わ鐵線紀行(21)大間々駅 その2

国鉄風の鉄骨製跨線橋を降りると、下り1番線ホームの立派な木造旅客上屋に接続している。見上げる様な高さであるが、蒸気機関車時代の客車ホームのままになっており、これが本来の高さである。


(跨線橋上から、下り1番線旅客上屋。トタンは、葺き替えられている。)

今の車両に合わせ、ホームが嵩上げされた古い木造旅客上屋の場合は、縦に寸詰まりな感じがするが、この駅は伸び伸びとした開放感がある。梁構造は簡易な造りになっており、斜め梁が柱上部から大棟部まで直接伸び、屋根裏のクリーム色に塗られた羽目板が、綺麗に並んでいるのが印象的である。


(下り1番線旅客上屋下。※追加取材時に、南側桐生方から撮影。)

旅客無煙化後、車両乗降扉との段差解消の為に嵩上げされる場合が多く、この規模の主要駅において、開業当時のままの現役であるのは、大変貴重である。なお、上り2番線ホーム中央部は嵩上げされているが、下り1番線ホームは全く嵩上げされていないのも珍しい。

明治末期に造られた下り1番線ホームは、国の登録有形文化財に指定されている。旅客上屋は、その後の昭和4年(1929年)に建てられたものである。


(上り2番線ホーム南端から、下り1番線ホームの旅客上屋全景。)

現在の電車用ホームよりも、約40cm低い高さ760mmの客車ホームは、視覚的にはもっと低く、レールが間近に感じられる。擁壁は、間知石(けんちいし※)の二段練り積みになっている。


(下り1番線ホーム線路側。)

(ホーム下のバラストの薄い線路には、小花が咲いていた。)

跨線橋よりも南側の桐生方は、国鉄時代の昭和53年(1978年)に、コンクリートパネルの近代化ホーム(長さ39m)を増設している。また、増設の際、南側の客車ホームの一部が取り壊されている。


(桐生方の下り1番線増設ホーム。)

旅客上屋に取り付けられたホーロ製柱駅名標や吊り下げ式駅名標も、この古い木造旅客上屋によく似合っている。どちらも、国鉄時代のものであろう。改札前の吊り下げ式駅名標は、電光装置の無い一枚板タイプになっており、白色地でなく、昔ながらの紺色地であるのが懐かしい。なお、下段広告の「赤城山」は、地元酒造所の有名地酒銘柄である。


(ブリキ製の柱駅名標。駅事務室前に木製もある。)

(改札前の吊り下げ式駅名標。戦後国鉄時代のものと思われる。)

ホーム幅はとても広く、駅舎本屋と大きな公衆トイレがホーム西側に接している。駅舎床面は、ホームよりもやや高く、改札口前に傾斜がある。


(改札口周辺。木製柱駅名標もある。)

ホーム中央の駅事務室前には、転轍機(ポイント)操作てこの扱い所跡が残る。一段高いコンクリート台にあったらしく、てことワイヤーが通る穴は埋められている。後ろの壁には、国鉄時代のカーキャッチャー(制動靴※)も置いてある。


(転轍機操作てこ扱い所跡とカーキャッチャー。)

平成24年(2012年)、下り1番線ホーム間藤方には、わたらせ渓谷鐵道オリジナルキャラクター「わっしー」の記念撮影コーナーが出来た。トラック配送に使う鋼鉄製のカゴ台車(ロールボックスパレット)に、パネルを取り付けてある顔出しタイプ看板である。


(わっしー記念撮影看板。※追加取材時に撮影。)

下り1番線北側の駅舎本屋並びには、貨物ホーム跡が残っている。現在は、トロッコ列車「トロッコわたらせ渓谷号」の乗車ホーム兼留置線になっている。0番線になっているこのホームの長さは80m位あり、フェンスで囲まれている。

貨物上屋は、鉄骨柱の波形スレート変形屋根(※)になっており、国鉄時代後期のものであろう。今は、直営の月極兼観光用駐車場(普通車1日500円)として、使われている。


(元・貨物ホームの0番線。※追加取材時に撮影。)

(駅舎側の0番線車止め部。そのまま、駅舎に突き当たっている。)

ディーゼル機関車を機回しする為、本線側に機回し線があり、スプリング式手動転轍機(ポイント)が設置されている。車止め付近はスペースがあり、元の貨物側線は、頭端式二線であったらしく、後年に配線変更された可能性がある。


(0番線から、本線間藤方を望む。※追加取材時に撮影。)

(スプリング式手動転轍機。夜間認識用ランプと転轍機標識(矢羽根板)も付いている。)

下り1番線の旅客上屋北端は、貨物ホーム側の軒先がカットされ、切羽板が並んでいる。ペンキが剥げた風合いが、長い歴史を感じさせる。


(下り1番線ホーム北端部。)

◆国登録有形文化財リスト◆
「わたらせ渓谷鐵道大間々駅本屋及び下り線プラットホーム」

所在地 群馬県みどり市大間々町大間々1360-1他
登録日 平成21年(2009年)11月2日
登録番号 10-0301
年代 明治44年(1911年/プラットホーム)
昭和4年(1929年/旅客上屋)
昭和16年(1941年/駅舎本屋を建て替え)
昭和53年(1978年/下り1番線南側に近代化ホームを増設)
構造形式 [駅舎本屋]木造平屋建、瓦葺、建築面積166㎡。
[プラットホーム]石造、延長73m、上屋付。
特記 駅舎本屋は木造平屋建。南北棟の切妻造セメント瓦葺の主棟に、
直交する切妻屋根を架け、正面玄関とする。
外壁は白色モルタル仕上げ。簡明な駅舎建築。
東方に当初の延長73mのプラットホームを接続し、木造上屋を設ける。

(文化庁公式ページの国指定文化財等データベースを参照・編集)

(つづく)


(※間知石)
個並べると1間(1.8m)になる石材。正面は平面、背後は角錐型になっている。
(※カーキャッチャー/制動靴)
勾配が連続する路線では、留置車両がひとり勝手に走行をし、事故を起こす危険がある。過去例では、数kmもの下り勾配を下り、他車や駅構造物に衝突し、大惨事になる事もあった。鉄道現場では、「流転(るてん)」と呼ばれる車両逸走事故は、特に注意が払われている。カーキャッチャーは制動靴の通称名であり、昭和47年(1972年)に開発整備された鉄道保安器具である。レールの上に一対を固定し、逸走してきた車両の車輪に挟み込み、摩擦で停止させる。
(※スレート屋根)
セメントと石綿(アスベスト)を混ぜて固め、着色した屋根材。高耐久、手入れ不要、高遮音性、不燃性、重量も価格も瓦の半分であった為、よく使われていた。

2017年8月12日 ブログから保存・文章修正・校正
2017年8月12日 文章修正・音声自動読み上げ校正

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