わ鐡線紀行(35・2日目初回)車窓風景編 桐生駅から原向駅へ。

わたらせ渓谷鐡道の旅の一日目の夜は、大間々駅南の町ホテル「ピートンホテル」に宿泊。翌朝の5時に起床する。勿論、二日目の今日も始発列車から乗車である。急いで身支度をしよう。

チェックアウトは、部屋の鍵をフロントに置たままで良いとの事なので、大間々駅(おおまま−)に向かう。4月に入っているが、朝はまだまだ肌寒く、吐く息が白くなる。徒歩5分で駅に到着。駅前のローソンで、朝食や飲料を手配する。やはり、起点である桐生駅に一度行き、改めて旅を始める事にしよう。

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【乗車経路】◎→列車交換可能駅、★→登録文化財駅
大間々◎★0608===相老◎===0621桐生
上り750D列車(わ89-101「こうしん号」単行)
(折り返し乗車)
桐生0639===大間々◎★===水沼◎===0742神戸◎★
下り711D列車(わ89-101「こうしん号」単行)
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わたらせ渓谷鐡道の旅の一日目は、起点の桐生駅から神戸駅(ごうど-)までだった。今日は、神戸駅から終点の間藤駅(まとう-)までの乗車と沿線観光の予定である。大間々駅下り1番線ホームに、始業前点検を終えた列車が既に入線している。「おはようございます」と、運転士と挨拶を交わし、早速乗り込もう。今日の始発列車の気動車は、最古参の「わ89-101・こうしん号」で、朝一番から幸先が良い。


(わ89形101「こうしん号」。今では、貴重なレールバスである。)

鉄道旅行派にとっては、幻滅するオールロングシートであるが、余りある魅力の車両である。たまには、ロングシートに横座りをして、車窓を眺めるのも良いだろう。かつては、向かい合わせのクロスシートよりも、高級なシートだった時代もあり、戦前の鉄道省一等展望車もロングシートを装備していた。

十分に暖機運転された車内は暖かく、ほっと安心する。エンジンの排熱を利用した温水暖房方式なので、しっとりとした心地良い暖かさがある。これは、蒸気機関車時代のスチーム暖房の感じに通じ、忘れかけている鉄道旅情を感じる所である。


(わ89形101の車内。)

定刻の6時8分。三十代の若い運転士と年配の運転士が乗り込み、発車となる。ふたり乗務は珍しいが、どうやら、平日朝の通学ラッシュ対応の為らしい。長いロングシートの進行方向後部に陣取る。

乗客は自分ひとりだけ、朝日が車内に降り注ぐ中、起点の桐生駅に向かって走る。天気は快晴、日中の気温が平年よりも低い予報だが、良い旅日和になりそうである。東武線と接続する相老駅(あいおい-)を過ぎ、下新田駅からのJRとの共用区間を時速60kmで快走し、渡良瀬川のトラス鉄橋を渡ると、6時21分に桐生駅に到着。折り返し仕業の為、一旦、下車する様に案内される。


(国鉄色の国鉄115系電車と並ぶのも、第三セクター転換当時を思い起こさせる。)

折り返し乗車である事を告げ、昨日購入した1日フリーきっぷを見せると、大間々駅出札口が開いていない時間なので、驚いている。「始発から乗車するので、昨日、駅で発行して貰った」と言うと、了解になった。

約10分後、テールランプの切り替え等の折り返し仕業を終え、乗降扉が開く。JR両毛線の小山行き106系4両編成、高崎行き115系6両編成と接続後、6時39分に発車する。4人の乗客が乗り込み、自分を含めて、5人になった。更に、相老駅から、女子中学生ふたりが乗車し、7人になる。

