わ鐡線紀行(41)足尾駅 その1「駅舎本屋とプラットホーム。」

古河掛水倶楽部の正門を出て、県道を左に少し歩くと、足尾駅に到着する。県道から小坂を上がった山際に、大きな駅前広場と駅前商店が一軒だけある懐かしいローカル駅の雰囲気になっている。なお、日光方面行き連絡バスは、この足尾駅や通洞駅(つうどう-)まで運行されているので、接続乗り換えも出来る。


(足尾駅前。)

駅前萬屋(よろずや)の北村商店は、野菜や食料品等の他、コロッケ等の揚げ物惣菜も扱っている。桐生や大間々(おおまま)以外のわ鐡線沿線には、コンビニエンスストアやスーパーマーケットが殆どないので、食料調達や列車待ちの空腹時にとても助かる。実は、わ鐡をよく訪れる鉄道ファンの御用達の店でもある。


(駅前萬屋の北村商店。)

今では、町中心部の外れにある感じだが、古河掛水倶楽部に鉱山会社の本社が置かれ、馬車軽便鉄道の拠点地でもあったので、開業当時、現在の通洞駅(つうどう-)以上に賑わっていたであろう。正真正銘の足尾銅山の玄関駅としての貫禄を今でも感じる。

大正元年(1912年)12月の駅開業、起点の桐生駅から42.8km地点、15駅目、所要時間約1時間30分、栃木県日光市足尾町掛水、標高638mになる。開業当時からの二棟の木造駅舎と、駅舎側単式ホームと島式ホームが対になる二面二線の配置で、貨物側線や鉄道関連木造建物が数多く残り、わたらせ渓谷鉄道の駅の中でも、開業当時の雰囲気が一番残っている。


(足尾駅。)

先ずは、正面出入口から、駅舎本屋に入ってみよう。二棟の建物が並んで隣接し、ひとつの大きな木造駅舎になっているのが珍しい。待合室や改札口があるのは、向かって右の北側にある屋根の低い建物になる。

簡素な木枠装飾がされた出入口を潜ると、待合室は結構広い。現在のわたらせ渓谷鐵道の本社駅である大間々駅と同じ位の広さがある。綺麗な状態を保っており、まめな手入れや、地元住民が定期清掃をしているのだろう。国鉄風プラスチックベンチとテーブルが中央に置かれ、出札口と鉄道手小荷物窓口跡も、そのまま残っている。また、長い木製の壁据付ベンチも、東側の間藤方窓下に残る。

なお、有人駅であるが、平日朝の通勤通学時間帯だけなので、大半の時間帯は無人になっており、春・夏・秋は8時から9時40分まで、12月1日から3月19日の間は火曜日のみの営業(同時間)で、硬券切符の発券もあるが、大変入手し難い駅になっている。


(待合室と出札口周辺。鉄道手小荷物窓口跡はカウンター越しではなく、引き戸がある。取扱量が多かったのであろう。)

駅時刻表を見ると、上下列車共に1時間に1本程度であるが、無い時間帯もある。ディーゼル機関車牽引の「トロッコわたらせ渓谷号」は、この駅が終点となっている。なお、上り桐生行き最終列車は19時49分発と早く、下り間藤行きは21時16分発が最後である。


(駅出入口横の駅時刻表。)

駅出入口の直線先に、鉄パイプ製のコの字型の改札口がある。床をコンクリートで埋めた跡があり、元の木製ラッチを交換したのであろう。


(丸パイプの改札口。)

ホームに出てみる。改札横に駅事務室があり、ホーム確認用の出窓もある標準的な国鉄ローカル線の駅舎になっている。改札前の切り欠け式構内踏切も、幅員の広い大きなタイプである。

備前楯山を背にし、渡良瀬川側の南東に面して駅舎が建ち、上り桐生行き単式ホームが隣接し、向かいの島式ホームが下り間藤方面になる。島式ホームの3番線は、早朝の足尾発間藤行き区間運転列車の夜間滞泊に使われている。なお、夜間滞泊する2本の列車は、間藤発の上り桐生行き1番列車と2番列車になる。


(駅事務室と確認用出窓。壁の駅名標も、昔ながらの紺色である。)

