わ鐵線紀行(33)上州桐生めぐり5「桐生伝統的建物群エリア・群馬大学桐生キャンパスから無鄰館へ」

群馬大学の同窓記念会館を見学した後は、桐生駅に戻りながら、本町通りの東側を見てみよう。春若葉の並木が沿う、桐生天満宮の東脇を歩く。


(桐生天満宮の東脇道路。)

桐生天満宮大鳥居【鳥居マーカー】の交差点まで戻り、東に伸びる路地【A地点方向】に入る。120m程歩いて行くと、旧・金谷レース工業株式会社工場・事務所【青色マーカー】がある。大正8年(1919年)に建築された桐生唯一の煉瓦造りのノコギリ屋根工場跡で、お洒落なベーカリーカフェ「レンガ」として、営業している。
ベーカリーカフェレンガ公式HP

西隣には、昭和初期建築のスクラッチタイル外壁の事務所棟も残り、共に、国の登録有形文化財に指定されている。

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(旧・金谷レース工業株式会社工場・事務所/現・ベーカリーカフェレンガ。)

このノコギリ屋根工場は、日本煉瓦製造株式会社製(埼玉県深谷市)の国産煉瓦を使ったイギリス積みと鉄板葺き屋根になっている。八連の大型工場だったそうだが、新工場を後に建てた為、現在は、その半分の四連になっている。

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(のこぎり屋根を公道の東側から望む。東隣は、寺院の墓地になっている。)

屋根上の風力回転式通風器がとても懐かしく、春風が吹く度に、ガランガランとゆっくり回る。高さは1m以上もあると思われ、これ程の大きさのものを見たのは初めてで、とても驚いた。なお、この桐生市内には、260棟のノコギリ屋根の建物が残っているが、煉瓦造りのノコギリ屋根工場は、此処のみになっている。


(巨大な風力回転式通風器。トッピングの様にも見える。※トリミング拡大処理済み。)

◆国登録有形文化財リスト◆
「旧・金谷レース工業株式会社鋸屋根工場・事務所
(現・ベーカリーカフェ・レンガ)」

所在地 群馬県桐生市東久方町1-1-15
登録日 平成10年(1998年)12月11日
年代 [工場]大正8年(1919年)竣工 [事務所]昭和初期
構造形式 [工場]木骨煉瓦造平屋建、鉄板葺、ノコギリ屋根、建築面積298m²。
[事務所]木造二階建、スクラッチタイル外壁、建築面積71m²。
特記 [工場]
大正8年12月14日上棟の織物工場。施工は高崎市の島田組。
外周壁を煉瓦造とし、木造で「鋸刃」状の屋根を架けた
標準的な工場建築の造りを示す。
京都西陣と並ぶ、高級織物産地として知られる桐生の繁栄ぶりを
今に伝えている。
[事務所]
金谷芳次郎が設立した金芳織物工場の事務所建築。
大正8年建造の煉瓦造工場に接続するが、
スクラッチタイルの使用が建築年代を明示する。
水平線の強調はライト式建築の特徴。
角部の丸みや丸窓の意匠に、時代の特色がよく表れている。

※文化庁の文化遺産データベースを参照・編集。

東にもう少し歩くと、中通りに出る付近には、ふたつのノコギリ屋根工場も残っている。子供達の元気な声が聞こえる桐生北保育園の南には、旧・住善織物工場【橙色マーカー】がある。大正の頃、カジュアル着物である小紋や、紬用の幅30cmの着物帯「八寸帯」の生産販売で、有名であったと言う。大正11年(1922年)の建築、桐生唯一のコンクリート造りノコギリ屋根工場で、昭和40年代頃まで、織物工場として稼働していた。現在は、五人のアーテストのアトリエ(工房)になっており、アーティスト全員の苗字の一部を取って、「工房・金田丸岡平」と名付けられている。なお、ポピュラーな鉄筋コンクリート造りであるが、当時は珍しかった。桐生は冬の季節風が強い土地柄であるので、蒸気式床暖房も備えた最新工場であった。

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(旧・住善織物工場/現・工房金田丸岡平。)

中通りの交差点に出ると、旧・斎憲テキスタイル工場【緑色マーカー】がある。昭和2年(1927年)築の大谷石造りノコギリ屋根工場で、今は、輸入ワイン貯蔵庫になっている。なお、「テキスタイル」は聞きなれない言葉であるが、織物の事である。


(旧・斎憲テキスタイル工場/現・輸入ワイン貯蔵庫。)

当初、三連だったそうだが、北側を増設して、五連になっている。また、道路拡張の為に西側部分が削られ、大谷石が無くなっている。建物の南側や東側には、当初の大谷石の石積みが残る。

再び、桐生天満宮大鳥居【鳥居マーカー】まで戻り、駅の方に戻りながら、本町通り周辺の旧家や工場跡を見て行こう。この本通りには、町銭湯の一の湯【水色マーカー】が残っている。隣接する織物工場の工員が利用した公衆浴場で、数少ない町銭湯として、今も営業している。丁度、薪を満載した軽トラックが停まっており、昔ながらの薪炊きらしい。

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(一の湯と薪を積んだ軽トラック。)

なんと、明治期の建物だそうで、創業100年を超えている。渋い木造建築の風合いと、油井型の細目の煙突が時代を感じさせ、レトロな雰囲気がいっぱいである。地元周辺の銭湯マニアには有名で、畳敷きの脱衣所と木造番台、小さな木壁浴場とタイル絵がある昔ながらの銭湯になっている。再訪問時には、是非、寄ってみたい。なお、入浴料も、大人360円(群馬県公定料金)と安い。


(手書きのウェルカム看板も味がある。)

(格子窓デザイン美しいの玄関周辺。)