再び、大間々駅に到着すると、駅員も出勤しており、少しだけ慌ただしい朝のローカル駅の雰囲気がしている。発車を急く事はなく、のんびりと10分間停車するとの事。

この駅で降りる乗客はおらず、ふたりが乗車して来て、乗客は9人となり、わ89形302の上り桐生行きの二番列車と交換後、大間々駅を定刻発車となる。列車は、渡良瀬川の険しい地形にそって、アップダウンの激しい線路を北上する。昨日は、車窓からの撮影に勤しんだが、今日は、何も考えずにボーと眺めよう。渡良瀬川の流れを眺めながら、朝食も摂っておく。

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【停車駅】◎→列車交換可能駅、★→登録文化財駅、】【→トンネル、〓→主な鉄橋
神戸◎★0742===】【=〓=】【==沢入◎★==】【==0804原向
下り711D列車(わ89-101「こうしん号」単行)
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本宿駅でふたり、水沼駅で4人が下車し、車内は3人になっている。水沼駅で列車交換となり、上り桐生行きの2両編成は、高校生達で都市部のラッシュ並みの混雑である。この下り間藤行きには、高校生は乘って来ないが、花輪駅から東中学校(あづま-)の子供達20人程が乗車し、急に賑やかになる。

桐生駅を発車してから、約1時間。途中主要駅の神戸駅(ごうど-)に到着。東中学校の子供達は全員下車し、乗客3人だけの静かな朝のローカル線に戻る。上り列車との列車交換は無く、子供達を降ろした後に発車となり、いよいよ、わたらせ渓谷鐡道の旅二日目の始まりである。


(神戸駅を発車する。※同列車の最後尾から、後方の桐生方を撮影。)

神戸駅を発車し、コンクリートの陸橋を潜ると、緩やかな登り勾配のロングストレートを走る。昨日歩いた、旧線遊歩道までの花桃並木が並ぶ道路沿いで、綺麗な花桃が後ろへと流れて行く。


(線路際の花桃並木。※同列車の最後尾から、後方の桐生方を撮影。)

緩く左カーブをすると、わたらせ渓谷鐡道最長のトンネル・草木トンネルに入る。このトンネルは、草木ダム建設の為に線路が付け替えになった為、新線と共に造られた。昭和48年(1978年)6月に供用開始し、長さは5,242m、通過所要時間約10分かかり、トンネル出入口の高低差は草木ダムの高さに匹敵する140mもある。

このトンネルは、明らかに近代的な造りであり、他の足尾鐡道開業当時のトンネルとは違い、掘削面は逆U字型で道床も広く、トンネル内に照明がある。


(草木トンネルに入る。※同列車の最後尾から、後方の桐生方を撮影。)

観光列車である「トロッコわたらせ渓谷号」や「トロッコわっしー号」では、トンネル通過時に車内照明を点けず、天井のイルミネーションを点灯するサービスもしている。

なお、旧線は神戸駅から渡良瀬川を渡り、左岸を走っていた。現在の富弘美術館対岸の草木橋付近に草木駅があったが、ダム湖による水没の為、新線と草木トンネルの供用開始時に廃駅になっている。また、5kmを超える長大トンネルの為、国鉄C12形蒸気機関車での運行が困難となり、国鉄足尾線の動力近代化(蒸気機関車廃止)のきっかけになっている。

草木トンネルを出ると、直ぐに、第一渡良瀬川橋梁(新線)を渡る。草木湖の最北部にあり、公式観光ポスターや鉄道撮影スポットにもなっている、全長196mの大型ワーレントラス橋で、トロッコ列車は一時停車もしてくれる。なお、この鉄橋の直ぐ下流には、沢入発電所(そうり-/最大発電量11,000kW)があり、車窓から草木湖が見えるのは、ここだけになる。
マピオン電子地図(みどり市東町沢入・第一渡良瀬川橋梁・1/21,000)


(草木トンネル間藤方と第一渡良瀬川橋梁。※同列車の最後尾から、後方の桐生方を撮影。)

(第一渡良瀬川橋梁からの草木湖。※同列車の最後尾から、後方の桐生方を撮影。)

