近江信楽線紀行(3)貴生川へ

八日町駅は、ジャンクション駅らしく、電車が次々と入れ替わりに発着する。関東の鉄道と違い、全面広告ラッピング車が多いのも特徴で、経営の苦しい地方民営鉄道にとっては、スポンサー企業があるだけでも、ありがたい。主力の近江鉄道800形電車は、少しくすんだ感じの黄色が標準色であるが、広告ラッピングの違いが楽しい車両で、西武鉄道からの譲渡車を自社向けに使い易く改造している。


(標準色の少しくすんだ黄色の800形電車。左から、807編成、806編成。)

(手前は808編成。奥は802編成で、大阪の有名コーヒー飲料メーカーの広告ラッピング車。)

近江鉄道は、彦根に自社車両工場を有し、車両の大改造を行える程の高い技術力がある。西武鉄道からの譲渡車や廃車のまだ使える部品を利用し、改造しているそうである。この、有名茶飲料メーカー広告ラッピングの単行電車220形電車は、色々な車両からの部品を組み合わせた、近江鉄道オリジナルの更新車両で、物資の少ない戦前や終戦直後は良く見られたが、近年では、大変珍しい。全体の違和感が無く、デザイン的に良く纏まっているのも、感心する所である。


(オリジナルの組み立て電車である、220形電車。)

次の下り貴生川行き電車まで、少し時間があるので、駅舎内で待とう。八日町駅は、近代的な鉄筋コンクリート駅舎になっており、大きな三角屋根がとても印象的である。近江鉄道本線とJR近江八幡駅を結ぶ短絡線の八日市線が分岐する、三方分岐地点であり、構内は二面三線のホームが南北に配され、側線や電留線も多く設置されている。なお、近江鉄道の本社は、ここになく、彦根市古沢町にある。

駅の開業は、民鉄としては大変古く、明治31年(1898年)7月開業、起点の米原駅から25.3㎞地点、所在地は東近江市八日市浜野町、標高128mの終日社員配置有人駅である。また、新しい駅舎であるが、「第一回近畿の駅百選」の認定駅でもある。


(駅舎出入口。三角屋根の上部側壁は、大型ガラスを嵌め込んでいる。)

(改札口周辺。自動改札機は無く、昔ながらの金属製改札ボックスがある。)

(駅時刻表。日中は、本線よりも、八日市線の方が本数が多い。)

駅出入口横には、大壁画が設置されているのも、この駅の名物になっている。額田王(ぬかたのおおきみ)と大海人皇子(おおあまのおうじ/後の天武天皇)を描いたもので、7世紀頃、当時は蒲生野(がもうの)と呼ばれた、八日市付近での天皇や朝廷高官達の遊猟の様子と、詠われた万葉を描いたものとの事。

茜さす 紫野(むらさきの)行き 標野(しめの)行き 野守は見ずや 君が袖振る

(詠人・額田王ぬかたのおおきみ/万葉集第38葉・巻1・20 より。)


(万葉大壁画。)

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八日市1003======1043貴生川
近江鉄道本線下り普通列車・貴生川行き
800形(801編成)2両編成
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そろそろ、下り貴生川行き列車の時間である。近江鉄道主要駅のこの八日市駅から、更に、本線終点の貴生川駅に向かおう。米原方から、黄色い800形電車801編成が、本線下り1番線に入線して来る。

この先の本線22.4km区間は、よりローカル度が増して、駅間距離も大分伸び、ホーム上の待合所のみの小さな駅も多くなる。桜川駅、日野駅と水口駅(みなくち-)の三駅には、木造駅舎も残っている。


(八日市駅1番線ホームに到着する、下り本線貴生川行き列車。)

八日市駅を、定時の10時03分に発車する。乗客は、八日町駅で大分下車しているので、10人位である。線路は暫く南進し、その先の日野駅付近で、再び西に進路を変える。丁度、逆L字の様になっており、鈴鹿山脈から西に伸びた山裾を、かすめる様に走る。

列車は、古代からあると伝わる、溜池が多い水田地帯の中を暫く南進する。この付近の標高は、120-140m位であり、険しい山はないが、鈴鹿山脈山裾の低山帯が所々にある。周辺の雰囲気としては、山と山の間にある平地に大水田が広がり、この近江鉄道は、その中に点在する集落を結んでいる感じである。

八日町駅からふたつ目の大学駅前駅を過ぎると、布施山東麓の低山帯の切り通しを越え、視界が開けると、再び水田地帯の中を、日野川の東岸に沿って走る。そして、木造駅舎と貨物側線が残る桜川駅を経て、次の大きな駅の日野駅に到着する。鈴鹿山脈西麓の中心町で、近江商人の発祥の町の玄関駅である日野駅は、とても古い大型木造駅舎と旅客上屋等があり、その古さと大きさに驚いてしまう。是非、帰りに寄ってみよう。


(日野駅の駅名標。)

日野駅を発車し、線路は西に大きく向きを変える。この先の区間は、明治33年(1900年)の開通で、人家も少なくなり、荒れ地や田圃が多くなる。うら寂しさも急に増して、近江鉄道本線内の一番ローカルらしい場所である。なお、近江鉄道のレールは、開業の古いローカル線の標準的な30kgと37kgレールが殆どであり、この区間は道床も弱い様で、車両の横揺れも大きくなってくる。


(日野〜水口松尾間。※上り米原行列車最後尾から、貴生川方を撮影。トリミング処理済み。)

日野川を渡り、この先の水口丘陵低山帯の狭小部に入ると、古い立派なレンガポータルの清水山トンネル(全長147m)に突入する。現役の明治時代のレンガトンネルで、竣工から120年近いものである。トンネル内に半径400mのカーブがある事や、安全確保の為、時速20kmの速度規制になっている。なお、この付近の標高は190m程度である。
国土地理院地図電子国土web・近江鉄道清水山トンネル


(清水山トンネル。※上り米原行列車最後尾から、貴生川方を撮影。トリミング処理済み。)

トンネルをゆっくりと抜け、狭小部出口にある水口松尾駅を過ぎると、左側の視界が開けて町並みが見え、甲賀市に入る。そして、列車交換設備と木造駅舎も残る主要駅の水口(みなくち-)駅に到着する。

野洲川中流にあるこの水口は、東海道水口宿が置かれた大きな城下町で、町内には、水口の名を冠した四つの駅が設置されている。水口丘陵の狭小部にある北側の町外れの団地の近くに水口松尾駅、中心地にあるこの水口駅と、水口駅から南側貴生川方にも、水口石橋駅と水口城南駅のふたつの小さな駅がある。


(水口駅。※上り米原行列車最後尾から、貴生川方を撮影。トリミング処理済み。)

ふたつの小駅を順に停車し、水口城下の町を抜けると、野洲川橋梁(長さ213m)を渡る。そして、大きく90度左カーブをして、JR草津線の線路と並行になると、彦根駅から1時間40分をかけて、本線終点の貴生川駅に到着。ここで、信楽高原鐵道に乗り換えになる。なお、この貴生川は単独の町と思いきや、旧村名の合成地名であり、ここも甲賀市水口町内になる。


(駅名標。)

(近江鉄道貴生川駅の改札口周辺。)

(つづく)


進行方向の前面展望撮影は、運転士の運転業務や乗降客の精算の支障となる為、
帰りの上り列車最後尾から終点の貴生川方を撮影。

2017年7月16日 FC2ブログから保存・文章修正(濁点抑制)・校正
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