近江信楽線紀行(9)日野駅 その1

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雲井1602======1618貴生川
信楽高原鐵道・上り538D普通・貴生川行き・SKR310形(311)単行
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今日は帰京しないといけないので、この信楽高原鐵道とも、お別れである。16時02分発の貴生川行き上り538D列車に乗車し、この雲井駅を出発。後尾運転席横に陣取り、紫香楽宮跡駅を過ぎた先の事故現場で合掌をする。そのまま、小野谷の狭小部に入り、今度は、長い下り急勾配を抑速ブレーキを利かせながら、グイングインと滑る様に列車は下って行く。

16時18分に貴生川駅に到着。約10分の接続で、近江鉄道へ乗り換えになる。16時を過ぎているが、空はまだ明るいので、もう一駅ならば、立ち寄る事が出来そうである。それならば、往路で目を惹き付けられた、日野駅に寄ってみよう。あの古い木造駅舎の駅ならば、この旅の締めにベストと感じる。

発車前に、列車最後尾の乗務員室を覗いてみる。この800形は、元・西武鉄道401系電車で、運転台右側の巨大なブレーキ弁に驚く。元車の空気式ブレーキを、電気指令式ブレーキに自社改造したそうで、その技術力には脱帽である。


(近江鉄道800形の運転台。)

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貴生川1627======1645日野
近江鉄道本線・上り普通・米原行き・800形(805編成)2両編成
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水口丘陵(みなぐち-)と清水山トンネルを越えて、貴生川駅から約20分で、日野駅に到着する。駅舎向かいの2番線ホームに下車すると、乗車してきた800形805編成が、直ぐに発車して行く。


(発車する805編成と日野駅全景。)

この駅は有人駅らしいので、先ずは、見学と撮影許可を貰おう。ローカル線は乗客が少なく静かな分、許可無しの撮影は不審に思われる上、鉄道会社の職員にとっては職場なので、都市部の駅とは勝手が違う事を理解したい。初老の駅長氏に快諾して貰い、尋ねると、この木造駅舎は開業当時のものとの事。また、関東からやって来た、鉄道ファンも珍しい様子で、大変驚かれた。


(下り2番線ホームからの駅舎本屋。)

(改札前に、大きな構内踏切がある。)

日野駅の開業は、明治33年(1900年)10月であり、この木造駅舎は築110年を超えている。大正から昭和初期に建てられた有人駅であれば、状態が良いのものも見受けられるが、流石にこの経年になると、各部の傷みも激しい様である。なお、民営鉄道最古の現役駅は、南海鉄道浜寺公園駅と言われているが、明治40年(1907年)築であり、この日野駅の方が更に古く、大変貴重になっている(※)。

また、起点の米原駅からは、37.8km地点、19駅目、所要時間約1時間25分、滋賀県蒲生郡日野町内池(がもうぐんひのちょう-)、標高160mの時間限定有人駅である。近江鉄道本線の主要駅のひとつで、構内は広く、千鳥式ホーム二面三線に中線や引き上げ線があり、この駅発着の列車もある。


(古い電光式駅名標。戦後昭和のものであろう。)

この日野町は、鈴鹿山脈が西に伸びた山裾の麓にある城下町で、出雲川沿いの東西に長い谷間に町並みが形成され、駅は西端の玄関的位置にある。かつては、伊勢詣の街道筋として、また、近江商人発祥の地として栄えた。戦国時代の有力武将の一人で、後に会津を治めた、蒲生氏郷(がもううじさと)の出身地でもある。


(グーグルマップ航空写真・蒲生郡日野町周辺。)

駅舎は大変大きなもので、中に入ると、天井も高く、窓枠も木のままである。約20畳の大きな待合室の左手奥にも、待合スペースがあり、L字になっている。天井下には、古い大型電光式バス時刻表もある事から、日野町周辺へのバス乗り継ぎの乗客も多かったのであろう。


(大きな待合室と改札口周辺。)

(使われなくなったバス時刻表。改札口の反対側天井にある。)

(改札口上の駅時刻表。八日市方面よりも、貴生川方面の列車本数が多い。)

改札口は、木製引戸がある鉄製ポール製で、一段高くなる踏み板付きの珍しい構造である。しかし、コンクリート床が剥がれているので、後年に取り替えられたらしい。また、出札口の横窓を開ければ、改札に出なくても、業務ができる構造になっている。ちょっと、出札口を覗くと、硬券切符も多数置いてる様である。


(ホーム側からの改札口。)

出札口の並びには、旧出札口と鉄道手小荷物窓口(チッキ)跡と思われるスペースがあり、装飾付き天受けの長いテーブルが残っている。現在の出札口は、窓の高さが違うので、増築された部分と思われる。また、かつての近江鉄道では、貨物輸送も盛んであった。民営鉄道でありながら、貨物や鉄道手小荷物に留まらず、郵便も輸送し、専用の郵便車(電車牽引のユニフ)や郵便電車(ユニモ)も存在した。


(旧出札口・鉄道手小荷物窓口跡。)

外に出てみよう。出入口上に箱型の車寄せがあるのが、個性的である。駅前には、バスが転回出来る程の大きなスペース、数軒の個人商店と観光案内所がある。駅から東に3km程行くと、旧城下町の古い町並みがあり、見所も多い。
日野観光協会公式HP


(駅前からの日野駅。)

(駅前の民家。歓迎看板が沢山取り付けられている。)

駅の近くには、本場近江牛の専門店がある。創業60年の老舗精肉店の「寿屋」は、車の出入りも多く、この近辺の有名店らしい。三大ブランド牛の近江牛を、一度、腹いっぱい食べてみたい。


(寿屋精肉店。毎週水曜日定休、8時から19時営業。)

待合室内に差し込む斜陽も、旅情を誘う光景である。


(駅出入り口から。)

(つづく)


(※浜寺公園駅と日野駅)
浜寺公園駅は、平成28年(2016年)に現役を引退し、移築保存となる予定。日野町と近江鉄道では、日野駅の補修保存工事を行っている。

2017年7月17日 FC2ブログから保存・文章修正(濁点抑制)・校正
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