鉄橋を渡り切ると、また直ぐに、短い沢入(そうり)トンネルに入る。大きな左カーブをしながら、トンネルを抜け、黒坂石川の小鉄橋を渡ると、沢入駅(そうり-)に到着する。

沢入駅は列車交換設備があり、紫陽花が沢山咲く駅としても、知られている。古い駅舎は残っていないが、開業当時のホームや待合室が残っているので、帰りに寄ってみよう。なお、神戸駅は大正元年(1912年)9月の開業になるが、沢入駅から終点の間藤駅までの各駅は、同年12月の開業になる。


(沢入駅を発車する。※同列車の最後尾から、後方の桐生方を撮影)

ここでも、乗降や列車交換は無く、沢入駅を定刻に発車する。沢入駅から原向駅(はらむかい-)までの区間は、本宿駅(もとじゅく-)から水沼駅間の古路瀬渓谷(こじせ-)と並び競う、渡良瀬川の景勝地になっている。沢入からの渡良瀬川は、河原に大岩が多くなり、典型的な渓谷風景になる。白色は花崗岩の色だそうで、まるで、岩が流れている様にゴロゴロと埋め尽くしている。


(渡良瀬川の白い岩。この沢入付近が、渓谷の出入口になっている。)

この先も、20パーミル前後の登り急勾配が続き、落石防護を兼ねた名越トンネル(なごし-)を潜ると、通称「坂東カーブ(ばんどう-)」に差し掛かる。
マピオン電子地図(わたらせ渓谷鐡道坂東カーブ・1/21,000)


(トンネル長32mの名越トンネルを望む。沢入側は落石覆いがある為、ポータルは見えない。 国登録有形文化財になっている。※上り桐生行き列車の最後尾から、間藤方を撮影。)

◆国登録有形文化財リスト◆
「わたらせ渓谷鐡道名越トンネル(なごし-)」

所在地 群馬県みどり市東町沢入
登録日 平成21年(2009年)11月2日
年代 大正元年(1912年)
構造形式 煉瓦造及び石造、延長32m。
特記 緩やかに湾曲する延長32m、単線仕様のトンネル。
側壁を石積、アーチ部を煉瓦積で築き、
坑門はアーチ部を含めて全体を石積で築く。
断面は、当時の官鉄による標準設計よりも円形に近い馬蹄形とする。

(文化庁文化遺産データベースを参照・編集。)

坂東カーブ手前に来ると、汽笛を一声鳴らし、もの凄いフランジ音を立てながら、ゆっくりと曲がって行く。左の車窓を見ると、川と共に直角に曲がる位の急カーブである。

この坂東カーブの名は、この付近の河原にある坂東太郎伝説の岩が由来になっている。本線でありながら、半径154mの急カーブと23.5パーミルの急勾配があり、坂を下る桐生行きの列車は、時速30km程度しか出せない。勿論、わたらせ渓谷鐡道内の最急カーブであり、国鉄時代でも、全国最急と言われていた。


(坂東カーブ。※同日午後、上り桐生行き列車の最後尾から、間藤方を撮影。)

また、ここは、渡良瀬川の上流方向を真っ直ぐ眺められる絶景ポイントになっている。日中の普通列車では、観光案内放送と徐行運転をしてくれる運転士もいる。


(坂東カーブ付近から、渡良瀬川上流を望む。※同列車の側窓から、撮影。)

そのまま、坂東カーブから、落石検出装置と落石警報用信号機のある切り通し部に入る。この坂東カーブを無事に通過すると、崖上の道床(※)もやや広くなり、V字谷の角度も開いて、周囲も明るくなって来る。上り急勾配は続いているが、険しい地形の割りには、カーブは大分緩やかになる。


(坂東カーブを抜け、渓谷が広くなる。※同列車の最後尾から、後方の桐生方を撮影。)

