樽見線紀行(4)神海へ

警報機が鳴っている県道踏切を越え、大垣方面からの下り樽見行き13列車が、2番線に到着する。先程、東大垣駅で列車交換をしたピンク色のレールバス「モレラ号」が折り返して来た。


(ハイモ230-314モレラ号。広告ラッピング車両である。)

駅側の1番線には、この駅まで乗車してきた青いハイモ295-516が、転線している。列車番号は変わらないが、この駅で青いハイモに車両を交換し、終点の樽見に向かうと案内される。早速、青のハイモに乗車して、発車を待つ事にする。

ピンク色のハイモ230-314は、ひとまわり小さい富士重工業製のレールバスで、屋根が低く、側面もバス窓になっているのが特徴である。青いハイモ295-516は、普通の鉄道用車体であり、屋根の高さや窓枠の違い等がよく判る。


(レールバスと鉄道用車体の大きさの違いが良く判る。)

(特例で、上り1番線から、下りの樽見方に発車する。)

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【停車駅】斜字;列車交換可能駅、〓数字;第◯根尾川橋梁、】【;トンネル
樽見941 ==織部=】【=】【=木知原=〓1=谷汲口=〓2=955神海
下り13列車・普通樽見行き(ハイモ295-516・単行)
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運転士の指差し確認と共に定刻の9時41分、手旗を手にした駅長氏に見送られながら、発車となる。列車は、本巣駅の広い構内を見ながら、山が重なる方に力強く加速して行く。乗客は、ハイモ230-314からの乗り継ぎ客3人と、本巣から乗車の自分を入れた計4名のみである。


(本巣駅を発車する。後方の大垣方を撮影。)

長閑な田園地帯を真っ直ぐに走り、2分程で、山の麓にある織部駅に停車。単式ホームと待合所のみの棒線駅であるが、国内で初めて、道の駅に併設された新駅になっている。かなり大きく立派な道の駅は、織部駅開業の1年前の平成13年(2001年)に開業した。夕方16時頃まで営業しているレストランや喫茶店があるそうなので、飲食や休息場所が殆ど無い樽見線訪問の際は、便利そうである。また、織部氏や織部焼の展示館、茶室、蕎麦打ち体験館もあり、楽しめる様になっている。
道の駅織部の里もとす公式HP


(国土地理院国土電子Web・織部から木知原間。)

この織部付近までが、濃尾平野の北限となっており、ここから根尾川に沿った山間部に入る。根尾川は、岐阜県と福島県の県境付近の能郷白山を源流とする揖斐川支流の一級河川で、根尾谷と呼ばれる南北に細長い谷間が続き、川も激しく蛇行する。樽見線は、長良川鉄道と同様に、この根尾川に点在する町や集落を結ぶ様に走るが、長良川ほど川谷が開けていないので、哀愁のある小さな山間風景になっている。

織部駅を発車すると、半径1,000mの左大カーブの急勾配が始まり、エンジンも篭った様に唸り始める。時速40km制限となる18‰(パーミル)の長い登り勾配を走り、その先の短いひとつ目のトンネルを抜けると、長い下り勾配になる。18.7㎞ポスト付近に差し掛かると、左窓崖下に根尾川の流れが見えてくる。観光シーズンや列車によっては、運転士が観光案内もしてくれる。


(織部駅先の大カーブを登る。樽見線で、最初のピーク越えになる。復路後方の樽見方を撮影。)

ひとつ目のトンネル手前の上部には、何かが横切っている。左手の住友大阪セメント岐阜工場に、右手の山から採れた石灰石を運ぶコンベアである。その山の頂には、織部氏の美濃山口城があった。


(登り勾配頂上部のひとつ目のトンネルと石灰石コンベア。)

そして、坂下のふたつ目のトンネルを抜けると、もっと、間近に根尾川が見える。大きく優雅に蛇行する根尾川と周辺に沢山の桜があり、普段は静かな里山であるが、桜の開花時期には、花見や鉄道撮影の人達が多く集まる。


(木知原駅手前の根尾川。)

川を見ながら、大きく左カーブをすると、難読駅名駅である木知原「こちぼら」駅に停車。堤防上にある駅の横には、国道157号線本巣縦貫道路と数軒の民家が並んでいる。


(木知原駅。トタン壁の待合室のみの単式ホーム駅である。)

木知原駅を発車する。線路と国道の間に桜並木が、ずっと続いている。この付近は、支流の管瀬川(くだせがわ)が合流する地点の為、川幅が広くなっており、大きな田圃が広がっている。そして、道路橋の谷汲山大橋(たにぐみさん-)を左手に過ぎ、右カーブの後の長い盛土部を登ると、第一根尾川橋梁で根尾川西岸に渡る。

この鉄橋は、ガーター橋五連と中央部のトラス橋二連の大きな鉄橋になっており、トラス部は、東海道本線の木曽川橋梁を開通時に移設したものである。なお、明治43年(1910年)製造のアメリカンブリッジ社の輸入鉄橋になる。列車が渡ると、レールを走る転動音と床下のディーゼルエンジンの音がよく反響し、ガラガラと豪快な音を立てながら通過するのも、コンクリート橋が多くなった今日では、昔ながらの鉄道の音風景になりつつあるかもしれない。


(第一根尾川橋梁。復路後部から樽見方を撮影。)


(国土地理院国土電子Web・木知原から谷汲口間。)

第一根尾川橋梁を渡ると、直ぐに、谷汲口駅(たにぐみぐち-)に停車。国鉄樽見線は初開通が遅く、昭和31年(1956年)3月に、大垣駅からこの駅まで開通した。この駅も、沢山の桜に囲まれた桜名所の駅になっていて、シーズン中は大変人気がある。また、沿線一の古刹である谷汲山華厳寺(たにぐみさんけごんじ)の玄関駅になっており、帰りに、華厳寺も下車観光をしよう。なお、2人が下車してしまい、乗客は自分を入れて、2人になってしまう。


(谷汲口駅。大きくカーブしている長いホームがある。)

この谷汲口駅を発車すると、更に、植林された針葉樹林と荒れ地が広がって、山が深まってくる。長い登り勾配のピークを過ぎて、下り勾配になると、第二根尾川橋梁で根尾川を再び渡り、少し開けた川谷の平坦地を真っ直ぐに走って行く。この小ぢんまりとした感じが、日本の原風景を誘う良い感じである。


(第二根尾川橋梁から神海駅間。哀愁のある小さな田園風景が広がる。)

背の高い小さな林を抜け、踏切を渡ると、神海駅(こうみ-)に到着。一面二線の島式ホームと、木造モルタル駅舎がある列車交換可能駅で、この駅から終点の樽見駅間は、一閉塞区間となり、列車交換は出来ない。


(神海駅に進入する。)

駅開業は、国鉄時代の昭和33年(1958年)4月の谷汲口駅からの延伸開通時になり、起点の大垣駅から12駅目、23.6km地点、所要時間約45分、所在地は本巣市神海、標高84mである。本巣駅から約47m登って来ており、路線キロ相対6.4‰(パーミル)の勾配になっている。現在、神海駅は無人駅になっているが、喫茶店がテナントで入っている。

樽見鉄道に転換された約4年後の平成元年(1989年)3月までは、この駅が終着駅であった。第三セクター転換後に、終点樽見駅までの10.9kmを延伸開業したのも、珍しいと言えよう。


(国土地理院国土電子Web・谷汲口から神海間。)

(つづく)


2017年7月28日 ブログから保存・文章修正・校正
2017年7月28日 音声自動読み上げ校正

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