している。
(E10形101号機。終戦直後の電気機関車である。同形式は2両在籍している。)
今日、席が指定された金谷方の1号車は、千頭行きの編成最後尾になり、スハフ42-304(国鉄 -2304・戦後型・折妻屋根)である。昭和29年(1954年)製、国鉄時代は、青15号の塗色であったが、ぶどう色2号(茶色)に変更されている。あの枕ばね二枚の名鋳造台車TR47を履き、旧型客車らしい重厚な乗り味が楽しみである。
(スハフ42-304。)
そろそろ、発車時間も迫って来ている。駅に戻る事にしよう。駅の北側の踏切から千頭方を見ると、16.7‰(パーミル)上り勾配になっている。
(踏切から千頭方。)
団体ツアーのバスも頻繁に出入りし、先程よりも、賑やかになってきている。改札口から見える旧型客車が、国鉄の駅を思い出させ、良い感じである。
(改札口から旧型客車が見える。)
発車時刻の30分前になると、蒸気機関車と客車の連結作業(機回し)があり、駅舎横の小広場で待っていると、真横の側線を蒸気機関車が低速で走って来る。意外に見学する人が少なく、穴場になっている。
(駅舎横の小公園。記念撮影のブリキ製駅名標もある。)
この小広場から、ホームがよく見える。ホーム屋根に水色の小さな切羽板が付いているのが、洒落ている。今も放送設備が無く、駅員氏が大きな声で案内をする。
(新金谷駅の島式ホーム。南側は、木造デッキが増築されている。)
暫くすると、短い汽笛を鳴らした後、先程の整備場からゆっくりと走って来る。フェンスから、2m位の至近距離を走り、迫力に圧倒される。
(側線を通るC54-44号機。)
西側の側線から本線北側のポイントを使って転線し、二番線ホームに後進すると、連結作業が始まる。連結完了後、起点駅の金谷駅に回送され、金谷駅からの乗客を乗せる(※)。新金谷駅から金谷駅への回送時は、電気機関車が先頭、蒸気機関車が後の「ドナドナ状態」である。なお、連結作業中は安全の為、ホームへの立入りは出来ない。
(客車との連結作業。汽笛を鳴らし、機関士と連結係の連携が見られる。)
そろそろ、プラザロコの売店に預かって貰っている駅弁を取りに行こう。既に、団体ツアーの乗客も、ホームに大勢上がっている。先に、上り金谷行き電車が、SL列車を金谷駅に送り出した後の2番線に到着する。
(先に、上り金谷行き16000系が到着する。)
到着までの静かな時間が流れている。遠くから汽笛の音がし、金谷の町に響き渡り、一気に昔に逆戻りする。
金谷方に黒煙が上がるのが見え、遠くからドラフト音が徐々に聞こえてくる。ホームの歓声と共に、列車がホームに滑り込んで来た。大井川本線下り101レ・SL急行「かわね路号」の到着になる。
(到着したSL急行かわね路号。)
今日の編成は、旧型客車6両と団体用お座敷客車1両の7両編成となり、SL急行列車の最大編成数になる。早速、乗車しよう。
(つづく)
2017年7月30日 ブログから保存・文章修正・校正
2017年8月2日 文章修正・音声自動読み上げ校正
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