暫く、長い登り勾配を走って行くと、吉ノ沢架樋(よしのざわかけひ)の下を通過する。大間々と上神梅(かみかんばい)間にある手振山架樋(てぶりやまかけひ)と同じく、山からの雨水や土砂が線路に流れこむのを防ぐ、線路防護設備である。これも、国の有形登録文化財になっている。


(吉ノ沢架樋。※同日午後、上り桐生行き列車最後尾から、足尾方を撮影。)

線路の東側は、「沢入御影(そうりみかげ)」と呼ばれる花崗岩の絶壁になっており、風化した花崗岩を雨水と共に、渡良瀬川に流し落としている。昭和10年(1935年)竣工、長さは14m、支柱に古レールを使っている。

◆国登録有形文化財リスト◆
「わたらせ渓谷鐡道吉ノ沢架樋(よしのざわかけひ)」

所在地 群馬県みどり市東町沢入
登録日 平成21年(2009年)11月2日
年代 昭和10年(1935年)
構造形式 鉄筋コンクリート造、延長14m、支柱付。
特記 雨水や土砂が軌道敷に流入するのを防ぐ為、軌道敷を跨いで、架けられる。
古レールを用いた支柱と桁を一体化した鋼製構造物に、
延長14m、幅2.7mの鉄筋コンクリート造の樋を載せる特徴的な形状の工作物。

(文化庁文化遺産データベースを参照・編集。)

そして、群馬県と栃木県の県境を貫く、笠松トンネルに入る。足尾鐡道開業当時のトンネルであり、草木トンネルが出来るまでは、同線の最長であった。トンネルポータルは煉瓦積み、内部は切石積みで、長さ362mになる。
マピオン電子地図(わたらせ渓谷鐡道笠松トンネル・1/21,000)


(笠松トンネル間藤側ポータルを出る。※同列車の最後尾から、後方の桐生方を撮影。)

笠松トンネルの間藤方ポータル横を見ると、岩を逆コの字にくり抜いた跡がある。実は、足尾鐡道開通以前の明治25年(1892年)、銅山のある足尾から沢入まで、銅輸送を行う軽便馬車鉄道が先行開通していた。この跡は「片マンプ」と言われるもので、ここは相当の難所だった為、岩壁を逆コの字にくり抜き、片桟橋上にレールを敷いていた。幅は2m程度と大変狭い。

なお、「マンプ」は鉱山用語で、坑道の事を「間符(まぷ)」と呼んだのが、由来である。それが転じて、鉱山周辺にある普通のトンネルも、「マンプ」と言う事があり、ここは開削された片側トンネル状なので、「片マンプ」との事。足尾銅山と繋がった文化を、強く感じる所である。

◆国登録有形文化財リスト◆
「わたらせ渓谷鐡道笠松トンネル(かさまつ-)」

所在地 栃木県日光市足尾町字片向・群馬県みどり市東町沢入字峠向
登録日 平成21年(2009年)11月2日
年代 大正元年(1912年)
構造形式 煉瓦造及び石造、延長362m。
特記 緩やかに湾曲する延長362m、単線仕様のトンネル。
断面は単心円アーチを用いた馬蹄形とする。
側壁を石積、アーチ部を4枚厚の煉瓦積等で築き、
内部には6ヵ所の退避所を設ける。
間藤方ポータル横に、軽便馬車鉄道の軌道跡が見られる。

(文化庁文化遺産データベースを参照・編集。)

そして、河原の白い大岩も徐々に少なくなり、対岸の国道と人家が見えてくると、原向駅(はらむこう-)に到着する。

(つづく)


(※道床/どうしょう)線路を敷いてある路面のこと。

坂東カーブは、近隣に接続している道路がありません。よって、車窓からの見学撮影のみになります。線路上の通行は、危険な上、鉄道営業法によって罰せられる場合があります。鉄道会社の安全運行にも、差し支えますので、おやめ下さい。なお、坂東カーブの見学ツアーが、時々開催されています。

2018年1月28日 ブログから保存

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