久留里線紀行(15)平山駅

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上総亀山1715======1727平山
上り久留里行(キハE130形二両編成・←107+110)
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16時54分に列車が到着する。折り返しの17時15分発の上り久留里行きに乗車して、夕刻迫る平山駅に立ち寄ってみよう。再び、急勾配と急カーブを幾つもクリアし、30パーミルの最急勾配を登り切ると、12分程で平山駅に到着する。休日お出かけパスを運転士に見せ、先頭車両前ドアから盛り土のホームに降りると、濃厚な土の匂いがし、近くの森の山鳩と鶯の合唱が聞こえてくる。とても長閑な所である。


(陽の傾いて来た上総亀山駅を発車する。)

(平山駅にただひとり下車する。高さ760mmの客車ホームのままなので、気動車のステップとの段差が約200mmある。)

この平山地区は、蛇行した小櫃川両岸の開けた場所にあり、2km四方ある起伏が穏やかな場所になっている。駅から北北西には、標高192mの愛宕山(あたごやま)、南西に標高285mの郷土富士「上総富士(かずさふじ)」が聳え、自然の豊かな南房総の里山田園風景が広がっている。なお、地名学的には、平山は山の緩やかな傾斜地を開拓した事を示し、「平」は平面ではなく、傾斜地を指す。


(平山駅ホーム前には大水田が広がる。長閑でいい風景である。)

駅の開業は、延伸開通時の昭和11年(1936年)3月25日開業、起点の木更津駅から25.7km地点、11駅目、所要時間約55分、君津市平山、標高49m、1日乗車客数約50人の終日無人駅である。なお、昭和22年(1947年)4月1日に久留里から上総亀山間の列車運転と駅業務を再開したが、この平山駅だけは、運転再開から3ヶ月後の7月1日からの再開になっており、遅れた原因は不明である。

単式一面一線の棒線駅で、4両編成分のホーム長がある。ホームの幅は広く、駅舎はやや奥まった感じで、駅名標と木造の開放式待合所も建っている。なお、開放式待合所と駅名標からホーム端までの両端部は、延長した跡が擁壁にあり、中央部の2両分が開業時のホームである。


(ホームは西に面している。擁壁に開業当時のホームのスロープ跡が見える。※ホーム向かいの農道から撮影。)

(上総亀山方からのホーム上。)

ホーム端から久留里・木更津方を望むと、警報機・遮断機の無い農道踏切の平山踏切(63番目、25k646m地点)を通過し、10パーミルの下り勾配となって、雑木林の中を走って行く。反対側の終点・上総亀山方は、ホームの直ぐ先に上り勾配のピーク地点があり、そこから滑り台の様な30パーミルの久留里線最急の下り勾配がある。農道をアンダーパスする先までの約300mを下ると、小櫃川本流に架かる二本の鉄橋を連続して渡る。


(久留里・木更津方のすり鉢状線路。勾配谷手前で左に少し曲がっており、左右は雑木林になっている。)

(上総亀山方と30パーミルの最急勾配。右手の高い山が、上総富士である。地元では、単に「富士山」とも呼ばれている。)

また、上総亀山方寄りホーム上には、木造の開放式待合所が残っている。国鉄時代の建物財産標が右の柱にあり、「建物財産標 鉄 待合所1号 昭和34年1月」と刻印されているので、戦後の多客期に増設されたものらしい。今は、梁に蜘蛛の巣も張っていて、あまり使われていない様子である。内壁の三色ストライプは、以前、国鉄型気動車に塗装されていた独自の久留里線色(二代目)になる。


(国鉄時代の木造開放式待合所。)

老朽化により、建て直された駅舎は、小櫃(おびつ)駅と良く似た東屋風のデザインである。改札口等は無く、小さな乗車証明書発行機とベンチがあるだけの簡易な造りで、隣の公衆トイレの方が豪華に感じる。また、国道からやや低い場所にあり、下り坂の取り付け道路が短く伸びる。高い御影石の駅名石碑も建立されており、駅に関する解説文もあるが、位置が高すぎて読めない。国道沿いには、ご当地B級グルメの焼きそば専門店・志保沢(しほざわ)商店がある。


(国道からの駅と名物の焼きそば専門屋・志保沢商店。)

(駅舎出入口横には、国鉄時代からのものと思われる紺色の駅名標が掲げられていた。)

農道を歩いて、ホーム前に広がる水田に行ってみよう。夕暮れも近ずいているので、水田横の農道からの下り上総亀山行き列車を記念撮影したい。場所を決め、タイミングの気合を入れてシャターを押す。この旅の締めの記念写真となった。


(夕刻の平山駅に下り上総亀山行き列車が到着する。)