【一の湯のご案内】
営業時間・午後3時から午後11時まで(組合協定による)、
休業日・毎月7日、17日、27日(他に不定期休もあり/組合協定による)、
駐車場あり。
入浴料金・大人360円(大人は中学生以上/群馬県公定料金・平成9年12月から)。

本町1丁目バス停の前には、石造りの小さな店「和ざかな工房」【黄色マーカー】がある。ガラス工芸品の販売店で、可愛らしいガラス製のトンボ玉やアクセサリーが、ウインドウ越しに並んでいる。なお、この建物も、織物工場の事務所であった。毎週末とイベント日(桐生天満宮の骨董市等)のみの開店になるとの事。

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(和ざかな工房。)

森合資会社の南には、旧・北川織物工場の大工場跡があり、芸術工房・無鄰館(むりんかん)【紫色マーカー】になっている。昭和35年(1960年)頃に織物工場は廃業し、現在は、地元桐生の文化発信地として、芸術家に間貸しをしている。敷地内の建物は、主に大正時代のもので、40間(約72m)の敷地奥行きに、ノコギリ屋根工場、主屋や土蔵等が、ほぼ当時のままに残り、国の登録有形文化財に指定されている。なお、本町通りに面したノコギリ屋根工場は、急傾斜屋根の採光面が北側ではなく、道路側の南東に向いているのが、大変珍しいとの事。


(旧・北川織物工場/無鄰館の本通り側工場跡。)

敷地内の外観は見学できるそうなので、お邪魔してみよう。敷地の中央部には、立派な純和風造りの家屋があり、オーナー宅だったと思われる。


(オーナー住宅と思われる、立派な日本家屋。)

敷地の一番奥の西寄りには、もうひとつ大きな工場跡があり、無鄰館の玄関口がある。今日は、誰も居ない様子で、ひっそりとしている。この建物も、ノコギリ屋根になっており、屋根上南側には、出窓タイプの換気口がある。当初の工場は、大正5年(1916年)に竣工し、後の大正10年(1921年)には、正面の南側、西側、北側の三方向に増築された為、建築当初の部分は屋根のみが外観から判るそうだ。当初の工場は、東西方向に桁行約22m、梁間約7.3mであり、ノコギリ屋根の建物が二連並んでいた。なお、当時の設計図も残っているとの事。

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(無鄰館玄関口。大正10年の増築部分になる。)

(工場と社。小さな空間だが、何故か、ホッとする雰囲気がある。)

工場の南東正面側に、和風建築の工場部分とは違う、洋風の造りの事務所跡がある。大正10年(1921年)に増築された部分であるが、昭和3年(1928年)に洋風に改装されたとの事。事務所の裏手には、二階建ての蔵も残っている。また、工場の北側には、先程の女工宿舎の防火煉瓦壁や防火塀が残っている。


(本町通り側から、無鄰館玄関周辺と事務所跡。)

この北川織物は、江戸時代の天保年間(1840年頃)創業の老舗であった。明治5年(1930年)に、近代的な織物工場を設置し、ちりめん(縮緬)等の高級絹織物を生産した。しかし、戦時の金属不足による機械供出により、本格的な絹織物生産は太平洋戦争までで、戦後は、人絹(じんけん/人造絹糸・レーヨン)の生産をしたり、倉庫や金属加工工場として利用されたと言う。その後、平成12年(2000年)に、無鄰館として、オープンしている。

【無鄰館の見学について】
外観見学は自由(朝10時から夕方16時まで)、見学無料(内部の部屋利用は有料)。
アトリエ内部の見学については、作家(アーティスト)に直接連絡が必要。

◆国登録有形文化財リスト◆
「旧・北川織物工場(現・無鄰館)」

所在地 群馬県桐生市本町1丁目5-5
登録日 平成17年(2005年)11月10日
年代 大正5年(1916年)竣工、大正10年(1921年)増築
構造形式 [工場]
木造造平屋建(ノコギリ屋根)、キングポストトラス組み・ボルト締め
(天井無し)、桟瓦葺(北側採光面)・鉄板葺(南側)、外壁下見張り、
建築面積597m²。
[事務所]
木造切妻造、桟瓦葺、建築面積91m²、一部を洋風に改装(昭和3年)。
[蔵]
木骨土蔵造二階建、切妻桟瓦葺、外壁モルタル塗り、建築面積17m²。
特記 [工場]
敷地中央西寄に南面して建つ木造の工場。
桁行22m、梁間7m、東西棟の瓦及び鉄板葺屋根が鋸歯状に二列並び、
それぞれの屋根南面に換気口が4つ取付く。
西面、背面に増築された鋸屋根と共に、
織物の町・桐生市に特徴的な歴史的景観を形成する。
[事務所]
工場主屋南東角に取付く切妻造桟瓦葺の木造平屋建である。
南を正面とし、西端は工場主屋正面増築部の東端と壁を共有する。
現在は、外観にモルタル塗のパラペットを立上げるが、
当時は工場主屋と一体的に使われ、工場の様子を今日に伝える。
[蔵]
事務所の背面に建つ桁行4.8m、梁間3.9m、
切妻造桟瓦葺、南北棟の土蔵造二階建である。
妻は大谷石の切妻壁を立上げ、外壁と共にモルタル洗出しで仕上げる。
内庭からの景観を特徴づける。設計は文部省技師・山田太市。

※文化庁の文化遺産データベースを参照・編集。

(つづく)


【歴史参考資料】
桐生本町1・2丁目まち歩きマップ(桐生市・平成19年発行)

【謝意】
無鄰館の敷地内写真掲載について、桐生市教育委員会さまを通じて、
無鄰館さまに承諾を頂いております。厚く御礼申し上げます。

2017年11月26日 ブログから保存・文章修正・校正

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