そろそろ、遊覧船の出航時間15時30分になる。駅前の船着き場から100m先の乗船場所に向かい、購入したチケットを見せ、乗船しよう。デッキとマストの見張り台に人が立っているのが見え、一瞬驚くが、人形である。
スペイン語で希望の意味である「エスペランサ号」と名付けられたこの船は、14-16世紀のスペイン大航海時代のカラック帆船をモチーフにしたという。この派手な遊覧船は、関東の某大観光地の海賊船といい勝負であろう。屋上と二階船尾に展望デッキがある二層建ての観光遊覧船で、操舵室後ろの銘板を見ると、「神原造船株式会社製造、平成7年(1995年)9月進水、総トン数166t、250人乗り」との事。なお、神原造船は、タグボートや小型船舶等を主に造船している、広島県尾道市の小さな造船会社である。
(観光遊覧船エスペランサ号。)
(乗船デッキ。)
(近代的な操舵室。)
乗客は10人程度である。天気も良いので、階段を上がり、屋上の展望デッキに行こう。なお、二階の船首側には、特別室(有料・大人300円)も設けられ、豪華な造りになっている。
(展望デッキ。)
この英虞湾(あごわん)は、湾内に50の島々が浮かぶ大きな海湾で、国内でも屈指のリアス式海岸になっている。かつては、真珠湾と呼ばれ、賢島と湾中央に浮かぶ間崎島が、主な有人島である。8世紀の奈良時代から、真珠が特産品になっており、京の都の宮中に献上されていた。当時は、税としても納められ、たまに採れる天然真珠は、「ケシ」と呼ばれていた。また、昔は、真珠を作る阿古屋貝(あこやがい)を海女が採取し、食する習慣があり、形の良い「ケシ」が中から見つかれば、良い臨時収入になったという。
近代になると、明治26年(1893年)に、御木本幸吉(ミキモト創業者)が国内初の近代化養殖に成功。日本を代表する真珠生産地になっている。また、青のり(あおさ/和名ヒトエグサ)の養殖や岩牡蠣も特産品になっており、ウミホタルも生息しているという。
約50分間、英虞湾内をクルージングするとの事。展望デッキからの景色をたっぷり楽しもう。天気も良く、波も湖の様に穏やかで、爽やかな潮風が吹いている。船上から海岸線を眺めると、かなり複雑な上、島の標高が20-30m程度と低いので、箱庭の様にも見える。また、島の海岸に小屋がいくつも見えるが、人家ではなく、養殖の作業小屋という。ちなみに、賢島沖合の横山島に一軒だけ、民宿もある(公共の渡船は無いので、自家用船で送迎)。
(賢島港を出港する。)
(名物の大岩。)
(リアス式海岸。)
航路の左右には、至るところに真珠の養殖場がある。筏や丸い浮きがあり、海流の速い場所には、丸い浮きを使うらしい。なお、今は筏から阿古屋貝を吊るすので、海女が潜る必要は無くなっているという。真珠が出来るまでの期間は、稚貝から約4年間かかり、半数以上が死滅や不良真珠になる。採取できる真珠の内、花珠(はなだま)と呼ばれる最高級真珠が約5%、良質真珠が約20%しか採れず、大変な手間と労力が掛かるとの事。
ミキモト真珠博物館公式HP・真珠ができるしくみ
(リアス式海岸と真珠養殖の筏。)
(真珠養殖場。波の穏やかな島の間に設置されている。)
英虞湾は上空から眺めると、アルファベットの逆Cの字になっており、西側が太平洋に面している。湾口は西陽が海面に反射して、キラキラと輝き、この辺りがコースの最南端になる。この英虞湾の情景は、特に夕日が素晴らしいという。
(太平洋に面した英虞湾口。)
湾の中央にある間崎島の西側で、Uターンをする。帰りの途中、門崎島へ向かう連絡小型船とすれ違う。かなり速い高速船である。賢島から所要時間約15分、日中ほぼ毎時の運行で、1日9往復の船便がある。
(Uターンし、賢島港に向かう。)
(賢島と間崎島間の高速連絡船。)
英虞湾の本州西岸・大崎半島には、御木本幸吉が創業したミキモトの真珠養殖場が見える。鳥羽の真珠島と違い、一般観光客の見学はできない。高台の建物も真珠養殖由縁のものとの事。真珠養殖に成功したミキモトは、大正2年(1913年)にイギリス・ロンドンに支店を早々と出店し、世界的に有名なパールブランドになっている。最高級真珠のみを使い、日本的な美を感じさせる宝飾品は、ため息が出るほど美しい。
ミキモト公式HP
(ミキモト多徳養殖場。)
最後に、賢島西岸の出口真珠に立ち寄り、真珠の核を阿古屋貝に入れる作業の実演も見学出来る。核入れは自然条件も重なり、ベテランでも難しいという。
(出口真珠。)
湾内を一周し、16時10分に船着場に戻る。美しいリアス式海岸や潮風を堪能し、大満足である。なお、英虞湾を俯瞰したい場合は、横山展望台が良いとの事。英虞湾に対して横に200m程の山々が連なっており、大展望が見渡せる。
志摩市観光協会公式HP・横山展望台 ※展望の画像あり。
(つづく)
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2020年4月14日 ブログから転載・文章修正・校正。
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