(大型の構内踏切と向かいの島式ホーム。)

上下線ホームは、高さ760mmの客車ホームが、嵩上げしない完全な形で残っている。ローカル線の列車交換出来る主要駅では、近代化やバリアフリー化の為に嵩上げされる事が多く、完全に残る駅は大変少なくなっている。また、旅客を取り扱うホーム部分よりも、貨物側線のスペースが遥かに大きく、貨物取り扱いの方が重要であったのだろう。


(桐生寄りから、足尾駅ホーム全景。)

1番線ホーム端から終点の間藤方を望むと、大きく左にカーブしながら、片渡りスプリングポイントで、線路が纏まる。時速20km制限となっており、脇に転轍機小屋も残っている。


(上り1番線ホーム端から、間藤方。長い直線は貨物列車対応のためであろう。)

(間藤方のスプリングポイントと転轍機小屋。)

桐生方は、広く平地が開けており、幾つかの建物が山側に並んでいる。貨物側線からの線路は分断されており、本線と副本線のみが、単線の本線に繋がっている。なお、ホームの線路は、上りが本線、下りが副本線の一線スルー配置になっている。


(1番線から、桐生方。)

今度は、旅客上屋を見てみよう。二棟の駅舎が隣接しており、屋根の構造・高さや傾斜角が違う為、東西で構造が異なっている。屋根の広さに対して、柱が少なく、太さも華奢で、ホーム幅が広いのが特徴である。なお、駅舎からの出庇状になっている為、ホーム縁に旅客上屋が掛かっていない。また、下り島式ホーム上には、旅客上屋や待合所は設けられていない。


(駅舎側上り1番線ホームと旅客上屋。)

1番線ホーム南端の桐生方には、転轍機操作てこ扱い所跡のスペースがある。ドラムやワイヤーを通した部分は、コンクリートで埋められている。


(転轍機操作てこ扱い所跡。)

駅事務所棟の西側駅舎のホーム側外壁に、クッション付きの大変古い木造ベンチと吊り広告付灰皿スタンドが、ポツンと置かれている。吊り広告部分はもう無いが、国鉄時代に良く見かけたタイプで、大変懐かしい。水皿下のコケシの様なシェイプが、昭和時代を感じさせる。


(古い木造ベンチと、こけし型の灰皿スタンド。)

ホームの見学と撮影をしていると、上り720D列車・桐生行きの「わ89形101・こうしん号」が、終点の間藤駅から折り返して来た。列車交換は無いが、3分間停車し、運転士と同乗する保線係が、少しばかりの休憩を取っている。


(発車を待つ、わ89形101「こうしん号」。)

穏やかな春風と共に、静かで、のんびりとしたローカル線の時が流れていた。

◆国登録有形文化財リスト◆
「わたらせ渓谷鉄道足尾駅本屋とプラットホーム」

所在地 栃木県日光市足尾町掛水字上掛水2316番地
登録日 平成21年(2009年)11月2日
年代 [本屋・上り線ホーム]大正元年(1912年)、昭和13年(1938年)改修。
[下り線ホーム]大正元年(1912年)
構造形式 [駅舎本屋]木造平屋建、コンクリート製瓦葺、建築面積209m²。
[上り線ホーム]石造、延長109m。[下り線ホーム]石造、延長109m。
特記 [駅舎本屋・上り線ホーム]
駅舎本屋は桁行20m、梁間6.4m、木造平屋建、
外装下見板張及び真壁造とし、東半を待合室、西半を駅事務室にし、
本屋北側に109m長のプラットホームを設ける。
足尾鉱業所の中心地に所在し、沿線で最大級規模の駅舎。
[下り線ホーム]
本屋の北西に位置する。南面を三段の間知石布積とし、
東西の各端部4.3m部分を斜路状(スロープ状)に築いた
延長109mのプラットホーム。
表面に砂利舗装を残すなど創設時の姿を留める。駅を構成する要素のひとつの
プラットホームが当時のままに残るなど、往時の繁栄が偲ばれる

(文化庁文化遺産データベースを参照・編集。)

(つづく)


2018年5月13日 ブログから転載・校正。

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