駅に戻り、ぼうっと里山風景を眺める。次第に黄昏れていく風情も良い。その後、スッと急に暗くなり、山鳥達の合唱もピタリと止まって、驚く程に静かになった。


(黄昏れてきた駅舎内から。真西に面しており、久留里線の駅の中でも、黄昏感は最高だろう。)

18時20分、水田の向こうの社の森に陽が沈む。そろそろ帰ることにしよう。先程撮影した列車の折り返しの18時26分発の上り久留里行きに乗車。次の久留里駅で、木更津行き列車に接続となる。日没のブルートーンになって来て、景色を包み始めた。


(社の森に陽が沈む。)

(ブルートーンになった久留里駅1番線に到着する。)

列車は上総亀山への折り返し運転の為、下り本線の久留里駅1番線に到着。向かいの2番線に入線している木更津行き上り列車に乗り換える。木更津行きの列車が発車すると、すっかり暗くなった。このまま、夜汽車に揺られながら、起点の木更津駅を目指そう。

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平山1826  上り久留里行き(キハE130形二両編成・←110+107)
1832
久留里1845 上り木更津行き(キハE130形三両編成・←109+103+104)
1930
木更津
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後日、平山駅前の焼きそば専門店「志保沢(しほざわ)商店」に訪問したので、紹介したい。しかし、店の営業時間と行き帰りの列車時刻が全く合わず、久留里駅から片道40分も歩く羽目になった。上総富士を目指しながら、国道の大きなアップダウンを数回越えて行く。天気は曇りであるが、気温は高いので、体が暑い。なお、徒歩では40分もかかるが、鉄道なら6分である。開通当時のインパクトが実感できた。


(国道の大きなアップダウンを歩く。向こうの峰の一番高い山が上総富士。)

やっと、平山駅前に到着。黒暖簾を潜ると、広い店内に先客がふたりいる。「いらっしゃい。どこでも座って良いですよ」と、元気な年配のお母さんが迎えてくれる。早速、名物の魚肉ソーセージ入り焼きそばを注文。量はお好みで選べるが、初来店の場合は、男性向けの標準量(650円/重さは不明)を勧められたので、それにしよう。


(平山駅前の志保沢商店に到着する。)

(店内の手書きのメニュー表。ノーマル(キャベツと天かすのみ)・魚肉ソーセージ入り・肉入りを選び、金額別の量を決める。なお、ソーセージと肉のダブルは止めたとの事。)

奥の大きな鉄板でジュージューと焼いている。数分で出て来た。一見すると、少し変わった感じの焼きそばである。ストレートの中太角麺を、酸味のあるウスターソースで仕上げてある。焦げた感じは無く、油分も少ない、薄口仕上げのあっさりとした味付になっている。なお、ソースが麺の表面を滑り、底に溜まるので、食べる前に麺をしっかりひっくり返すと良いらしい。

麺が柔らかく、含水量も多いので、焼きラーメン風にも感じる人もいるかもしれない。ソース味のパンチ感が弱いので、人により好みが分かれるだろうが、キャベツの甘味とソースの酸味のバランスが良いのが特長である。なお、薄味に感じる場合は、テーブルに置いてあるソースで、好みの濃さに調節出来る。


(魚肉ソーセージ入り焼きそば。男性向け標準量の税込み650円。ソーセージも魚肉であるのがポイント。青海苔や七味唐辛子はお好みで。)

閑散なローカル線の駅前にある店だが、来店客やテイクアウト予約の電話も多い。ここを車で通る常連やツーリングライダーにも、人気があるとの事。勿論、帰りも列車が無く、久留里駅まで歩きである。食べたカロリー分は、消費してくれると期待しよう。

【焼きそば・志保沢(しほざわ)商店】
定休日は月と火、10時から13時半まで(昼のみ営業・売り切れ次第終了)、持ち帰り可。
駐車場は無いが、駅前広場に駐車可。君津市平山759(JR久留里線平山駅前)。
※久留里線での訪問は、列車発着時刻と店の営業時間が合わないので、訪問時は注意。

(つづく)


(※お立ち台)
鉄道撮影の名所の通称。「お立ち台通信」という鉄道撮影専門誌もある。

【参考資料】
現地観光案内板・解説板
第42回上総地区文化祭特別展「JR久留里線開業100周年 1912-2012の軌跡(改訂版)」
(君津市上総公民館・2012年)
平成16年度企画展「地方鉄道久留里線の軌跡」(君津市立久留里城址資料館・2004年)
房総ローカル線歴史紀行(伊藤大仁・崙書房・1990年)

2018年5月6日 ブログから転載。

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